▲合田直弘が海外競馬の「今」を詳しく解説!(c)netkeiba【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】
◆“ダービー馬”へのカギは距離延長
5月15日にヨーク競馬場で行われたG2ダンテS(芝10F56y)をもって、G1英ダービーへ向けた一連の前哨戦が終了。6月7日にエプソム競馬場で行われる第246回G1英ダービー(芝12F6y)の勢力分布が、ほぼ明らかになった。
ブックメーカー各社が3.5倍から3.75倍のオッズを提示し、前売り1番人気に支持しているのが、昨年シティオヴトロイでこのレース10度目の優勝を果たし、英ダービーにおける歴代最多勝利調教師となっているA.オブライエンが管理するドラクロワ(牡3、父ドバウィ)だ。
デビューしたのは2歳7月で、2歳シーズンは5戦。G3オータムS(芝8F)を含む2勝を挙げたほか、G1フューチュリティトロフィー(芝8F)2着などの成績を残した。今季も既に2戦しており、3月30日のG3バリーサックスS(芝10F)を2.1/4馬身差で、5月11日のG3愛ダービートライアルS(芝10F)を2.3/4馬身差で、いずれも勝利を収めての参戦となっている。
ゲートを出るとすかさず好位をとることが出来るセンスの良さがあり、追われての反応もよく、競馬っぷりは安定している。
あとは、距離延長に対応できるかどうか。父は万能型で、12Fを越える距離を主戦場とする産駒も多数送り出しているが、一方で母は、G1クイーンアンS(芝8F)、G1BCマイル(芝8F)など8F〜8.5FのG1を6勝した名牝テピンだ。デラクロワは、その4番仔となる。母の父がバーンスタイン、祖母の父がストラヴィンスキーと、いずれも7F以下を主戦場とした種馬が配合されており、距離延長大歓迎という血統背景ではなさそうに見える。
オッズ4.0〜4.5倍で前売り2番人気に推されているのが、英2000ギニーに続く二冠を狙うゴドルフィンのルーリングコート(牡3、父ジャスティファイ)だ。チャーリー・アップルビー厩舎から2歳7月にデビュー。サンダウン競馬場のメイドン(芝7F)を制し緒戦勝ちを飾ったが、続くヨーク競馬場のG3エイコムS(芝7F)では、ザライオンインウィンターに2.1/4馬身差及ばぬ3着に敗退。この2戦のみで2歳シーズンを終えることになった。今季初戦となったのが、3月1日にドバイのメイダン競馬場で行われたLRジュメイラ2000ギニー(芝1600m)で、ここを6馬身差で快勝。続いて出走したG1英2000ギニー(芝8F)を制し、G1で重賞初制覇を果たした。
この馬も、二冠達成のカギを握るのは、一気に約4ハロン延びる距離への対応だろう。母は米国で走り、G3ミントジュレップH(芝8.5F)3着など2重賞で入着したインチャージオヴミーで、ルーリングコートはその3番仔となる。
父は昨年、シティオヴトロイという英ダービー馬を送りだしたジャスティファイ。母の父は英ダービー馬ハイシャパラルで、祖母の父は2頭の英ダービー馬の父となっているケープクロスと、血統構成は12Fへの適性を示唆しているが、果たしてどうか。
オッズ4.5〜6.0倍で、3番人気を争っているのが、プライドオブアラス(牡3、父ニューベイ)と、ザライオンインウィンター(牡3、父シーザスターズ)の2頭である。
R.ベケット厩舎のプライドオブアラスがデビューしたのは2歳8月で、サンダウン競馬場のメイドン(芝8F)を制しデビュー勝ち。その後はシーズン終了まで出走せず、1戦1勝で2歳シーズンを終えた。今季初戦となったのが、5月15日にヨーク競馬場で行われたG2ダンテS(芝10F56y)で、すなわちそこは9か月の休み明けだったが、道中5〜6番手を追走から、直線残り300mで馬群の隙間をこじ開けるようにして抜け出して優勝。無敗の重賞制覇を果たした。
父ニューベイ自身は12Fも守備範囲にあった馬だが、産駒は多くが8F〜10Fを活躍の舞台としている。母の父は5〜6FのG1を3勝しているオアシスドリームで、叔母のキサブルはG1モイグレアスタッドS(芝7F)3着馬だ。その一方で、牝系をもう少し掘っていくと、G1セントレジャー(芝14F115y)勝ち馬ブライアンボルーや、G1英ダービーとG1凱旋門賞(芝2400m)を制したワークフォースらの名前が出てくる。
3番人気を争っているもう1頭のザライオンインウィンターは、競馬ファンの皆様にはよくご承知のように、シーズンオフを通じてダービーの前売り1番人気の座にあった馬である。
A.オブライエン厩舎から2歳7月にデビュー。カラ競馬場のメイドン(芝7F)を制して臨んだヨーク競馬場のG3エイコムS(芝7F)を快勝し、無敗の重賞制覇を果たした。
その後は、10月のG1デューハーストS(芝7F)に向けて調整されたが、挫石を起こして当日朝に出走を取り消し、2歳シーズンを2戦2勝で終えることになった。
オブライエン師から、ザライオンインウィンターの「調整遅れ」が発表されたのが今年3月のことで、三冠初戦のG1英2000ギニーを回避。同馬の今季初戦となったのが、5月15日のG2ダンテSで、同馬はオッズ1.72倍の1番人気に推された。前半5番手を追走した後、残り2Fから鞍上R.ムーア騎手が追い出したものの、反応が鈍く、勝ち馬プライドオブアラスから4馬身差の6着に敗退。その瞬間に、前売り1番人気の座から陥落することになった。
父シーザスターズは英ダービー馬で、母ホワットアホームはG3ピナクルS(芝11F175y)3着などの実績を残した馬だ。叔母にG3ミュンスターオークス(芝12F)、G3ギヴサンクスS(芝12F)という2重賞を制した他、G1愛オークス(芝12F)2着など4つのG1で入着を果たしたヴィーナスデミロがいるという血統背景は、明らかに12F向きで、だからこそダービーの本命と目されてきたのだが。
管理するエイダン・オブライエンは、23年のオーギュストロダン、24年のシティオヴトロイと、いずれもシーズン初戦で完敗を喫した馬を、短期間で立て直し、英ダービー制覇を成し遂げた調教師である。果たして今年もオブライエン・マジックが見られるかどうか。
ここまでの4頭が10倍以下のオッズで、以下、G2ダンテS2着のダミサス(牡3、父フランケル)が11〜13倍、G1クリテリウムアンテルナシオナル(芝1600m)勝ち馬で、予定をしていたG1英2000ギニーをスコープ検査の結果が芳しくなく回避したトウェイン(牡3、父ウートンバセット)が11〜15倍、5月7日にチェスター競馬場で行われたG3チェスターヴァーズ(芝12F63y)を勝っての参戦となるランボーン(牡3、父オーストラリア)が15〜17倍と続いている。