FC町田ゼルビアの「勝負強さ」はどこへ? 戦術から黒田勝監督のコメントまで異変あり

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2025年05月24日 07:30  webスポルティーバ

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 J1初昇格ながら、昨季は終盤まで優勝争いを繰り広げたFC町田ゼルビア。その町田に今季、やや異変が見られる。

 第9節を終えた時点で首位に立ったものの、第17節を終えて7勝3分け7敗の8位と中位で足踏み。特に第9節川崎フロンターレ戦から第16節清水エルパルス戦までの8試合は、1勝2分け5敗と急失速した。

「許していい失点なんてひとつもないし、負けていい試合もない」

 黒田剛監督は就任以来、徹底した守備意識をチームに浸透させ、何より「敗戦」を嫌う姿勢を貫いてきた。J2時代の2023年も含め、黒田体制下の町田が連敗を喫したのは2シーズンで1度のみだった。しかし、今季はすでに、3連敗を含む2度の連敗を経験。さらに、昨季は一度もなかったアディショナルタイムの失点による敗戦も、第12節の湘南ベルマーレ戦(0−1)、第15節の京都サンガ戦(1−2)と、すでに2試合ある。

 とりわけホームでの京都戦は、得意のロングスローから先制点を挙げながら、試合終盤に逆転を許すという痛恨の結果となった。昨季、町田が先制しながら逆転負けを喫したのはわずか1試合。先制すればその1点を守りきるのが、町田の"勝ちパターン"だったはずだ。だが今季は、開幕のサンフレッチェ広島戦に続いて早くも2度の逆転負けを喫するなど、勝負強さに陰りが見えている。

 京都戦で左ウイングバックとしてフル出場した林幸多郎は、試合後にこう語った。

「(73分に同点に追いつかれて)アディショナルタイムに勝ち越されたときは、正直、『またか......』と思いました。去年はシーズン後半に(攻撃時にロングボールを多用する戦い方が)対策され、今季はそれに対して、もう少しボールを持てるようなトライをしてきたのですが、やることが増えたぶん、対応しきれない部分も出てきている。

 昨季は守備をベースに、多少攻撃がうまくいっていなくても失点ゼロであれば問題ないみたいな部分もありました。今季は攻撃に舵を切っているわけではないですが、攻撃面で考えることが増えて、(守備面で)徹底すべきところでできていない場面が増えてしまっているというか......。攻撃と守備、どちらかを選ぶという話ではないけれど、そこは少し考える必要があるかもしれません」

【ロングスローも減少】

 実際、今季の町田はロングボール一辺倒の戦い方から脱却しようと模索中だ。前線のターゲットを狙うだけでなく、相手の出方に応じて相馬勇紀のスピードを生かす形など、新たな攻撃パターンも取り入れている。

 スローインの戦術にも変化が見える。昨季までは、敵陣深い位置であれば、ほぼロングスローでゴール前にボールを入れていたが、今季はショートスローで味方につなぐなど、戦況に応じて使い分けている。

「クイックで短く味方につなぎ、クロスを上げたほうがチャンスになりそうなら、そうすることも。そこは状況を見ながらやっています」(林)

 一方、今季ここまでボランチとして15試合に出場しているベテランの下田北斗は、第17節の柏戦を前に、チーム状況についてこう話していた。

「勝てそうな試合で引き分けたり、引き分けで終えるべき試合を落としたり、ショックな部分はあります。今季は、昨季までのベースだった4−4−2から3バック(3−4−2−1)へとシステムを変更し、さまざまなトライをしている。ただ、そのなかで新たなよさもあれば、昨季のようなアグレッシブさ、たとえばボールホルダーへの鋭いプレッシングなどが弱まっている印象もある。それは"生みの苦しみ"かもしれません。

 もちろん、ロングボールからセカンドボールを拾って素早くゴールへ向かう攻撃は有効ですし、前線からのプレスでショートカウンターを狙うことも意識しています。ただ、それが機能していない状況で後ろから蹴るだけでは進歩がないですから。今季は相手の動きを見ながらボールを動かす意識を持っているので、多少の我慢は必要だと思いますが、現状に満足しているわけではない。やりながら改善していきたい」

