『JUNK HEAD』続編の制作現場に潜入! 人形&セットの数々に衝撃 監督が明かす秘話とは?

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2025年05月24日 14:11  クランクイン!

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クランクイン!

堀貴秀監督(写真中央)の工房「YAMIKENスタジオ」1階のセットにて  クランクイン! 写真:高野広美
 本職は内装業、独学で映画作りを身につけた孤高のクリエイター、堀貴秀監督。約4年を費やして製作した30分の短編をもとに、クラウドファンディングで出資を募集。追加撮影を行い、実に7年の歳月をかけて長編化した映画『JUNK HEAD』は多くの観客を集め、鬼才ギレルモ・デル・トロ監督も絶賛。世界の映画祭を驚愕させ、数々の伝説を残した。前作の公開から4年、更なる深化を遂げた続編『JUNK WORLD』が遂に完成。あのダークでユーモラスな未知の異世界が、再び帰って来る! 6月13日の劇場公開に先立ち、JUNKなキャラたちが蠢く堀監督の工房が公開される絶好のチャンスが到来。クランクイン!取材班も現場に駆けつけ、カメラを手に隅々まで徹底チェック。ひと足早く、待望の新作『JUNK WORLD』の世界を探訪した。

【写真】撮影に使用した“人形&セット”がいたるところに! 制作現場を探索

■JUNKな異世界への扉を開く、堀監督の工房に潜入!


 堀監督の工房「YAMIKENスタジオ」は2階建て。元々は冷蔵倉庫で、何もない大きな空間に作業場や撮影セット、PCルームに録音室を配置。増築された中2階には人形や小道具が所狭しと並べられ、工房の入口脇にはビニールハウス状の別棟「テント」が設けられている。YouTubeの「YAMIKEN STUDIO」チャンネルにも2022年11月に撮影されたスタジオ案内動画があるが、現在はだいぶ様子が変わった印象だ。

 2025年4月末に取材した時点で、新作『JUNK WORLD』は最終仕上げの真っ最中。「こんにちは〜」と取材陣の前に飄々と現れた堀監督は、まず別棟の「テント」へ。『JUNK HEAD』の製作時に建てられたこの場所は、大型の木工作業場兼、資材置き場。その奥には前作で使用された「研究室」のセットが保存されている。

 1/6スケールながら、リアルで緻密な作り込み具合を間近で見られて大感激。当初はセットの照明に冷蔵庫用の豆電球を使っていたが、途中からLEDに変更。「長持ちするし、明るいし、消費電力も少ない。でも、豆電球は黄色系の照明。編集時に青味を足して調整したけれど、雰囲気が変わったかも」と、監督は早速ディテールへのこだわりを見せる。

 また、予算の都合で映画の舞台は地下世界に設定。岩肌を模した板壁を使い回す節約術は今回も健在だ。「テント」はまさに『JUNK HEAD』の原点である創意工夫のDIY感覚が息づく場所だった。

 工房内に入ると、監督はまずPCルームに案内してくれた。ここは2022年のスタジオ案内動画では細かな造形をする作業場だったが、現在はパソコン机が並んでいる。「今回一番大きく変わったのは造形にCGと3Dプリンターを導入したこと。前作では全て手作業で、粘土をこねるところから始めて、人形の原型もひとつひとつ作っていたんですよね」。

 もちろん、3DCGにも限界があり、背景などはアップで拡大すると絵がガタガタに荒れるので、更に細かく作り込む必要があった。しかし、造形も修正も簡単で、作業面ではグッと楽になった。「とはいえ、昔なら諦めていた細部がいくらでも掘り下げられるので、気にするとキリがない。結局、時間的には短縮になっていないかも」と監督は笑う。

 飛行艇などのメカ類もまずは監督がイメージイラストを描き、モデリングソフトで修正後、3Dプリンターで出力する。着色は手作業だが、同じモデルを複製する場合は格段に手間が省ける。「ただ、スタッフは基本的に映像経験がないので、全部ゼロから勉強したんですよ」と監督。「頑張ればフルCGで行けたかもしれないけど、CGを使いこなせる人間が誰もいなかった(笑)」。

■肉色の腫瘍に浸食された異世界セットへ


 次に案内されたのは、工房で最も大きい部屋。ここには撮影用のセットが組まれ、今にも動き出しそうな肉色の腫瘍に侵食され、廃墟となった街が佇んでいる。セットの床板は奥まですべて取り外し可能で、カメラの位置を自由に調節できるようになっている。

