
6月1日から、熱中症の重篤化による死亡災害を防止するための対策が、事業者に罰則付きで義務化されます。厚生労働省によると、熱中症は死亡災害に至る割合が他の災害の5〜6倍とされており、そのほとんどは、初期症状の見逃しや対応の遅れが原因とされています。今後、気候変動の影響により、根性論だけでは到底太刀打ちできない危険なレベルの耐え難い暑さが、ますます増えていく懸念もあり、「暑さ指数」や「熱中症警戒アラート」について今一度内容を確認しながら万全の対策を講じるようにして下さい。
熱中症対策 2025年6月1日から義務化 するべきことは?
厚生労働省によると、今日6月1日から、改正労働安全衛生規約が施行され、事業者に対して熱中症対策が義務化されます。
これは、熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、熱中症のおそれがある作業者を早期に見つけ、迅速かつ適切に対処することが可能となるよう、事業者に対し、「早期発見のための体制整備」、「重篤化を防止するための措置の実施手順の作成」、「関係作業者への周知」を義務付けるものです。
対象となる環境条件は、
「WBGT(暑さ指数)28度以上 または 気温31度以上の環境下で
連続1時間以上 または 1日4時間を超えて実施」が見込まれる作業です。
暑さ指数(WBGT)とは、人が体感として感じる温度で、気温以外に、「湿度」や「輻射熱(ふくしゃねつ)」も考慮した影響が計算されたものです。この暑さ指数(WBGT)が28度を超えると、熱中症のリスクが急激に高まり、救急搬送者が急増するとされています。近年の日本の夏の状況から、現実には、夏季の屋外作業のほとんどがこの条件に該当すると考えられます。
環境省からは、日々各地点別に暑さ指数(WBGT)が発表されていますが、これは一つの代表地点の値であくまでも目安です。個々の地点の暑さ指数は、現実には環境によって大きく異なることがありますので、必ず周囲の暑さ指数(WBGT)を定期的にチェックしながら、身体への熱ストレスを把握して、出来る限り健康維持に努めましょう。
もし、数値が高くなった場合には、休憩時間を前倒しするなど、作業スケジュールの調整を柔軟に行うなどの具体的な対策をとっていくことが大切です。
熱中症の症状は?
他覚症状では、「ふらつき」「生あくび」「失神」「大量の発汗」「痙攣」等。
自覚症状では、「めまい」「筋肉痛」「筋肉の硬直(こむら返り)」「頭痛」「不快感」「吐き気」「倦怠感」「高体温」等。があげられます。
また、「意識の有無」だけでなく、「返事がおかしい」「ぼーっとしている」等、普段と比較して様子がおかしい場合も異常として取り扱うことが適当とされています。判断に迷う場合は、♯7119(※参照)等を活用するなど、専門機関や医療機関に相談し、専門家の指示を仰ぐのが安心です。
※救急安心センター事業(♯7119):急なケガや病気をした時に、「救急車を呼ぶべきか」、「今すぐ病院に行くべきか」など、判断に迷うことがあると思います。そんなとき、専門家からアドバイスを受けることができる電話相談窓口が、この救急安心センター事業(♯7119)です。但し、明らかに緊急性が高いと判断される場合には、迷わず119番通報をしましょう。
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熱中症 応急処置のポイントは?