 J1昇格1年目の昨季は、対戦相手にも町田のデータが少なく、チームのスタイルを貫きやすい環境だった。だが、2年目の今季は、各クラブが町田対策を講じるようになり、勢いだけでは突破できない局面も増えている。

「昨季は、相手も僕らのデータが少なかったので、町田のスタイルを押し通すことができました。でも今季は、相手のリスペクトを感じるというか、自分たちの強みを消され、弱点を突かれる場面も増えている。そんななかで、どう次の一手を出せるかが問われているんだと思います」(下田)

【「一喜一憂しすぎてもよくない」】

 また、戦い方以上に気になるのは、黒田監督の姿勢の変化だ。

 過去2年、町田の躍進を支えていた要因のひとつに、勝負に強くこだわる黒田監督の強気なリーダーシップがあったのは間違いない。だが、昨季途中にはロングスローやロングボール主体の戦術、ロングスロー時にタオルを使用するといった行為が想像以上にネットで批判されるなどして、クラブが誹謗中傷者に対して訴訟を起こす事態にまで発展した。また、今年4月には監督のチーム内でのパワハラ疑惑が週刊誌で報じられた(クラブはこれを事実無根と否定)。そうした周囲の圧力が影響してか、黒田監督の言動や采配が軟化しているように感じるのは気にせいだろうか。

 偶然かもしれないが、週刊誌の報道が出始めた時期と、町田の成績が失速し始めた時期は重なっている。

 黒田監督は柏戦を前に、下記のような言葉を口にしていた。

「いま町田は新しいフェーズに入っている。結果が伴うに越したことはないが、勝負事なので、まずはやれることをやるだけ。勝敗に一喜一憂しすぎてもよくない」

「目標は5位以上と言ったが、J1はどのチームも強いし、ギリギリの勝負をやっている。あまり勝ち負けに捉われすぎると、かえってバランスを崩す」

「高校サッカーではないし、相手もプロで、研究もされる。そんな世界で毎年上位にい続けるのは簡単じゃない。チャレンジするなか、失敗を受け入れることも必要」

 そして、こんな言葉も漏らしている。

「高校サッカーからプロの世界に来て、毎年首位争いばかりして、簡単に勝ててしまうと『なんだ』ってなるでしょう。そういう意味では『そんなに甘くないぞ』と新しい試練を与えられているのかもしれない」

 内容自体は冷静な分析とも受け取れる。ただ、黒田監督のかつての強気な姿勢に比べると、どこか慎重で弱音を含んでいるようにも聞こえる。

 湘南戦で就任後初の3連敗を喫した際には、定例となっていた試合2日前の取材対応を拒否するといったこともあった。かつては歯に衣着せぬ物言いで注目を集めた黒田監督だが、昨季終盤以降はメディア対応の機会は減り、その発言も控えめになっている印象は否めない。言われのない批判など外部の声に過剰に反応し、これまで貫いてきた哲学やポリシーを見失ってしまえば、本末転倒だろう。

 第17節の柏戦では、中5日と休養十分な町田が、中2日の柏を相手に3−0で完勝。雨でピッチに水たまりができる悪条件も味方し、4連勝中だった柏を一蹴し、4試合ぶりの白星を挙げた。無失点は実に9試合ぶりだった。

 しかし、その2日後に行なわれたルヴァンカップ1stラウンド3回戦の横浜FC戦では、柏戦から先発7人を入れ替えたこともあり、先制しながらも終盤に追いつかれ、PK戦の末に敗れた。

 新たな挑戦にトライする姿勢は評価すべきだが、J1で2年目の町田は依然としてチャレンジャーである。その前提を見失ってしまえば、"町田らしさ"は色あせてしまう。攻撃のオプションを増やそうとするなかで、堅守速攻という町田本来の武器が曇ってしまっては意味がない。

 リーグはまもなく折り返しを迎える。町田が昨季終盤まで見せていた勝負強さを再び取り戻せるかどうか――。シーズン後半の見どころのひとつである。

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