
今年で3回目となる、結成16年以上の漫才師を対象にした賞レース「THE SECOND〜漫才トーナメント〜2025」(ザセカンド)は、ツートライブの優勝で幕を閉じた。その一方で、吉本以外の芸人として唯一決勝大会へ駒を進めた、第一回大会で準優勝の芸歴28年目・マシンガンズ(西堀亮・滝沢秀一)は、大きな期待を集めたものの、はりけ〜んずに敗れて初戦敗退という結果に。大会が終わって2週間、あの熱狂を冷静に振り返ってもらった。
■ザセカンドもちゃんとした賞レースになってきた
――今年のザセカンドは囲碁将棋とマシンガンズが決勝に進むという予想も多かったですが、振り返っていかがでしたか?
滝沢 決勝って期待されると、なかなか難しかったのかもしれない。一昨年みたいに知らない状態で「うわー」って出てくると、驚くかもしれないけど。もうみんな知ってるからね。
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西堀 どういう人たちかわかってる利点はあるけど、新鮮さには欠けるもんね。だから、囲碁将棋とか金属バットみたいに、キャラクターはあって、しかも内容的にもうまいって人の方がいいのかなとは思ったな。
滝沢 ただ考慮してもらいたいのは、俺らは月3回ぐらいしかライブをやってないんだよ。吉本は1日5回とか6回とか、毎日毎日ネタを叩いているというね。俺らは燃費がいいとも言えるよな。
――確かにあまりネタをやらずに決勝ですから、すごいです。
滝沢 まあ、ザセカンドもちゃんとした賞レースになってきたよ。ということは結局、ちゃんとした漫才師が勝つってこと。
西堀 人生と一緒だな。最後はちゃんと頑張ってきた人が勝つ!
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滝沢 最初はワケのわからない大会だったんだけどなー。
西堀 やっぱり超新塾がいるといないとではお祭り感が違うよな(笑)。
――ちゃんとした賞レースとしてお笑いを分析する人も増えましたよね。
滝沢 「あそこの言葉は聞き取れない」。「何に掛かってるかわかんない」とか。そうなると俺らは難しいよな。
西堀 楽しきゃどうでもいいじゃん! なぜかお笑いにはみんな厳しいんだよ。例えば、サザンオールスターズに「わかんない!」って言う人いる?
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――そうですよね。でもザセカンドは「お客さんが審査する」ってルールの問題もあると思うんですよね。ちゃんと理由を言わなきゃいけないプレッシャーというか。
西堀 コメントがあるっていうのは結構大きいかもね。
滝沢 客の好き嫌いはあるだろうしな。今回、囲碁将棋に1点が付いたり。でも間違いないのは、俺らはプロの審査だったら通ってない(笑)。
――お客さんの審査だから決勝まで進んだと(笑)。
西堀 今回はあまり悔いはないのよ。あのネタで1年間ウケてきたから。「滝沢がかかり過ぎてた」って人がいるけど、俺は良かったと思うんだよね。だって、かかってる人って面白いじゃん! あと、その場の笑いより、ちゃんとネタを作ってきたほうが偉いって。俺は別にどっちでもいいと思っちゃうんだけど。
――でも最近はすごく頑張ってきたじゃないですか。
滝沢 だから楽しかったよ。ネタを作って、ライブをやって。やっぱり目標ができたから。
西堀 最初はネタを作りを忘れちゃって、完成まで時間がかかったよね。ここ1年ぐらいでやっと感覚が戻ってきた。負けて悔しかったけど、「ウケるな」とは思ったよ。スベって負けたわけじゃないから。我々がどうしようもなかった要因もあるんじゃないかと。
――負けてしまった、はりけ〜んずさんと同じようなネタのスタイルだと言われてましたよね。
西堀 しかも向こうのネタは、今までの芸歴の大エースで来るわけだからね。あとは、事前Vで負けてたよね。向こうは良すぎでしょ!
滝沢 ツートライブのも良かった。1年目はウチも良かったんだけど。
西堀 良かったよなー。可哀想だから(笑)。今回、マシンガンズの事前Vはあまり可哀想じゃなかった!
