撮影に臨む(左から)米国のヘグセス国防長官、オーストラリアのマールズ副首相兼国防相、中谷元防衛相、フィリピンのテオドロ国防相=31日、シンガポール(EPA時事) 【シンガポール時事】シンガポールを訪れている中谷元防衛相は31日、ヘグセス米国防長官と2国間会談を行ったのに加え、日米豪と日米豪比の枠組みで協議を重ねた。トランプ大統領の高関税政策を受けてアジアにも動揺が走る中、安全保障面の協力強化を確認した。ただ、中国が隙を突くように影響力を拡大しており、同志国連携が効果を挙げられるかどうか見通せない。
「自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、地域に対して前向きなメッセージを出せた」。中谷氏は米豪比との4カ国会談後の記者会見で、成果をこうアピールした。
「米国第一主義」を掲げるトランプ政権は同盟軽視の姿勢が目立ち、対中戦略には不安定感も漂う。インド太平洋地域の同盟・友好国に国防費増を要求しており、米国の直接的な関与自体は弱まるとの見方がある。
それを意識してか、ヘグセス氏はインド太平洋重視の立場をしばしば強調。3月に来日した際は中谷氏との共同会見で「米国第一は米国単独という意味ではない」と語り、中国の威圧行動に日本とともに対峙(たいじ)する考えを示した。
中谷氏はアジア安保会議に合わせた31日の一連の会談で、中国の動向に対応して防衛協力を推進していく方針を各国と共有。同行筋は「米国のコミットメントを改めて確認できた」と安堵(あんど)の表情を見せた。
とはいえ、米国の関税措置に絡んで地域情勢は不安定化のリスクをはらむ。東南アジアには対米不信を募らせる国もあり、中国がそれを取り込んで「米国抜き」の枠組みを構築しようとしているからだ。
習近平国家主席は4月にベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪した。李強首相は5月、インドネシアとマレーシアを訪問。同時期に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の議長声明はトランプ関税に対する「深い懸念」を表明し、中国やペルシャ湾岸諸国と経済的なつながりを強める姿勢を示した。
日本政府は安保協力の深化を訴え、つなぎ留めに注力する。中谷氏は今年に入って以降、インドネシアやフィリピン、インドなどを訪問。石破茂首相も4月にベトナムとフィリピンを訪れた。
アジア安保会議で行った演説で中谷氏は、共通の価値を有する国々が協力し、インド太平洋地域でそれぞれの取り組みを一体化させていく構想を提唱。キーワードの頭文字を並べ、「OCEAN(オーシャン)」と名付けた。「米国が遠心力を働かせなければ連携はうまくいく」。同行筋はこう語った。