『ボツ 『少年ジャンプ』伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』鳥嶋和彦 小学館集英社プロダクション 『週刊少年ジャンプ』(集英社)の黄金期を支えた鳥山 明氏の作品『ドラゴンボール』の生みの親であり、同じく鳥山氏の作品『Dr.スランプ』で悪の科学者「Dr.マシリト」のモデルとなったことでも知られる編集者・鳥嶋和彦氏。他にも『電影少女』『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』『ONE PIECE』『NARUTO‐ナルト‐』など、鳥嶋氏が関わって大ヒットとなった作品は数多くありますが、これらはどのようにして生まれたのでしょうか。その知られざる舞台裏と鳥嶋氏の容赦ない仕事術について明かされたのが『ボツ 「少年ジャンプ」伝説の編集長の"嫌われる"仕事術』です。
鳥嶋氏へのインタビュー形式で綴られた同書には、驚くべきエピソードが数多く収録されています。そもそも入社するまで漫画とは無縁の人生で、『ジャンプ』の漫画についても「絵は汚いし、下手くそだと思っていたよ。ただ暑苦しいだけで、キャラクターの表情も描けていないんだもん。内容も『男はこうあるべき』とか古くさい熱血ものばかり。レベルが低いなと思っていた」(同書より)という鳥嶋氏。けれどそんな視点を持っていたからこそ、鳥山氏のようなポップでライトな感覚を持つ新たな才能を見出せたのでしょう。
ふたりが出会ったのは、鳥嶋氏が25歳、鳥山氏が23歳のとき。今も語り継がれる「デビュー前の鳥山 明に500枚ものダメ出しをした」という伝説があります。それほどボツを出されたら、若き作家はつぶれてしまいかねませんが、鳥山氏は「この1年間はなかなか勉強になっておもしろかった。わしはめげないのである」と書いていたそうです。こうして、"漫画を読まない漫画家"として知られる鳥山氏と、"漫画を知らない編集者"である鳥嶋氏が組み、試行錯誤しながら生み出したのが『Dr.スランプ』だったといいます。
また、鳥山氏のもう1つの代表作『ドラゴンボール』にも、興味深い話があります。最初は人気があまり出ず、打ち切りまであとわずかという状況にまで陥ったそうですが、そこで取り入れた秘策が「天下一武道会」でした。鳥嶋氏は当時人気1位だった『北斗の拳』を徹底的に読み、「原さん(原 哲夫氏)に勝てるのは、鳥山さんの絵が持つ、動きの自由自在なアングル取りだと思った。原さんのアクションが縦・横の動きだとすれば、鳥山さんは手前から奥、斜め、どこからでも動きを描ける」(同書より)と分析。そのため、空中、高さを生かした立体的な動きができる場所として用意されたのが、天下一武道会だったというわけです。鳥山氏の空間把握力には類まれなるものがありますが、その能力を見抜き、人気が下がっても「理由を突き止めて改善策を見つければいいだけ」「分析と対策をするのが編集者の仕事」(同書より)と語る鳥嶋氏には、やはり伝説の編集者としてのすごみを感じざるを得ません。
ほかにも、「『アラレちゃん』は大失敗」「『ドラゴンボール』はフリーザ編で終わらせるべきだった」「『ドラクエIII』攻略本の大詰めで役員に土下座を要求」「『ONE PIECE』連載に反対した理由」など、信じられないような本当の話が赤裸々に記されています。あのころ『ジャンプ』を夢中になって読んでいた皆さんは、その舞台裏を知って胸が熱くなるかもしれません。
そして何より、作品づくりに携わる人やそれを志す人にとっては、メガヒットを生み出す秘訣こそが最も知りたい点でしょう。同書では最後に鳥嶋氏がその極意を明かしていますので、ぜひそれも楽しみに読んでみてください。
[文・鷺ノ宮やよい]
『ボツ 『少年ジャンプ』伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』
著者:鳥嶋和彦
出版社:小学館集英社プロダクション
>>元の記事を見る