――初回準優勝って、バーンと出てましたね。
西堀 「あいつら強欲だな」って思われちゃったかもしんない(笑)。
滝沢 まあ、どうしたら勝てたか、あんまりわからないんだよね。
西堀 やっぱりちゃんとしたネタっぽいかどうかじゃない?
滝沢 そうなってくると、あの時点でもう手の打ちようがなかったと思うんだよ。最大に笑いを取ったし。順番が逆だったらとか、相手がとか言うけど、できることをやって笑いを取った中で、あの点数で負けたってなると、まあ今の評価があれぐらいなんだろうなと......。
西堀 俺らって、相手が後ろを向いた瞬間にバットで殴るみたいな戦い方だから(笑)。1年目は勝てたけど、今は警戒されちゃってな。まあでもわかんない、勝てば敗因なんてないもんね。
滝沢 全部良かったになるもんな。
西堀 何を言ってるかわからないのも、「良かった」ってなるもん。スタジオでは客との一体感あったんだよ。拍手も来てたし。終わったあとに「今できることは全部やったな」って言ったもん。勝つつもりでいた。
滝沢 でもひとつあるのであれば、「下手くそだって捉えられたらおしまいだな」とも言ったよね。金属バットの友保が「もうそんなやつおらへんで」って言ってたんだけど、フタを開けてみたらそうだったんだよね。
だからやらなきゃいけないことって、「賞レースのきちっとしたネタだけが、ネタではないですよ」って世界を作らないと。俺らみたいなスタイルが何組かいたら、違ってくるのかなと。
――昨年の予選は1年目のマシンガンズに影響されて、アドリブっぽくやるネタが多かったって話ありましたよね。
滝沢 そうそう。なので、今年の予選は「マシンガンズ以外でアドリブを加えたら減点」ってウワサもあった(笑)。
――結局マシンガンズしかその手法で勝ってないんですね。
西堀 まあ俺らなんて、サウスポーのアンダースローみたいなもんなんだよ。マネしようとしたら肩を壊しちゃう(笑)。ただこの芸風はアベレージを取りづらいよね。当たりハズレも大きい。
■東京で一番、藁(わら)を掴もうとしてるのは俺ら!
――でもまだ戦い続けるわけですよね。ザセカンドといえばマシンガンズみたいな風潮もあるし。
西堀 来年はまだ囲碁将棋もいるし、金属バットもいるし大変だよな。
――M-1を卒業したばかりの勢いある若手も入ってくるし。
西堀 でも過去3回、俺らは16年目ぐらいを倒してるんだよ。なかなかないんじゃない? 活きの良さがマイナスになるっていう。
滝沢 難しいよな。リニアなんか大会の前日までバッカンバッカンウケてたのに、急にハシゴを外されたみたいな。
――ガクテンソクの奥田さんがマシンガンズの単独ライブをプロデュースするって話があるみたいですね。
滝沢 前にガクテンソクが、ザセカンドを優勝したら200万くれるって言ってて、それを単独で使ってくれるという。話題にもなるし、自分らのわからないことをやるもの面白いよね。
西堀 アイツもね。お兄さん的なところがあるから......。
滝沢 弟かと思ったら、お兄さんになってたからね。芸能界ではこういうのよくあるよな。
西堀 打ち上げでも、「こうしたほうがよかったんじゃないですか?」ってアドバイスをもらったり。アイツは吉本とかそうじゃないとかないし。お兄さんとして頼りがいがあるな!