熱中症が疑われる人を見かけたら、まずは、冷房の効いた部屋や風通しの良い日陰などの涼しい場所へ。その後は、衣服をゆるめて、氷枕や冷やした水のペットボトルなどで身体を冷やしましょう。また、スポーツドリンクや経口補水液などで水分と塩分を補給しましょう。
自力で水が飲めない、意識がない場合は、直ちに救急車を呼ぶようにして下さい。
湿度が高い今の時期も 梅雨型の熱中症に注意
図は北陸地方の夏の期間(6〜8月)の平均気温が最も高かった2023年で、日別症状別年齢別の熱中症救急搬送者数が公開されている富山県の事例をグラフ化したものです。
丸印は救急搬送があった日毎の気象条件(富山地方気象台の最高気温と平均湿度)をプロットしたものです。それぞれ、「紫色の●は熱中症警戒アラートが発表されていた日:救急搬送人数は平均14.6人」「赤色の●はアラートの発表は無いが救急搬送者が10人以上の日」、「緑色の●はアラートの発表は無いが10名未満の搬送者有りの日」」を示しています。
注目点の一つ目は、紫色の●の集団の近くにある、複数の赤色の●です。これらは、紫の気温や湿度分布と同じような気象条件となっており、現実には、アラートが発表されていなくても危険な暑さになっていたことが推測されます。特に8月19日の赤丸は、シーズン最多の23人の救急搬送があった日で、富山の最高気温は37.1度の猛暑日で平均湿度は69%と高めでしたが、それでも前日当日ともにアラートは発表されていませんでした。
二つ目は、湿度が高くなると、最高気温が30度前後を下回っても、一定数の救急搬送がでやすいということです。
暑さ指数の計算は、「気温」「湿度」「輻射熱(ふくしゃねつ)」の割合で影響が計算され、湿度のウェイトが高めとなっています。盛夏になる前の梅雨の期間など、風通しの悪い屋内など、湿度が高いと汗をかいても蒸発しにくいために、体温が下がりにくく身体の中に熱がこもりやすくなるために熱中症リスクが高まってしまうこともあるのです。
シーズン最多搬送の日 熱中症警戒アラートが出ていなかった事例も
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熱中症警戒アラートは、予測に基づいて「暑さ指数(WBGT)」が計算され、熱中症の危険性が極めて高くなると予測される暑さ指数(WBGT)33度以上の地点が1地点でもあると、その自治体単位ではなく県の全域を対象に、発表されます。
図のBは、金沢のみ「33」で、輪島や小松などその他は「28」の非常に極端な例ですが、この場合、石川県の全域を対象に熱中症警戒アラートが発表されます。
一方のAは、石川県の全地点で「32」となっています。現状の運用ルールでは、この場合、熱中症警戒アラートは発表されませんが、はたしてAはBより安全と言い切れるでしょうか?、前項の富山県の2023年8月19日の事例のように、シーズン最多搬送となった日でありながら、前日当日ともに熱中症警戒アラートが出ていなかった事例もあり、Aも暑さ指数28度を優に超える危険な暑さで、県全体の熱中症救急搬送者数は、Bより多くなることもありそうです。
Bは、言わば「大は小を兼ねる」の安全サイドにたったアラート発表ではありますが、Aのようにアラートの発表には至らなくても危険な状態があるということです。
「熱中症特別警戒アラート」は、2024年から運用が始まりましたが、これまでに全国で1度も発表されていません。暑さ指数が全地点で「35」以上を満たす条件は、かなりハードルが高くなっています。1000m級の標高の高い地点を1地点でも含む都道府県では、気温のベースが低いこともあり、現状の運用ルールのままでは永遠に発表されない自治体もありそうです。
猛暑日日数とは必ずしもリンクしない熱中症警戒アラートの発表回数
図は顕著な事例として、新潟県・富山県の猛暑日日数(気象台の観測値)と熱中症警戒アラートの発表回数を示したものです。
2022年の猛暑日日数は、「新潟で2日、富山で21日」、同年の熱中症警戒アラートの発表回数は「新潟で17回、富山で4回」となっており、新潟を基準に考えると、富山の猛暑日は新潟の10倍以上ある一方、熱中症警戒アラートは約4分の1にとどまっています。
2024年を同様にしてみると、富山の猛暑日は新潟の約7倍もある一方、熱中症警戒アラートの発表回数は半分未満にとどまっています。
熱中症警戒アラートの発表有無を検討する際の基準となる地点は、全ての観測地点が対象です。このため、新潟よりも暑さ指数が高いことが多い「新津」等の1地点でも発表条件を満たせば、新潟の猛暑日は少なくても新潟県全域を対象にアラートが発表されることが多くなってくるのです。
また、暑さ指数の計算式は、「気温:1」「湿度:7」「輻射熱(ふくしゃねつ):2」の割合で影響が計算され、湿度のウェイトが高くなっています。フェーン現象により高温と乾燥が同時におこりやすい場合には、2022年の富山の事例(猛暑日は21日でアラートは4回)のように、最高気温が35度以上の猛暑日となっても、熱中症警戒アラートが発表されないケースが頻繁に起り得るのです。ただ、現実には、アラートが発表されなくても熱中症リスクの高い危険な暑さの日はありますので、注意・警戒が必要です。