音尾琢真「伝えるとは何か」日曜劇場で感じた報道と演技の共通点

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2025年06月01日 12:03  TBS NEWS DIG

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演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーの1人である音尾琢真。映画、テレビ、舞台だけでなく、これまでに自身が手掛けてきた楽曲をバンドアレンジで披露したソロプロジェクトなど、表現者としてさまざまな活動を行っている。

【写真をみる】「TEAM NACS」音尾琢真が奮闘する中間管理職とは?

そんな音尾が、現在、日曜劇場『キャスター』(TBS系)で演じているのが、報道番組『ニュースゲート』のプロデューサー。現場と上層部の板挟みになりながら番組制作に奮闘する中間管理職という立場を通して感じた報道のリアルとは――。

現場と上層部つなぐ存在――プロデューサーという職業について

報道番組におけるプロデューサーの役割は、番組制作全般の責任を負い、企画立案、予算管理、出演者・スタッフの選定、制作の進行管理など、多岐にわたる。

そんなプロデューサー・山井和之という人物を演じてみて、「胃が痛くなる役でしたね」と音尾は笑う。実際、本作のプロデューサーを務める伊與田英徳氏らの動きを見て、プロデューサーという立場がいかに気苦労の多い役割であるかを実感したそうだ。

「ただ番組を好きなように作っているだけじゃない。きっとさまざまな軋轢がある中でバランスを取りながら現場と上層部との橋渡しをしているのだろうな、と」。実際に音尾はTBSの報道番組『news23』の現場にも足を運び、裏側にある人間模様を肌で感じていった。

プロデューサーという職業そのものについても「自分にはできない仕事」と本音を漏らす。「物作りをリードできることや、自分の中にある構想をパズルのように組み立てていく面白さがありますよね。ですが、さまざまな部署の要望を調整し、俳優事務所からの希望にも応えて、番組制作のために資金集めもして…。と考えたら、自分にはこの仕事は向いていないなと思いました」と、苦笑いを交えて語る。

命を扱う現場で報道が果たすべき役割

音尾はこれまでに、消防士やレスキュー隊員といった“命に関わる現場”を支える役柄をいくつも演じてきた。実際に災害現場で活動する人々の姿に触れ、命を守ることの重みについて芝居を通して学んできたからこそ、本作で演じた“報道に携わる人間”という立場にも、自然と責務の大きさを重ねるようになったという。

「災害時、被災者の命や安全を最優先するのが救助活動に従事する人たち。その中で、報道の人間は直接人を助けるわけではないけれど、今そこで何が起きているのか、どんな助けが必要なのかを正確に、そして冷静に被災地内外に伝えることに大きな意味があると思うんです」。

情報が混乱を生む可能性もある災害時において、報道が果たすべきは“伝えることで助ける”というもう一つの現場支援。音尾はその役割を、「光ではなく、影として支える仕事」と表現する。

「たとえば報道ヘリコプターの音で、救助を求める声が聞こえなくなってしまうといったケースも然り。取材したいという気持ちは分かるけれど、現場を混乱させてしまっては本末転倒ですよね。だからこそ、報道の人たちは“今、優先すべきは何か”を常に考えながら取材をしているんだと思うんです。そうした取材のあり方は難しい立ち位置ですが、大切な役割ですよね」と明かす。

趣味である釣りを通して交流のある報道関係者からも、その緊張感や使命感を感じ取ることがあったという。「報道に携わる方たちからは、常に何かヒリヒリするような、命の重みを背負っているような責任感がある。それが息抜きであろう釣りをしていても伝わってくるんです」。

自身が演じている“報道に生きる人間”にも、そうした実体験が加わり、自然と重みを宿している。

「歪めずに届ける」報道と演技の共通点

俳優としての音尾もまた、表現の中で“伝える”という行為に向き合い続けている。そんな彼が大切にしているのが、「正しく届けること」だ。

「さまざまな考え方があっていいと思う」と前置きしながらも、音尾は自身の思いをこう吐露した。「俳優の仕事って、脚本に書かれている言葉や空気を、なるべく歪ませずにそのまま見る人に届けることだと思うんです。演出や編集、さまざまな要素が加わる映像作品だからこそ、最初に脚本家が込めた思いはしっかり守っていきたい」。

脚本という“原稿”を読み解き、そのメッセージを1人でも多くの視聴者に“誤解なく伝える”。その姿勢は、まさにジャーナリスト的とも言えるかもしれない。

「自分がやっていることは、ある意味“報道スタイル”に近いのかもしれません。現場で起きていることを自分なりに噛み砕いて、歪めることなく、誠実に伝える。見る人に考えてもらうための、一要素でありたいんです」と語る。

膨大な情報にさらされる中で、誰もが簡単に“発信者”になれる現代。だからこそ音尾は、「視点の偏り」への警戒心を強く持つ。

「どんなに立派な報道機関やメディアでも、そこには必ず“人の視点”が入っている。つまり、情報は常に何らかのフィルターを通っているんです。だからこそ、伝える側はその影響力をしっかり自覚しなければいけないですし、受け取る側にも“これは誰かの視点を通した情報なんだ”と認識してもらいたい」。

「まさにこのインタビューもそうですよね」と音尾は言葉を添えた。発信するだけでなく、情報を受け取る立場でもあるからこそ、多角的な見え方を想像している。その姿勢は、情報があふれる今の時代において、私たちが持つべき視点をいま一度再考させてくれる。

本作で演じたプロデューサーという役柄を通して見つめた報道の現場、その中に垣間見える“伝えること”の本質は、自身の俳優としての在り方にも、しっかりと根付いている。

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