「あいつはホンモノだ、そう言われたい」
近年稀にみる面白い人を見つけた。6月6日公開の映画『ぶぶ漬けどうどす』に出演する、小野寺ずる（36）である。
小劇場叩き上げの個性派俳優。大河ドラマや朝ドラにも出演済みだが、一般的知名度で図るとするならば「無名」にカテゴライズされるかもしれない。が、そんな扱いもそろそろ終わるだろう。画面に登場した瞬間に匂い立つ、隠しきれない存在感。いち早くチェックすべき逸材だ。
体幹のなさが生んだ笑い
京都文化に翻弄される主人公・まどか（深川麻衣）と二人三脚でエッセイコミックを描く漫画家、安西莉子役。京都文化を取材するまどかの報告を受けてエッセイコミックを制作していくのだが、まどかが京都の闇に切り込んでいくと共に、莉子の描く漫画も先鋭的になっていく…。
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「莉子のちょっとトボけた雰囲気は自分的に浮いてねえか？おかしな人に見えすぎない？という不安もありますが、それがキャラクターとして良い感じに映っていればうれしいです。冨永昌敬監督の演出はあまりにも面白く、現場では自分が準備してきたものが覆されぶっ壊される感覚がありました」
京都取材の成果をまどかから電話報告される場面。だらしない恰好で受け答えする小野寺の立ち居振る舞いに笑いが生まれる。
「撮影当時は体幹がなくてベッドやソファーにすぐに寝転がる癖があった。今だったら筋トレを頑張っている最中でパンプアップしているので、直立不動の正しい姿勢で演技するはずです。あの場面が面白いものになったのは、冨永監督の演出術と私の体幹のなさが偶然にも合致した結果」
“ずる”は親族からの隠れ蓑
ご本人は恐縮するが、面白さとは偶然の産物ではありえない。人柄がものをいう。かくいう小野寺は自らを「お役者」「ド腐れ漫画家」と称し、WEBメディアでは自らの独身ライフ&婚活体験を面白おかしく赤裸々に描いたエッセイコミックを連載中だ。本作ではストーリーの展開上重要な要素を担う劇中漫画の制作も担当しているが、あくまで自分は「ド腐れ」だと襟を正す。
「私がキリっと『役者』『漫画家』と自称しないのは、自意識過剰と臆病さの表れです。婚活の場で職業を聞かれたときに『役者です』と答えた時に必ず流れる『え？アンタ見たことないけど…』的変な空気。それに私はいちいち傷つく。でも『お役者』と伝えれば『ハハハ…』で事なきを得る。私の描いた漫画を読んで『汚ねえ漫画だな！』と思われたとしても、『ド腐れ漫画家』だったら納得してもらえるだろうし。すべて私が傷つかないための逃げ道です」
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小野寺ずる、という芸名にも逃避の思いが込められているらしい。
「就活に失敗した結果、小劇場の芝居の世界に迷い込んだという経緯があるので、実家や親戚からは当然歓迎されておらず『あんた将来どうするの？』と言われ続けてきました。本名で芸能活動をしたら検索されたりしてバレるので、隠れ蓑として小野寺ずるを名乗るようになりました。なぜ、ずるなのか？それは母の友達の千鶴さんが『ずるちゃん』と呼ばれていて、響きが可愛いと思ったからです」
でも自分自身から逃げることなど誰にも出来ない。小野寺が意図せず放つ強烈な個性に蓋をすることは難しく、発見されるのも時間の問題だ。
ホンモノ宣言
ライバルは90歳になる元気な祖母だという。
「行商をやってきた人なのですべてを達観してる感があって、いまだにロシアをソビエト連邦と呼ぶし、オリンピックでバレーボールの試合を見ていても、日本に点が入ろうが相手国に点が入ろうがお構いなし。すべてによ〜し！と喜ぶ。私の俳優業についても『おままごとかい？好きなことができて良かったね〜』と妙にマウントを取ってくる。いつか大成功しておばあちゃんをギャフンと言わせたいです」
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ギャフンと言わせるために小野寺が目指す高みは「ホンモノ」になることだ。
「役者として上手くなる、番手を上げる、大作に出るとかではなく、ホンモノになりたいと思っています。絶対にカタカナでホンモノと書いてください。好き嫌い、上手い下手。そんな些末なことはどうでもいい。とにかく『あいつはホンモノだ！』と言われたいし、思われたい。それが私のフィニッシュです」
【小野寺ずるプロフィール】
おのでら・ずる 1989年5月17日生まれ、宮城県出身。特技はデッサン、ドラム演奏、東北弁（ケセン語）。舞台を中心に俳優活動を始め、NHK大河ドラマ『どうする家康』『光る君へ』、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』などに出演。映画『サンセット・サンライズ』では出演のほか、方言指導も担った。
（まいどなニュース特約・石井 隼人）
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