 腫瘍に埋もれて辛うじて見える看板には、クラウドファンディングに名乗りを上げた方々の名前が刻まれている。奥の一角にはガラクタが積まれたロボット墓場があり、「有名なあのキャラたちも紛れ込んでるかもしれません(笑)」と監督がポツリ。

 壁を隔ててセットの隣にあるのが録音室。3.5×7メートルほどの空間でキャラの台詞をアテレコし、効果音も自作自演で録音する。しかし、防音設備が簡素なため、工房前の道路をトラックが通ればエンジン音が響き、自然豊かな環境ゆえに鳥の声が入ってしまうこともあるんだとか。

 今度は増築された中2階へ。ここは人形と小道具置き場になっている。『JUNK WORLD』のメインキャラ、ロボットのロビンを筆頭に、個性豊かな無数の人形たちがズラリと並ぶ。特に動かしていて楽しかったキャラを聞くと「人工生命体マリガンの教祖かな……理由は本編をご覧になってのお楽しみで」とのこと。

 前作では人形は全て粘土で原型を作り、石膏で雌型を取る。粘土を抜いて空洞になった部分に芯となる金属の可動骨格を入れ、液体のフォームラテックスを流し込み、80度で何時間か焼いて出来上がり。『JUNK HEAD』の名物キャラ「3バカ兄弟」を触ってもいいですよと許可を頂いたので、恐る恐る触れてみる。と、まるで赤ちゃん肌のようにモチモチでフワフワ。しかし、フォームラテックスは天然素材なのでカビも生え、経年劣化でボロボロになってしまう。「3バカ」も良く見ると、関節部分にひび割れが。そこで、今回はシリコンを素材に使用。耐久性も各段にアップしたそうだ。

 岩肌から飛び出す触手のような生物もいる。調査チームの女性隊長であるトリスを刺し、足が生えて逃げてゆく異生物だ。『JUNK WORLD』には不思議な変体を遂げる生物が続々と登場するが、監督は変体エイリアン映画の傑作『遊星からの物体X』は好きですか? と聞くと、「あ〜あれ! 衝撃でしたね!」と笑顔に。

◆精巧なミニチュアと、小さなお遊び


 この部屋にはまだまだお宝が満載。ミニチュアの飛行艇内に座った隊員たちをよく見ると、実はスタッフ陣の顔をスキャンして出力したもの。もちろん、監督自身もいるので「よーく探してください」とのこと。また、調査隊が食事をする部屋の壁に飾られた「リーホー画伯(堀監督のアナグラム)」の絵画は、監督が20代の頃に描いたものだ。


 そういえば、向かいのロフトにも監督が過去に製作した作品が無造作に置かれている。絵画に人形、様々な造形物。若い頃はフィギュアの原型師を目指したこともあるそうで、H・R・ギーガーのイラストを基に、石粉粘土で製作した3つ頭のエイリアンは「コンテストで賞を獲った」素晴らしい仕上がり。そんな作品たちを「機会があれば売って、今後の制作費の足しにしたい」と語る監督。過去への愛着よりも、新しい創造を最優先にするスタンスが垣間見えた瞬間だった。

 かつては住居スペースだった工房の2階の一室には、部屋の壁に沿って18台の3Dプリンターが設置されている。サイズやメーカーは色々だが、製作時は全てがフル稼働。大いに役に立ったという。「前作は3DCGアニメ―ションはワンカット程度しかなかった。でも、僕はコマ撮りだけにこだわらず、自由に映画を作りたい。CGにも抵抗はないです」と語る監督。「新しい機材の使い方は勉強したので、JUNKシリーズの3作目は初めからスムーズに進みそう。でも、また新しい技術が出てきたりしてね(笑)」。

 ちなみに工房のすぐ裏手はどこまでも広がる青い海。作業に没頭した後の気分転換にピッタリですね、と聞いてみたが、「ここに越してきてから一度しか行ってない」とのこと。映画製作の過酷さがチラリと伺えた。不変のDIY精神を固持しつつ、新たな技術を積極的に取り込んで生み出される唯一無二の異世界。堀監督の果てしないイマジネーションの進化に注目だ。(取材・文:山崎圭司 写真:高野広美)

映画『JUNK WORLD』は、6月13日より全国公開。

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