『ザ・ドキュメント 出口なき部屋〜介護離職 救いはどこに〜』(C)カンテレ カンテレは、介護離職の現実に迫るドキュメンタリー番組『ザ・ドキュメント 出口なき部屋〜介護離職 救いはどこに〜』を、あす30日深夜1時15分〜2時15分に放送する(関西ローカル)。
【場面カット】「これでいいのか日本」介護離職の現状にカメラが密着 番組が約3年間密着した、大阪市に住む藤井康弘さん(61)は、若年性認知症と診断された妻・三恵子さん(62)の介護のために2021年に大手電機メーカーの子会社を退職した。
三恵子さんは身体機能に異常がないため要介護度は低く、その条件で仕事との両立を可能にする介護保険サービスは存在しなかった。康弘さんは、自宅に遠隔で見守りができるカメラの設置や、デイサービスの利用、介護休業も期限いっぱいまで取得するなど手を尽くしたが、三恵子さんに徘徊(はいかい)の症状が出始めると、退職以外に道はなかった。
康弘さんは「もっと手ぬるい仕事であれば残れたかもしれないけれど、どうしてもフルタイムではできない。社会がそこまで許容しないと思う」と語る。離れて暮らす一人娘に迷惑をかけたくないと、退職金と貯金を取り崩しながら在宅介護を続けている。
取材を始めておよそ2年が経った去年の夏、康弘さんに軟部肉腫と呼ばれるがんが見つかった。手術で腫瘍と一緒に筋肉も切除したため、康弘さんは左腕が動かしにくくなったが、要介護認定はおりず、誰かが日々の介護を手伝ってくれるわけではない。康弘さんは「これでいいのか日本」と問いかける。
出口の見えない介護、経済的な不安、そして自身のがん発覚という困難に直面しながらも妻に寄り添い続ける康弘さんの約3年間を通して、家族の犠牲の上に成り立つ日本の介護と、その象徴ともいえる介護離職の現状について問いかける。
ナレーションは本上まなみが担当する。
■本上まなみ コメント全文
――ナレーション収録を終えた感想をお聞かせください。
本上 :(介護の)当事者が日々直面してる現実を知る機会は多くないため、非常に大切なテーマの番組だと思いました。介護という問題を取材する際は家庭に入っていくことになりますが、3年間という長い年月をかけて取材されているとのことで、ご家族の本当の日常が映っていると感じました。介護されているご主人が「愛情ではなくて情」とおっしゃったのが印象に残っています。奥さんのご様子から、症状は進行しているものの、お人柄はそのまま残っているんだろうなと思います。サポートをすることが増えているけれど、ご夫婦の関係性そのものが変わったわけではない。そんな夫婦のかけがえなさが映っていて、心に響きました。
――介護離職という問題についてどう思われますか。今回の番組を通して、考え方・心境の変化等がもしあればお聞かせください。
本上:人生を重ねていくと、いつか誰かの助けを借りなくてはならない。このことは、皆に等しく訪れるものだと思います。家族の中だけで解決できる問題ではない介護を、制度として国や行政が下支えをしていくべきだと感じました。高齢化が進む中で、決して他人事ではなく、ますます身近になっていくテーマです。介護に悩む方達のサポートに国が舵(かじ)を切るよう促すために何ができるのか、考える機会になりました。介護が家族に丸投げになっているお宅はすごく多いと思います。まして、ご主人の康弘さんは働き盛りで、まさに「これから」ところで離職をされたのですから、本当に重い決断だったでしょうし、社会全体で見ても経済的損失も大きいはず。このような方が職を手放さなくてもいい世の中になってほしいです。介護離職は経済成長の面でもマイナスです。だからこそ、支援を通じて国全体が豊かになるという視点で真剣に考えるべきだと思います。
――最後に、本作の見どころをお願いいたします。
本上:かけがえのない日常の大切さが感じられる作品です。私自身、去年体調を崩して療養した経験があるので、介護離職されたご主人に体調不良が見つかる場面は、他人事とは思えませんでした。「自分が支えなければ」と奮闘されるご主人が病を得た時、支えてくれる人があまりに少ない現実はつらいものがありました。しんどい人・つらい状況を“ないもの”にしないで、手を差しのべられる温かな社会であって欲しいと願います。ひとりひとりが見て、考えることがやさしい社会への一歩になるのではと思います。ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。