写真 会社経営や組織運営においては、指導力や戦術眼が問われる場面が多い。特に情報発信力と影響力が重視される現代においては、異分野からもマネジメントのヒントを得る動きが加速している。近年、その一例として、サッカーの戦略や戦術をマネジメントに活かそうという動きが注目を集めている。日本のチームと世界のチームの戦略や戦術について、より深く考察される場面も増えてきている。そこで独自の地位を築いているのが、レオザフットボール(Leo the football)さんだ。
彼のYouTubeチャンネルは、鋭い戦術分析を武器にサッカーの試合を徹底的に解説し、登録者数は約30万人を超える。視聴者層はサッカーファンにとどまらず、現役の選手や監督、さらにはビジネスパーソンや経営者にまで広がっている。その発信は、YouTubeという枠を超えて“戦術的思考”の実践例として高く評価されている。
監督の視点だけでなく、選手(プレイヤー)の立場で物事を分析、アドバイスできる背景には、元お笑い芸人という異色の経歴や、生活苦からはい上がり、着実に積み重ねてきた努力の軌跡がある。現在では、自らがオーナー兼監督を務めるクラブ「シュワーボ東京」を率い、「世界一を目指す」と語りながら、実際の現場での挑戦を続けている。
今回インタビュアーを務めるのは、出版プロデューサーでありビジネス書作家としても知られる水野俊哉さん。これまでに数々のヒット作を世に送り出してきたほか、自身も『トップ1%のサッカー選手に学ぶ成功哲学』(すばる舎)などの著書を持ち、スポーツとビジネスの接点に関心を持ち続けてきた。
インタビューでは、レオザフットボールさんのこれまでの歩みと現在の挑戦、そして未来への展望を通じて、現代における「影響力」や「成り上がり」のリアルを浮き彫りにする。彼は日本サッカー界の異端者か、あるいは次世代の旗手か――その言葉の中に、時代を突き動かすヒントがあるはずだ。
◆レオザフットボールとは?
水野俊哉(以下、水野):レオザさんのYouTubeを初めて見たのは、前回のカタールW杯の前くらいで、けっこう衝撃を受けました。まだレオザさんのことを知らない方もいると思うので、今日はそのあたりからお聞きしたいのですが、そもそも「レオザフットボール」とは何なのか、その正体について伺えますか?
レオザ:わかりました。まず、数字でいうとチャンネル登録者数は30万超くらいですね。戦術分析の鋭さとか深さが話題になっているみたいですが、僕自身はあまり「戦術分析系YouTuber」っていう肩書は使わないようにしています。
水野:それはどうしてですか?
レオザ:世間的なイメージは全然否定しないのですが、戦術ってサッカーにおいて最後のギアみたいなものかな、と。それよりもエンジンを焚きつける、つまり情熱とかモチベーションをどう高めるかのほうが、監督としては重要だったりする。だから、普通に「サッカーYouTuber」でいいかなと思っています。戦術って言葉を入れると、どうしても頭でっかちな人って思われがちですしね。
水野:なるほど。レオザさんは『蹴球学』という著書で「指導者や選手が知性を使い、サッカーをレベルアップさせるきっかけになりたい」と書かれていますよね。一般的な疑問として、なぜそこまでサッカーを深く分析できるようになったんですか?
レオザ:実はYouTubeを始めた当初は、全然戦術の話なんてしてなかったんですよ。友達にすすめられて、ただ好きなバルセロナの話をしてるだけだった。それが、YouTubeのコメント欄で「ここは具体的にどうなんですか?」みたいに質問されるようになって、それに対して一つひとつお返しを続けているうちに、自然と分析が深まっていった感じですね。
◆レオザフットボールはなぜ生まれたのか?
水野:YouTubeチャンネル「レオザフットボール」が生まれたきっかけは、芸人時代の相方さんからだと伺いました。
レオザ:そうです。僕はもともと吉本興業で10年くらいお笑い芸人をやっていたんです。NSC(吉本総合芸能学院)出身です。芸人コンビを解散する直前くらいに、相方の茶間君がサッカーゲームのYouTubeチャンネルをやっていて、「サッカーの話よくしてるから、YouTubeでやってみたら?」って言われたのが始まりです。
水野:そこから現在のチャンネルに?