――後輩の下に入り込む気まんまんですね(笑)。でも最近は吉本メンバーと仲が良いですよね。ライブやったり、番組もやったり。
西堀 おじさんの非吉本と言えば、になってるよね。ファンも来てくれて、そこまで突き抜けてないし、ちょうど呼びやすいんだろうな。
滝沢 マシンガンズのコミュ力がどうだって言ってるけど、単純にスピードワゴンの小沢さんのマネをしてるだけなんだよね。
西堀 図らずも俺たちがやってるライブの「漫才米騒動」が、スピードワゴンのやってた「東京センターマイク」みたいになってるし。
――おじさん漫才師の東京代表になりつつありますね。
滝沢 リニアとかハンジロウとか、東京でザセカンドで戦ってる人と、一致団結して登っていこうみたいなのがやれたらいいよね。それは良いストーリーかもしれない。
――東京のおじさんを束ねるというか。
西堀 土木作業員の手配師じゃないんだからさ(笑)。でも、お笑いの賞レースで吉本だけの大会になったことってないんじゃないかな。
滝沢 ザセカンドはあり得るよな。
――そこはなんとか食い止めたいと。東京は第一線で戦ってるおじさん漫才師が少ないですよね。
滝沢 まあ、出る必要がない芸人はザセカンドに出ないからなー。三四郎とか、タイムマシーン3号とか、後輩だけど。
西堀 我々は藁をも掴む思いで出てるわけだから。
滝沢 東京で一番藁を掴もうとしてるのは俺らかもな。
西堀 先輩がもういないんだよ。X-GUNさんとかになっちゃう。......あとはエルシャラカーニぐらいじゃん? 俺らより上で、ベスト32に入る可能性があるのは。
でも年を取りすぎていると、みんな達観していくんだよ。「藁、掴まんでもええやん」って。
――何でセイワさん口調なんですか(笑)
西堀 そもそも吉本の方がチャンスを掴んでやろうって気持ちが強いよね。吉本の舞台に出てる芸人がよく「単価、単価」って言ってるじゃん。賞レースに勝ち上がれば、寄席のギャラの単価があがるっていう、わかりやすいアメがある。でも東京芸人はそういうのがないしね。
――優勝とまで行かないにせよ、ベスト32ぐらいまでで、わかりやすいアメがあるといいですよね。
西堀 でもザセカンドツアーはあるな。それまではなかった仕事だし。ああいうのが増えるといいな。
――金属バットと囲碁将棋とマシンガンズはずっとザセカンドに出てほしいって声もあります。
西堀 金属と囲碁将棋って、ザセカンドの仲間って感じするな。決勝へ3回進んでるのって金属しかいないでしょ? あと囲碁将棋と俺らが2回。
滝沢 金属と囲碁将棋はすごいよな。毎年あれだけのネタが作れてるんだから。
――でもいつかは優勝して、そこから抜けたいわけですよね。
滝沢 でも第4回マシンガンズ優勝って、まだちょっとわからないな。自分に見えてこない。でも見つけるしかないよな......。
西堀 来年は予選免除でベスト32から出れるから。まあ、まずは1勝だよな。そしてベスト8。
滝沢 逆にいろいろ手放した方がまたハネるかもしれないな......。1年目はネタ合わせもやらずに出たら勝っちゃったし......。
西堀 よし、優勝だ!!(ガッツポーズ)
――もうすぐ時間だからって、急に締めようとしないでください! じゃあ最後、おふたりにとってザセカンドとは?
滝沢 ザセカンドがなかったら、おじさん芸人なんか、本当にまた絶望のどん底でしょ。だからもちろん優勝は目指すけど、ザセカンド自体を盛り上げていかないと。
西堀 もし終わっちゃったら、以前にも増して地獄が来ると思っておいたほうがいい。おじさんが輝くのはこの大会しかないんだから。お笑い芸人の大会はいっぱいあるよ。でも、おじさんに勝ち目があるのはザセカンドしかないんだよ!
――漫才とコントの二刀流で競うダブルインパクトとか年齢制限ないですよ。
西堀 ダブルインパクトに出るような人間は、ザセカンドに出ない! ジャルジャルとか本当に実力のある人間はいいよ......。でも違う、ザセカンドは1点突破の不器用なおじさんの大会!
滝沢 ギャロップとガクテンソクとツートライブはここで優勝したんだから、ずっと盛り上げ続けてほしいよな! 次の年の大会の賞金を出すとかさ!
●マシンガンズ(西堀亮・滝沢秀一)
池袋のユーモア教室で出会い、今年で結成28年目。一昨年のザセカンド第一回大会では、ネタを2本しか持たずに準優勝。お笑いマニアに大きなショックを与えた。同じ準優勝おじさんのザ・パンチと、公式YouTube「ザ・マシンガンパンチチャンネル」でわちゃわちゃする様子は、疲れ切った中年に癒やしを与えてくれる
取材・文・撮影/関根弘康