5月でも真夏日が観測され、本格的に、食中毒の警戒が必要な時期を迎えている。食品に限らず注意したいのは、「ペットボトルに入ったお茶」だ。
開封後のペットボトル飲料がどれほど傷みやすいのか、菌(細菌)の繁殖具合を観察した研究がある。2008〜2010年に厚生労働省の食品安全事業の一環で行われた『清涼飲料水の汚染原因物質に関する研究』だ。
この研究では、16種類の清涼飲料水について「一度開栓し、口をつけて飲んだ場合」の“腐敗性”が評価されている。室温25度で放置した場合、飲料内に含まれる菌や微生物にどんな変化があるのだろうか。
試験の結果、ペットボトルに口をつけて飲んだ場合は、コップに注いでから飲むよりも微生物に汚染される可能性が高いことが裏付けられた。そして「口飲み後一日の菌数」を比較すると、一番菌数が多いのは「ミルク入りコーヒー」、次点は「ミルク入り紅茶」という結果に。
これらの飲料は、腐りやすい牛乳が入っている、という点で菌の増殖は想像しやすい。しかし興味深いのは、同じ“お茶”でも、菌の増殖具合に差が出ているということだ。
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同研究では、無糖のお茶についても試験を実施。緑茶、烏龍茶、紅茶、混合茶(麦や玄米などのブレンド茶)の4種類について、「口飲み後一日の菌数」を見ると、混合茶がもっとも多く、次点がウーロン茶、緑茶で、紅茶が一番少ない。混合茶には、紅茶の倍程度の菌が繁殖している。
なぜ、同じお茶でもここまで差が生まれたのか。同研究の共同研究者で、東海大学海洋学部水産学科食品工学研究室の後藤慶一教授に話を聞いた。
■麦が入ったお茶は、pH値が高く腐敗が進みやすい
「この研究では、細菌の発育や腐敗具合は飲料のpH値に大きく影響を受けることが分かっています。麦が入ったお茶は、pH値が中性になるため、腐敗しやすくなります。逆に腐敗しにくいのは、コーラなどのpH値が低い酸性飲料です。緑茶や紅茶には、カテキンなどのポリフェノールの濃度が高く、茶葉に抗菌成分が含まれているため、比較的、菌の繁殖が抑えられます」(後藤教授、以下同)
ひと口に「お茶」といっても、その成分によって、菌の繁殖が異なるわけだ。後藤教授の話を参考にすると、お茶の中で比較的菌の繁殖がゆっくりなのは、紅茶や緑茶といったポリフェノール濃度が高いお茶。反対に、麦茶や玄米茶、ハト麦茶など、傷みやすい、と考えられる。
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ただし、菌が繁殖するうえで、人の口腔内にある菌の影響は無視できないと後藤先生は指摘する。
「分かりやすく言うならば、納豆を食べた人が飲んだ容器には納豆菌が入り込んで繁殖しますし、キムチを食べた人が飲んだ容器には乳酸菌がはいり込みます。つまり、口腔内にどのような菌が在るのかで、ペットボトル内に混入する微生物が変わるわけです。また、菌の種類によって繁殖の程度も速度も千差万別なため、紅茶や緑茶であれば安全、と断定することはできません」
ペットボトルを一度開封した時点で、もはや無菌状態ではない。特に夏の暑さの中でペットボトルを持ち運んだり、エンジンを切った車内に飲み物を放置する、なんてことがあれば、菌の増殖は免れないだろう。
「明確に言えることは、一度開封したものはできるだけ早く飲み切ってください、ということです」
「早めに飲み切る」以外の対策としては、コップなどほかの容器に移して飲むことで、口の中の菌が混入するのを防ぐことができる。また、口をつける場合は、ペットボトルの飲み口に軽く触れる程度にして飲む、口をつけたペットボトルをこまめに冷蔵庫に入れる、などで菌の繁殖をある程度緩やかにすることができるようだ。
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食中毒の原因となる細菌が入っていた場合は、うっかり飲んでお腹を壊すことにもなりかねない。暑い季節は、熱中症対策だけでなく、飲み物の管理にもくれぐれも注意したいものだ。
出典:『清涼飲料水中の汚染原因物質に関する研究』(厚生労働省)
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