
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は前回に続き、「音声コンテンツ」について語る。
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音声コンテンツの世界、後編。前回は、ポッドキャストやオーディオブックが広く普及してるアメリカに対して、なぜ日本ではイマイチ広まらないのか考察しました。通勤スタイルの違いや"声"の好みにうるさい国民性に加え、日本語の音声コンテンツの検索性やオススメ機能の最適化が弱い印象で、新規ユーザーが良質な番組にたどり着きにくい気がします。文化・環境・習慣・市場、すべてが音声コンテンツにはちょっと向かない日本ですが、それでもオススメ! その理由を力説させてください。
音声コンテンツの最大の魅力はもちろん、"ながら"に強いこと。通勤しながら知識を得て、運動しながら名作に触れ、趣味にまつわる雑談や雑学を聴きながら寝落ちする。特に単純作業に近い家事をしているときに音声コンテンツをぶっ込むと、「脳の空きポートに情報をねじ込む感覚」があります。その感覚、けっこうクセになるというか、「私今、進化してる」っていう謎の高揚感さえあります。実際は洗濯物を畳んでるだけだけど。
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と、ちょっと意識高めに言ってみましたが、音声コンテンツはシンプルに優しい。目を閉じても、寝転んでも、メイクや支度中でも、トイレでも、耳だけですべてを受け取れる。情報と感情がじわじわと脳に浸透してくる。"ながら"に強い媒体だからって"ながら聴き"する必要はない。目を閉じて横になってボケーッとしたいとき、無為に過ごす罪悪感を軽減する優しい相棒でもあります。
中でも、オーディオブックのポテンシャルを推させてください。オーディオブックとは、本の朗読を収録した音声コンテンツの総称。Audibleやaudiobook.jpなどのサービスで、スマホで簡単に聴けます。ナレーターさんが読み上げるものが多いですが、俳優や声優さんが小説の登場人物を演じながら読んでくれるものもあったり、本人が自伝を読んでいるものも。
ビジネス書など、さまざまなジャンルがありますが、オススメは小説。「面白そう!」と思って実際に買ったものの、なんだかんだで読まなかった本、ありますよね? 学生時代は読書が好きだったのに、社会人になって気づいたら本を読む習慣がなくなってしまった人、多いはず。
そんなときには、オーディオブック。料理しながら、お風呂に入りながら、物語が耳の中で再生されます。どこかで、「耳で聴ける読書はズルい? 意味がない?」と感じている人もいると思いますが、私はオーディオブックは読書のぜいたくな進化だと思ってます。活字との別れではなく、新たな付き合い方。昔、親や先生に本を読み聞かせてもらったのを思うと、ある意味で原点回帰かもしれませんけど。
ちなみに、初オーディオブックにオススメなのは、本屋大賞受賞作、またはノミネートされたミステリー。ラジオドラマのような中毒性、間違いなし。または、自分が好きな映画やドラマの原作小説ですかね。頭の中で登場人物を思い浮かべられるので、音声コンテンツに慣れていない人は楽かもしれません。
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さらに、たいてい原作の映像化よりディテールが細かいから、好きな世界にもっと触れることができてたまりません。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。市川のポッドキャスト『ニッチな学習帳』は、移動中や寝る前にオススメ。公式Instagram【@sayaichikawa.official】