「改正マンション関連法」成立で何が変わる? “2つの老い”が進むマンション老朽化問題 解消の一手となるか

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2025年05月23日 10:50  TBS NEWS DIG

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外壁がはがれ落ちたり、地震で倒壊する危険があったり…。様々な危険をはらむ「老朽化マンション」の問題。こうした問題を解消するため、国会では「改正マンション関連法」が成立しました。「マンション」と「居住者」の“2つの老い”が進行するマンションの「再生」を推し進めることが期待されている改正法。そのポイントを詳しく解説します。

【画像・CGで詳しく見る】「改正マンション関連法」成立で何が変わる?

深刻化する“2つの老い” マンションの老朽化問題

1950年代半ばから始まった高度経済成長期以降、相次いで建設されたマンション。築40年以上のマンションは、2023年末時点で137万戸あり、20年後には約3.5倍の464万戸に上ります。こうしたマンションをめぐって指摘されているのが、老朽化による外壁の剥落や地震による倒壊の危険です。

震度6強から震度7の地震に耐えられることが目標とされている「新耐震基準」が導入されたのが1981年。築40年以上のマンションはこの「新耐震基準」を満たしていない可能性があります。そのため、発生が予想される「南海トラフ巨大地震」や「首都直下地震」で倒壊し、大きな被害を受けることが懸念されています。

そこで求められるのがマンションの「建替え」や「大規模修繕」ですが、そこにも、居住者の「老い」という、別の問題があります。

国土交通省によると、築40年以上のマンションでは、世帯主が70歳以上の住戸が半数以上を占めていますが、居住者の高齢化に伴い、マンションの「建替え」や「修繕」に消極的な人が増えているといいます。また、相続のタイミングなどできちんと所有者が登記されず、「所有者不明」となったり、空き家になったりする事例も相次いでます。さらに、投資目的の海外在住者など、連絡がつかない区分所有者も増えています。

このため、マンションの「建替え」や「修繕」を行おうと思っても、所有者が誰なのか、どこにいるのか、分からないケースが増えていて、集会で必要な決議を行うことが困難となってしまっているのが現状です。

「マンション」と「居住者」の“2つの老い”の進行が、マンション老朽化問題のボトルネックとなっているのです。

こうした課題に対応するため、きょう成立したのが「改正マンション関連法」です。

「改正マンション関連法」成立 柱の1つは集会決議の円滑化

改正法の柱の1つが、「集会決議の円滑化」です。

現在、マンションの「建替え」や「修繕」などの障壁となっているのが、集会決議のハードルの高さです。現行法では、「修繕」などの決議は「全区分所有者の多数決による」と定めていますが、決議に参加しない区分所有者は、「反対票」を投じたと見なされ、所在不明の区分所有者も「反対票」に含まれてしまっていました。

そこで、改正法では、すべての決議で、裁判所が認定した場合、所在不明の区分所有者を決議の母数から除外できる制度を導入することになりました。

さらに、「修繕」や「管理規約の変更」などの「区分所有権の処分を伴わない決議」については、「出席者の多数決による」としました。決議に出席しない「無関心の区分所有者」も、分母から除外することができるようになったのです。

入居者5人のマンションで「修繕」決議を行う例で考える

具体例を示します。「修繕」決議は、区分所有者の過半数の賛成を要するので…

Aさん:賛成 Bさん:賛成 Cさん:反対 Dさん:欠席(無関心) Eさん:欠席(所在不明) 

という決議が出た場合、現行法では、賛成2票(Aさん、Bさん)、反対3票(Cさん、Dさん、Eさん)となり、「賛成」は過半数を獲得できず、「否決」されることになります。

しかし、改正法では、裁判所が所在不明であるEさんの除外を決定すると、Eさんと、無関心のDさんが母数から除外され、賛成2票(Aさん、Bさん)、反対1票(Cさん)となり、「賛成」が過半数で「可決」されることになるのです。

マンション「再生」の決議も緩和 安全面での懸念がある場合はさらに緩和も

さらに改正法では、現在は区分所有者「全員の合意」が必要とされている「建物敷地売却」「取り壊し」「1棟リノベーション」等について、現行法の「建替え」と同様に、「5分の4以上」の賛成へと緩和しています。

「建替え」と「建物敷地売却」「取り壊し」「1棟リノベーション」等については、耐震基準に適合しないなど耐震性が不足していたり、火災に対する安全性が不足していたりする場合や、外壁などの剥落により周辺に危害を生じさせるおそれがある場合などは、多数決の要件をそれぞれ「4分の3以上」へと緩和しました。

このほか、政府指定災害によって被災した場合は、さらに多数決の要件を「3分の2以上」へと緩和することも盛り込まれています。

多様化する「建替え」のニーズに対応

多様化する「建替え」のニーズに対応するため、新たな制度も導入しています。

例えば、マンションの「建替え」の場合に多いのが、隣接している土地を取り込み、さらに大きなマンションとして建て替えるケース。こうした場合に課題となるのが、隣接している土地の所有者との合意の形成です。

改正法では、合意形成を円滑に行うため、隣接している土地の所有権を、「建替え」後のマンションの区分所有権と権利変換することを可能にしています。つまり、所有している隣接地をマンション側に譲る代わりに、建替え後のマンションの区分所有者になることができるのです。

隣接地の所有者にとっては、売買ではなく権利変換とすることで、税金面での負担が軽くなるほか、抽選不要でそのマンションに住むことができるなどのメリットも期待されるのです。

もう1つの柱 自治体の関与を強化する仕組み

そして、改正法のもう1つの柱が、地方自治体の関与を強化する仕組みの導入です。

老朽化したマンションが放置されると、外壁がはがれ落ちるなど、周囲の人にも危険を及ぼす恐れがあります。滋賀県野洲市では2020年、長年放置された老朽化したマンションを、市が約1億2000万円の費用をかけ、所有者に代わって強制的に取り壊す行政代執行に踏み切りました。

こうしたケースは自治体の負担が伴いますが、その費用をマンションの所有者などから回収できるかは不透明です。

今回の改正で、自治体は、危険な状態にあるマンションに対し、管理状況などの報告を求めることや、建替えや取り壊しなどの助言や指導、勧告が行えるようになります。

自治体が能動的に働きかけられる仕組みをつくることで、行政代執行にまで至るケースを未然に防ぐ狙いがあるのです。

マンション「再生」を進める一手となるか 来年4月1日施行

外壁の剥落や倒壊のほかにも、景観や治安の悪化など様々な問題をはらむ老朽化マンション。

政府は、改正法施行から5年以内に、マンションの「建替え」や「土地の売却」などの件数を、現状の470件ほどから、1000件まで引き上げることを目標に掲げています。

マンション「再生」を進める一手となるか。「改正マンション関連法」は来年4月1日に施行される予定です。

執筆者:TBSテレビ社会部 重松大輝

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