レオザ:はい。ちょうど時間もあったので、「じゃあ、やってみるか」くらいの軽い気持ちで。それが思ったよりも反響をいただいて、今に至っています。でも、根本がゲームチャンネルだったので、僕が普通のサッカーの話をするのはちょっと違うかなと。それで独立する形で今のチャンネルを作りました。今も茶間君とは仲良くしてますよ(笑)。
水野:そこから人気が出るまでにはかなりご苦労もあったとか。アルバイトと掛け持ちしながら動画投稿を続けていた時期について、少し聞かせていただけますか?
レオザ:本当に、低い階段を一歩ずつずっと登ってきた感じなので、「ブレイクした」っていう実感は正直、今でもあまりないんですよね。当時は、コンビニでバイトしながら動画の構成を考えて、帰ってから作成してアップしていました。
「UEFA EURO 2016」の時かな、深夜のバイトだったので仕事を効率的にやると休憩時間が増えるんです。増やした休憩中に、バックヤードで試合を見ながら分析メモを取っていたのですが、店内カメラからだとそこは死角になっていて。カメラを見ていた本部の責任者が「店に誰もいない」と、店長に連絡がいったことがあって! 死角でサボってバイトしていた僕はクビになりました(笑)。100%、僕が悪いです。
水野:生活もかなり厳しかったのでは?
レオザ:バイトと動画制作で半々くらいの収入で生活していたのが、バイトをクビになったことで、動画を毎日さらに2本上げないと生きていけない状況になりました。当時の家賃とか生活費を考えると、本当にギリギリでしたね。クオリティが低いって思われたくないから、SNSとかでは余裕あるフリしてましたけど。
その頃、たまたまテレビでスウェーデンの刑務所の特集を見て。労働時間が1日6時間で週休2日、部屋は8畳ぐらいあってパソコンも自由に使えるって紹介してたんですよ。「俺、ここの囚人以下の生活してるわ……」って気づかされましたね。
◆同好会からスタートしたシュワーボ東京
水野:現在はYouTubeチャンネル「レオザフットボール」の運営だけでなく、ご自身で立ち上げたサッカーチーム「シュワーボ東京」のオーナー兼監督も務めていらっしゃいます。これはどういった経緯で設立されたのですか?
レオザ:もともとは僕がやっていたオンラインサロンのメンバーで、「YouTubeよりもっと深いことやろうぜ!」みたいなノリで作った同好会が始まりなんです。それが活動していくうちに、「社会人リーグに参入しよう!」って内側でどんどん盛り上がっていって。今、チームの社長をやってくれている笠原君が中心になって、「じゃあ本気でやろう」と動き出してくれたんです。
クラブ名をつけなきゃいけないってことで「FC ŠVABO」が誕生して、それが徐々に「Jリーグを目指そう」という目標に変わっていきました。Jリーグを目指すなら地域密着が必要なので、名前も「シュワーボ東京」に変えて、今に至ります。
水野:最初は本当に同好会レベルからスタートしたんですね。
レオザ:そうです。入団基準もない同好会ですので、未経験者の選手も多数抱えていました。そこから徐々に、マナーの悪い人は入れないようにしたり、サッカー経験がある人をセレクションで選ぶようになったりしていきましたね。その後、クラブを株式会社化して、ピッチ内外を強化できたことで結果が出始めた形です。
水野:ご自身も指導者として、どんどんのめり込んでいった?
レオザ:そうですね。僕、もともとプレイヤーとしてのメンタルがめちゃくちゃ強いんですよ。芸人の頃も音楽をやっていた頃も、自分が良いパフォーマンスをするために、舞台に立つために、どういう環境が必要か、どういう仲間が必要かっていうのを常に考えていました。音響さんとかスタッフさんとか、いい人を集めるところから自分でやっていたので、それがサッカーというフィールドに変わっただけなんです。
◆オシムさんが代表監督時代に見せたサッカー
水野:指導者としての経験は、他の活動にも影響を与えていますか?
