「目に見えない何かに縛られる感覚」 京都の老舗店女将を演じた室井滋が思う伝統と変化 「いまでもガラケー。ずいぶん古臭いんです」

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2025年06月01日 11:40  まいどなニュース

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映画『ぶぶ漬けどうどす』で京都の老舗扇子の女将を演じた室井滋(撮影:磯部正和)

 富山県出身の俳優・室井滋。最新作映画『ぶぶ漬けどうどす』では、「本音と建て前」を使い分ける数百年の歴史を誇る京都の老舗扇子店の女将を懐深く演じ作品を彩った。

【写真】京都の老舗扇子の女将を演じた室井滋。

 室井自身、富山の実家が10代続く家柄であり「目に見えない何かに縛られる気持ちは分かります」と作品に共感を持ったという。そんな室井が、映画に内在するさまざまな事象について語った。

伝統と変化のせめぎ合いを説教がましくなく問題提起

 俊英・冨永昌敬監督がオリジナル脚本で挑む「京都」を題材にしたコメディである本作。室井は、自身のコミックエッセイのために夫の実家である京都の老舗扇子店に嫁いできた澁澤まどか(深川麻衣)の義理の母・環を演じる。京都の「本音と建て前」を使い分ける県民性に翻弄されるまどかを、温かい目で見つつも、シニカルな一面ものぞかせるという役柄だ。

  「台本を読んだとき、これは京都の話であるけれど、日本の大都市以外の多くの街で起こり得る、世代間の変化や、ちょっとした違和感など普遍的なテーマを描いている作品だと思ったんです。私自身、富山県出身で実家が現在で10代目という家なのですが、家の将来とか仏壇をどうする……みたいな目に見えない何かに縛られているなという感覚が常にあるので、環の気持ちというのはどこか共感ができました。都会ではあまりない感覚なのかもしれませんが、まだ地方では『町に嫁ぐ』なんて感覚もあるんでしょうね」

  家を次につないでいく……という縛りのなか、そういった感覚が全くないまどかがやってきて、いい意味で不協和音もたらすことで、大騒動を引き起こす。シニカルなコメディシーンが多数登場する。

  「台本を読んだとき、もうちょっと堅苦しい作品なのかなと思ったのですが、撮影が進んでいくうちに、冨永監督がとてもおかしい人だと分かったんです。結構ハプニングも楽しんでしまうような柔軟さがあって、すごく刺激的でした」

  環境の中にいる人間にとっては当たり前でも、部外者からすると滑稽に映ることも多い。そんな部分をコミカルに描くことで、社会問題も敷居が下がるという。

  「作品の中には、インバウンドの増加や伝統とのせめぎ合いなども描かれていました。どんどん京都の街も変わっていっていくなか、ああいう問題提起が説教がましくなく描かれているので、若い人が観ても面白いと感じられるのは素晴らしいですよね」

 脈々と受け継がれてものを自分の代で崩してしまっていいのか――

 「隣の金沢が小京都と言われることもあるように、家の座敷の構え方とか、ちょっと隙間風が入って寒いとか、食べ物の感じも富山と京都って似ているんですよね。ただ富山県人の方がもうちょっと堅いかな。京都はやっぱりあか抜けていて都会ですからね。その分サラッとしています。でも富山では結婚式での引き出物やしきたりなど『いまどきそんなことやっているの?』というものは、まだまだ残っています」

  “いまどき?”という言葉は、いつの時代にもある声掛けだが、歴史があればあるほど、変化していくことは難しい。

  「やっぱり脈々と受け継がれてきたものを、自分の代で崩してしまっていいのか……みたいな感覚はすごくあります。劇中には『ヨソさん』という言葉も出てきますが、歴史がある以上、嫁いだ以上は守らなければいけないんじゃないかという思いと、一方で、もういまの時代にはそんな考えはそぐわないんじゃないかという思いもあります。そのせめぎあいで揉めているお家というはたくさんあるんでしょうね」

  特に京都という街は、そういった葛藤が顕著に出る場所だという。

  「やっぱり京都の街って日本中の憧れの場所だったりするんですよね。それが厄介だったりする(笑)。これが田舎だったら、出て行った子供たちもそこに家や土地があっても『もういいんじゃない』と言えるのかもしれませんが、『京都に家があるんなら戻らないと』とかって話になりやすいんじゃないですかね。土地に対する誇りやプライドというのも強いでしょうし。そんなところもシニカルに描いているのが、この映画の面白さでもありますね」

  変化と歴史。なかなか共存が難しい問題だ。そんな部分も作品には内在している。室井自身は、学生時代から映画の世界に入り、さまざまな作品に出演するなど、その生き方は革新的だが、伝統や歴史と変化にはどんな意識を持っているのだろうか――。

  「私自身、昔は新しくて進歩的な人間だと思っていたんです。でもだんだんとそうじゃないんだなって分かってきた(笑)。いまでもガラケーですし、ずいぶん古臭いんです」

 特に昨今の情報化社会に対しては、簡単になびいてしまわないように注意しているという。

  「やっぱり多数決で物事が決まっていってしまうのが、ちょっと嫌なんです。みんながそう言っているからそうなんだ……ということには疑問を持ちたい。もちろん何でも理解ができないという風になってしまうのは良くないのですが、自分のスタイルはやっぱりちゃんと守っていきたいです。頑固なんだと思います。喧嘩はしないように、でも流されないように。そうやって生きていくのも楽しいですよ」

 映画『ぶぶ漬けどうどす』は6月6日より全国ロードショー 

(まいどなニュース特約・磯部 正和)

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