塚本高史instagramより えっ、ほんとに塚本高史なの? 安達祐実、相武紗季、磯山さやかトリプル主演で、毎週月曜日よる11時台から放送されているドラマ『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京系)に出演する塚本を見て思う。
塚本が演じるのは、口臭が生ゴミのように臭いモラハラ夫。塚本というと、平成世代の者にとっては、ちょっとしたアイドル俳優だったのになぁ……。
かつてのアイドル俳優がときめきを完全に封印して演じる生ゴミ男とは? 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。
◆平成のアイドル俳優
阿部寛主演ドラマ『結婚できない男』(関西テレビ系、2006年)が、約20年前の作品であることにちょっとドキッとする。現在放送中の日曜劇場『キャスター』(TBS系)など、2020年代も第一線で活躍する阿部は2024年に還暦を迎えている。
『結婚できない男』ってもう20年前のドラマかぁ……。と、懐かしい気持ちになりつつ、ゼロ年代を代表するこのドラマに出演していた、平成のアイドル俳優の存在に思いはめぐる。
偏屈な建築家である主人公・桑野信介(阿部寛)の事務所で助手として勤務する村上英治を演じる塚本高史である。この塚本高史は、筆者のような平成生まれの者にとってはなおさらのこと、ただただ愛でていたくなる、きらめく存在なのだ。
◆塚本高史の流し目にときめく
全話のあらゆる場面に愛でたいポイントがあり過ぎるのだけれど、ひとまず第1話冒頭から早くもときめく。下の名前で呼び捨てにされ、安月給でこき使われている英治が、パーティー会場にいる。
ほんとうは桑野が招待客だったのだが、すっぽかしている。英治が「先生」と呼ぶ桑野を呼び寄せようと電話をかけるのが、塚本の初登場場面。英治はやってきた桑野を他のパーティー客に紹介する。桑野が愛想を振り撒くはずもなく、強固な偏屈を発動。
パーティー客に逃げられた桑野に対して英治が「ほらぁ、嫌われたぁ」と言う。「構わん」と返す桑野に対して、英治がちょっと目を細めて上手(かみて)方向へ視線を遣るのだが、これこれ、この視線移動でさらりと決まる塚本の流し目。これに強くときめいてしまうのである。
◆42歳で演じる生ゴミ男
第8話でパソコン画面に向かう英治が、何気ない仕草として左手を首にあてているときなど、動作がさりげないほどときめきポイントは増幅。というのが、塚本高史という俳優の魅力なのだが、翻って現在放送中のドラマ『夫よ、死んでくれないか』の塚本を見て、思わずぎょっとする。
安達祐実、相武紗季、磯山さやかトリプル主演で描くドラマ『夫よ死んでくれないか』では、3組の夫婦の妻がそれぞれ夫を激しく嫌い、その存在をどうにかしたいと考えている。特に磯山演じる専業主婦・榊友里香は、夫・榊哲也(塚本高史)を陰で「ガーベ」(ガベージの意味)と呼び、同じ空気を吸うのも嫌でたまらない。
哲也はあからさまなモラハラ夫であり、その口臭が生ゴミようにクサい。友里香のことをネチネチ叱責する。『結婚できない男』から20年、現在42歳の塚本高史が演じる、この生ゴミ男。
『まだ結婚できない男』(関西テレビ系、2019年)でも第1話で桑野との電話場面で変わらずにレギュラー出演した英治役の超さわやか、すこぶる軽薄なイケメンキャラはどこに?
◆生ゴミ男の視線移動
『夫よ、死んでくれないか』では、第1話で塚本が初登場する。仕事着姿の哲也がリビングで電話している場面(ここでも電話!)。ワンショット目、画面下手(しもて)手前にいる哲也がピンぼけで写る。電話相手に慇懃(いんぎん)な受け答えでしきりに「もちろんでございます」。
そこへ友里香が帰宅。飲んできた友里香を待ち構えていたように振り返り、視線を動かして、ギロりとにらむ。この生ゴミ男役でも一応は流し目っぽい視線移動になっているのだが、『結婚できない男』第1話冒頭場面でのさわやかなものとは全然違う。
ふてぶてしい態度でソファにどかりと座る。両足の靴下を脱いでどうしたか。風呂場に移動する途中、その靴下で友里香の頭をペシッとたたくのである。最低な行動をさらりと極める生ゴミ男……。
ここには完全にときめきを封印した塚本高史がいる。かつての平成アイドル俳優が、20年後のドラマ作品に圧倒的降り幅ある役柄を演じるだなんてなぁと思う。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu