
千葉市若葉区の住宅街の十字路付近で、5月11日の午後5時過ぎ、後ろから刃物で刺された女性は横たわるように倒れた。
「少年院に入れば家を出られる」
「夫が警察官から“被害者の身元確認のため写真を確認してほしい”と頼まれたんです。写っていたのは顔が血まみれのおばあちゃんだったそう。道で転んでケガを負ったのかなと思っていたところ、ニュースで事件の被害者と知って驚きました」(事件現場近くに住む70代女性)
通行人から通報を受けた警察・救急の車両はサイレンを鳴らして次々と現場に駆けつけ、病院に搬送された被害女性は同日、死亡が確認された。
翌12日、千葉県警が殺人の疑いで逮捕したのは、同区に住む中学3年の男子生徒(15)だった。家庭環境への不満があったようで、
「複雑な家庭環境から逃げ出したかった」
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「少年院に入れば家を出られる。長く入るには刃物で人を殺すのが確実だ」
「誰でもいいから殺してやろうと思った」
「自分より弱い人を狙った」
などと話しているという。
被害者は近くのマンションに住む無職・高橋八生さん(84)。背中に複数の刺し傷があり、2か所は肺を貫き、うち1つは心臓に達する傷だったというから強い殺意がうかがえる。
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司法解剖の結果、死因は外傷性ショックと判明。顔の血は鼻血とみられている。
被害者は身分を証明するものを所持しておらず、財布には約1万円が入ったままだった。
「十字路の先にある大型スーパーへ買い物に行く途中だったのかもしれません。自分が刺されていたかもしれないと思うと怖いです。背後に成人男性がいると気になりますが、これからは、未成年の男の子でも警戒してしまいそうです」(前出の70代女性)
別の70代女性は、
「近隣宅の防犯カメラに被害女性のあとをつけていく少年の姿と、犯行を終えて戻ってきたとみられる姿が映っていたそうです」
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と明かす。
少年は祖父母と父親、兄2人の6人家族だった。母親は離婚して別居していたという。
犯行後に帰宅して食べた家庭料理
逮捕当日の早朝、少年宅に10人ぐらいの警察官が来て「何で来たかわかるか」と言われた少年は、動揺も見せず受け止めたという。
「少年の父親は、それがショックだったようです。少年が変わり始めたのは中学生になってから。家族が勉強などに干渉するのを嫌がるようになり、会話もほとんどなく、家出や深夜帰宅を繰り返すなど、素行が悪くなったといいます。家族から警察に相談し、少年補導員が定期的に面談していました。数か月前から家族の手料理を食べなくなっていたそうです」(全国紙社会部記者、以下同)
警察は、少年の部屋から凶器とみられる血のついた刃物を押収している。
「学校では授業中に寝ていることが多く、友達と親しく接する様子もなかったといいます。遅刻の常習犯で、家族とケンカすると学校でも機嫌が悪くなったそうです」
家庭でも、学校でも、露骨に不機嫌な様子をみせた少年は、近所でも同じだった。
少年と面識のある80代女性が振り返る。
「彼が登校する際に“おはよう”と挨拶しても無視されました。それが2回。反抗期なのかなと思いましたが、下を向いて暗い感じで行ってしまうんです」
具体的に何が不満なのか。
少年の自宅を訪ねると、祖父が玄関から出てきて「弁護士から、これ以上しゃべらないように言われています。お話しできません」と告げて戻っていった。
祖母にも取材を申し込むと、やはり「弁護士から何も話さないように言われていますので」と頭を下げた。
家族全員と距離があったとされる少年について、前出の記者は言う。
「犯行後に帰宅した少年は、数か月ぶりに家族の作ったサラダを食べたそうです。祖父母は“誰でもいいなら私を殺してほしかった”などと報道陣に述べていました」
人の命を奪ってまで家を出たかったはずの少年は、逃走せず自宅に戻るしかなかったとみられる。凶行の背景には何があったのか。
心の中に踏み込まないのが現代の“親友”
『誰でもいいから殺したかった!』(ベスト新書)などの著書がある新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(社会心理学)は、思春期の少年少女についてこう指摘する。
「中学生ぐらいの少年少女にとっては、学校と家庭が世界のすべてなんです。その生活に不満があると、すべてがうまくいかないと思い込みやすい。周囲の大人は客観的に見て“理解者がいるはずだよ”などと諭しますが、響かない。
また、思春期に家庭に不満を持つのは不思議なことではありませんし、親を口汚く罵ることもあります。小学生までは父親や母親のあとをついていたのが、中学生ぐらいで友達を優先して大事にする転換期を迎えます。親のことをグチり合い、ストレスを発散するんです。その発散ができないと不満はどんどんたまります」
時代の流れで、少年少女の世代が築く交友関係にも変化がみられるという。
「以前は“親友”といえば、心の中にまで深く入り込んでくる存在でした。今は逆に、心の中には踏み込んでこない人が親友なんです。互いにそれがマナーであるかのように一線を引くんです。ネットなどで交友関係は広がり、軽い話はいくらでも楽しくできますが、深い悩みほど話せなくなります」(碓井教授)
若者は衝動性が高く、短絡的で、思い込みが激しいという。それでも犯罪に走るくらいならば家出したほうがよかったと思える。
「中学生にとって、家出は現実的な選択肢ではありません。まとまったお金を持っていませんから、友達宅に2泊程度のプチ家出がいいところで、お腹がすいたら家に戻るしかなくなります。見知らぬ土地で新生活を始めようにも、身分証なしに雇ってはくれません。ただ、中学3年生は高校受験を控えていますから、全寮制の高校に進学して家を出る道もあったはずです。
犯罪心理学で『ソーシャル・ボンド』という言葉があり、こんなことをしたら親が悲しむとか、友達を失うなどと考える社会的接着剤を指します。何かしら夢中になれるものや仲間がいれば、歯止めになった可能性もあるのですが」(碓井教授)
殺害された高橋さんは、夫と息子と暮らし、気さくで優しい人だったという。
現場にはたくさんの花が手向けられ、いなり寿司の供物も。お茶にようかんを供えて手を合わせていた市内の50代女性は言う。
「近所で起きた、こんな事件で亡くなって痛ましい。ご冥福をお祈りしました」
事件が起きた日は『母の日』。同世代の少年少女が少し照れくさそうにカーネーションを買って自宅に帰る中、逮捕少年は現場付近を歩き回って殺害相手を物色していたとみられる。
事情があったにせよ、奪った命は戻らない。