レオザ:めちゃくちゃ与えています。例えばお笑いの舞台でも、悪い音響さんだと、漫才師がセンターマイクにちょうど立つ瞬間にマイクの音が落ちちゃったり、変なタイミングでバツっと切られたりすることがあるんです。それだけでお客さんのツカミが全然変わってくる。
そういう細かい演出の部分を、プレイヤーの立場でやりながら、リハーサルのときに「ここはこういうふうにフェードアウトで音を落としてください」みたいに指示を出していた経験が、今のサッカーの指導にもすごく活きています。「選手として、こういうアドバイスをされるとやりやすいけど、こういう指示はキツいな」っていうのが、指導者と選手、両方の目線でわかるのが強みかもしれません。
水野:指導の際に参考にされている方はいらっしゃいますか? やはりオシム元監督の影響が大きいのでしょうか。
レオザ:オシムさんの影響はめちゃくちゃ大きいですね。2006年のドイツW杯でジーコジャパンが思うような結果を残せなかった後、オシムさんが日本代表監督に就任して見せたサッカーは、「考えて走る」ことの重要性を示してくれました。
ボールをつなぎながら、選手たちが連動してどんどんスペースに走り込んでいくのですが、指導する立場になってから、改めてその考え方の深さを感じています。オシムさんがジェフ千葉でやったこととか、残した言葉の重みとか。
よく「走るサッカー」って言われますけど、オシムさん自身は「走らなくていいサッカーって何だ?」って問いかけていました。つまり、究極的には、圧倒的にうまければ走らなくても勝てるかもしれない。でも、うまくないなら走らなければ勝てない。だから、普段からうまくなるために努力するし、たとえうまくなくても勝つために走る、という考え方です。ウチのチームも基本的な考え方は同じで、そこに時代の変化と僕の哲学を踏まえたアレンジが多く加わっています。
◆「令和の虎」の桑田龍征さんがスポンサーに
水野:YouTubeの人気番組「令和の虎」がきっかけで、著名な経営者である桑田龍征さんとも深い交流が生まれたそうですね。
レオザ:桑田さんが番組内で僕の名前を出してくださったのを知って、それでX(旧Twitter)も見たらフォローしていただいていたので、フォローを返してやり取りが始まりました。ちょうどその頃、僕らが「シュワーボドキュメンタリー」という、チームの活動を追ったドキュメンタリー動画シリーズを始めた時期だったので、対談をお願いしてそこから深く交流させていただけることになりました。
水野:桑田さんもチームを持たれていますよね。それが縁で対戦もされたとか。
レオザ:そうなんです。うちのチームと桑田さんのチームで対戦させていただく機会がありました。ありがたいことに、その試合で僕らが勝つことができたんです。そうしたら試合後に、桑田さんが「こんなに強いチームだったら、俺がスポンサーになるよ」って言ってくださって。もう、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか! 僕、プロレスも好きなんですけど、これ以上ない最高のストーリーラインだなと感動しました。
水野:まさにドラマのような展開ですね。スポンサーになっていただいて、関係性はどのように変化しましたか?
レオザ:桑田さんには、チームの胸スポンサーになっていただいているのですが、単にお金を出していただくだけの関係じゃないんです。とある事情でクラブの経営が厳しくなり相談した際に、追加で資金を出してくださいました。
本当にピンチのときにも変わらず応援していただける……そういうお金だけじゃない、男としての器の大きさ、カッコ良さみたいなものも、桑田さんからは教えてもらっています。
水野:桑田さんとの出会いは、チームにとっても、レオザさん個人にとっても大きな転機だったわけですね。
レオザ:間違いないですね。桑田さんみたいなお力のある方々に応援していただけることは、本当にありがたいことです。でも、それに甘えるんじゃなくて、僕ら自身がもっともっと魅力的なチームになって、応援してくれる方々が「シュワーボ東京を支援していることを誇りに思う」と感じてもらえるように努力し続けなければいけないと思っています。
◆シュワーボ東京、世界一への道のり
水野:個人としての目標だけでなく、監督やチームとしての目標、今後の展望についてお聞かせください。やはり「シュワーボ東京」を上のカテゴリーに上げていくことでしょうか?
