
3歳牝馬クラシックの第2弾、GIオークス(東京・芝2400m)が5月25日に行なわれる。
桜花賞馬のエンブロイダリー(牝3歳)の二冠達成なるかが注目されるが、その点において大きなポイントとなるのは、同馬が800mの距離延長を克服できるかどうか、だ。
そもそもオークスの距離延長においては、こんな定説がある。「3歳春時点の牝馬にあっては、距離適性はあまり関係ない。それよりも大事なのは、馬自身のポテンシャル。それさえ高ければ、距離が少々長くなっても克服できる」というものだ。
実際、過去10年のオークスでは、前走・GI桜花賞(阪神・芝1600m)組が7勝を挙げている。その詳細は、1着馬が4勝、2着馬が1勝、3着馬が1勝、そして昨年、桜花賞13着大敗からの逆襲を遂げたチェルヴィニアである。無論、オークス2、3着馬も桜花賞組が大半を占め、1〜3着までが桜花賞組だったことが3度もある。
言うまでもなく、桜花賞にはその世代におけるトップレベルのポテンシャルの持ち主たちが集結する。そして、同舞台で好走した馬、あるいは上位人気に推された馬の多くがオークスでも上位争いを演じている――つまり、先に触れた定説はかなり信頼性の高いものと言えるのではないか。
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であれば、今年の桜花賞(4月13日)を強い競馬で制したエンブロイダリーも、二冠達成の可能性は十分にある、ということになる。
ところが、関西の競馬専門紙記者はこんな見解を示す。
「エンブロイダリーにとって、オークスは厳しいレースになると思いますよ」
その理由の最たるものは、案の定、距離だ。同記者は、先述の定説についても「あながち間違いではない、という程度のもの。過去のオークスにおいて、ポテンシャルが高くても、距離の壁に泣いた馬は数多くいる」と言って、オークスで距離が800m延びることは、エンブロイダリーにとって「大きな試練になる」と見ている。
何より懸念されているのは、その血統だ。
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エンブロイダリーの父アドマイヤマーズは、国内外でGI3勝を挙げているが、そのすべてがマイル戦だ。母の父クロフネにしろ、父の父ダイワメジャーにしろ、2000m前後の距離はこなしているものの、それぞれが最も力を発揮したのは、芝ではマイル戦と言った印象が強い。決して、長い距離が向く血統ではないことは明らかだ。
次に、エンブロイダリーのここまでの臨戦過程である。とりわけ危惧されているのは、4戦目の1勝クラスで芝1400mのレースを使っていることだ。先の専門紙記者が言う。
「過去10年を振り返っても、キャリア4戦目に芝1400m戦を使われているような馬がオークスを勝ったことはありません。2018年に牝馬三冠を遂げたアーモンドアイがオークスまでの間に芝1400m戦を使われていますが、それは新馬戦でのこと。2016年の覇者シンハライトも2戦目、2015年の勝ち馬ミッキークイーンもデビュー戦でした。
しかし、エンブロイダリーの陣営は4戦目に芝1400m戦を選択。デビューから3戦ものレースを消化してきたなかで、マイルよりさらに短い距離に同馬の適性を感じていた、ということになります。それを考えれば、2400m戦への疑問が沸くのも当然でしょう。
加えて言えば、桜花賞後も『(エンブロイダリーの)次戦はオークスではなく、GINHKマイルC(東京・芝1600m)』といった噂が流れたほど。おそらく(陣営のほうでも)この頃はマイルに適性があると見て、『マイル戦を中心に使っていく』というプランがあったのでしょう。そうなると、距離延長への不安はますます増しますよね」
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懸念はまだある。それは、今年のオークスで予想される展開だ。
先の専門紙記者によれば、展開のカギを握るのは、前々走の1勝クラス・ゆりかもめ賞(2月9日/東京・芝2400m)で6着に敗れたあと、前走のGIIIフラワーC(3月22日/中山・芝1800m)で巻き返しを図ったレーゼドラマ(牝3歳)だと言う。そして、その想定から導かれる展開についてこう語る。
「レーゼドラマはその2戦とも、道中は逃げ馬の番手という位置取りでした。それで、前々走では追い出しを我慢しすぎて6着に敗れましたが、前走ではその反省から、3角すぎあたりから先頭に立って、そのまま押しきって完勝。この成功体験を鑑みれば、オークスでも早め先頭からの押しきりを狙うはずです。
そうなると、最後はスタミナの削り合いといった、ステイヤー資質を持った馬向きの展開になると見ています。少なくとも、オークスにありがちなスローの瞬発力勝負にはならないでしょう。そういった展開に、はたしてエンブロイダリーは対応できるのか、ということです」
桜花賞から800m距離が延びる樫の舞台への不安が尽きないエンブロイダリー。血統やレースぶり、さらには陣営や関係者の評価からしても、本質はマイラーである可能性は高い。
だが、桜花賞で手綱を取ったジョアン・モレイラ騎手が、レース後に「距離が延びてもやれる」と発言。それが、陣営がオークス出走を決断する大きな後押しになったという。
さらに、忘れてはならないのが、昨夏の未勝利戦(7月27日)だ。同馬は新潟・芝1800mの舞台で後続に7馬身差をつける圧勝劇を演じている。名手も認めるこのポテンシャルがモノを言えば、オークスで課せられた"試練"も難なく乗り越えてしまうかもしれない。