生活保護基準の引き下げを巡っては、29都道府県の受給者計1000人超が国などを相手取って各地で訴訟を起こした。デフレを理由とした減額措置について、物価下落率を過大に算出して減額幅を大きくしたなどとする原告側の主張に対し、国側は「厚生労働相には広範な裁量権が認められ、引き下げは適法だ」と反論。一、二審の判断は分かれている。
厚労省の資料によると、年間670億円の引き下げのうち、デフレを理由とした減額は580億円に上る。同省は2008年と11年を比較し、物価が4.78%下がったとして受給者への支給額に反映した。
しかし、原告側は引き下げが厚労省の基準部会での議論を経ずに実施されたことを問題視。部会では複数の委員が物価指数に基づき基準額を算定することに慎重な意見を示していた。各地の訴訟でも、厚労相の裁量権逸脱を指摘する判決が出ている。
また、08〜11年はテレビとデスクトップパソコンの価格がそれぞれ66.4%、74.7%値下がりした時期だった。生活保護受給世帯はテレビやパソコンへの支出が少ないのに、一般世帯の購入割合を基にデフレの影響を算定したことの妥当性も争点になっている。
さらに原告側は厚労省の計算方式が国際基準を外れたもので、下落率が大きくなっているなどとして「物価偽装だ」と訴えている。
一方、国は当時の厚労相の判断について「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定したとは言えない」などと反論。基準部会の検討を経ていないことも適法性に影響しないとしており、減額に裁量権の逸脱、乱用はないとの立場だ。
これまで、地裁段階では原告勝訴が19件、敗訴が11件。このうち、東京、大阪両地裁の行政訴訟専門部で争われた4件は全て原告が勝訴した。高裁段階では勝訴7件、敗訴5件で、いずれも勝訴の件数が上回っている。