レオザ:そうですね。個人としての目標もチームとしての目標も、結局は「シュワーボ東京を世界一にする」という一点に集約されます。それが、僕がこれまでYouTubeやさまざまな活動を通じて発信してきたこと、やってきたことの「証明書」になると思っています。
僕がやってきたことが本当に正しかったんだ、という説得力を持たせるためには、結局のところ結果を出すしかない。
水野:世界一、ですか。壮大な目標ですね。
レオザ:もちろん簡単なことではありません。そのためには、僕一人の力だけでは到底足りなくて、一緒に戦ってくれる仲間、選手やスタッフの存在が本当に重要になってきます。だからこそ、目標達成に必死になるあまり、一番大事な仲間への愛情やリスペクトを忘れないようにしたい。そこは常に意識していたいですね。
クラブとしては「こうしたい」という目標があっても、目標を達成するためだけにはやりたくないですね。一緒にやってくれている人たちへの愛を忘れず、一緒に目標までの旅を楽しみたいですし、そういうクラブでありたいと思っています。個人的な目標は健康です。
水野:健康第一ですね。最後に、少し大きな話になりますが、日本代表が将来ワールドカップで優勝するためには、何が必要だとお考えですか?
レオザ:「アレンジ力」ですね。日本の育成年代の取り組み自体は素晴らしく、上質な選手が揃ってきている。そこに日本人の特徴である「海外の良いものを取り入れて、それを自分たちなりにアレンジして、さらに良いものにしていくこと」がサッカーでできたら、とてつもない国になります。
料理なんかを見てもそうですよね。それがサッカーの世界でも確実に起きている。三笘薫選手のように、単なるフィジカルの強さだけじゃなく、相手を研究しつくしてドリブルで抜ける選手が出てきたり、選手自身がしっかり考えてプレーを選択するようになってきています。
水野:指導者やクラブ経営といった、いわゆる「トップ」の部分のレベルアップも重要になってくるでしょうか?
レオザ:まさにそこが一番大きいかもしれません。いいトップ、つまり優れた経営者や指導者がいるから、いい監督が育つ。いい監督がいるから、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できる。どんな業界でも、社長がダメなのに伸びている会社なんてないじゃないですか。
サッカークラブも同じです。なので、日本サッカー界を発展させていくためには、サッカー界に携わる経営者や指導者といった立場の人たちが、さまざまな試みを具体的に実行していく必要がある。そういった方たちの行動で変わってきている部分と、なかなか変わらない部分があるので、そこに挫けず一人ひとりが動いていくことが、次の三笘、次の久保を生み出すために必要だと思います。
水野:Jリーグの活性化という観点では、例えば新規参入のハードルが高いといった課題もあるのでしょうか?
レオザ:それは間違いなくありますね。今の時代、YouTubeやSNSといったプラットフォームの影響力ははかりしれません。例えば、再生回数が300万回を超えるようなアーティストが、世間一般ではほとんど知られていなくても、特定のコミュニティや界隈ではめちゃくちゃ有名、みたいな現象が当たり前に起きていますよね。
Jリーグに繋がる前段階の地域リーグでも、もっと新規参入のハードルを下げて、例えば試合映像の配信をもっと自由に行えるようにルールを変えるだけでも、新しいチームがどんどん参入してきて、リーグ全体がもっと盛り上がる可能性はおおいにあると思います。各カテゴリーや地域によって状況は異なるので、そこに合わせた継続的なアップグレードが必要です。
【インタビュー後の感想(水野)】
レオザ氏は、紛れもなく日本のフットボール界に突如現れた、稀代の才能ある戦術家である。選手歴がないことや元お笑い芸人であることをどう捉えるかは人それぞれだが、まさにYouTube時代の申し子だろう。個人的にはサッカー漫画「ブルーロック」の絵心甚八のようにサッカー日本代表にも関わって欲しいと思っている
【プロフィール】レオザフットボール
サッカー戦術分析家、YouTuber、シュワーボ東京 オーナー兼監督。1986年生まれ。お笑い芸人として活動後、2016年よりYouTubeチャンネル「Leo the football TV」を開始。独自の戦術分析動画が人気を博し、チャンネル登録者数は30万人を超える(2024年6月現在)。2020年に自らサッカークラブ「FC ŠVABO」(現・シュワーボ東京)を立ち上げ、オーナー兼監督を務める。著書に『蹴球学 名将だけが実践している8つの真理』(KADOKAWA)がある。
【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。