音楽家・泉谷しげるが個展で見せたサイバーパンクへの熱き情熱「俺はメジャーになりたくない。熱狂を生み続けたい」

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2025年06月04日 18:20  週プレNEWS

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ミュージシャン・泉谷しげるによる個展『サイバーパンク展』が6月15日(日)まで、アーティストで編集者の米原康正がキュレーションをするギャラリー"tHE GALLERY OMOTESANDO"にて開催されている。

「漫画家になりたかった音楽家」と自認する泉谷が、70年代から描いてきたサイバーパンクの世界を新たに描き下ろし。約30点に及ぶその作品は破滅的で、終末感溢れる近未来の世界ながらもどれも力強く、生命力に満ちたものばかり。眺めているうちに心が躍ってくるようだ。

また個展に先駆け、6年ぶりのニューアルバム『シン・セルフカヴァーズ 怪物』がリリースされ、さらには描き下ろしサイバーパンク漫画『ローリングサンダー』もリリース。

来年はデビュー55周年ながら、いまなお絶えぬ創作意欲を発揮し続ける泉谷に、今回の個展、漫画、新アルバムについて、そしてサイバーパンク、さらには表現へのパワーについて伺いつつ、あわせて今回、個展を企画した米原康正にも泉谷の魅力について語ってもらった。

【写真】泉谷が描く、サイバーパンクの世界

*  *  *


――現在、泉谷さんの個展『サイバーパンク展』が開催中です。サイバーパンクは、70年代から泉谷さん描き続けてきた世界だとか。

泉谷 そう。サイバーパンクはずっと好きで。最初は1977年にアメリカにいる友達から『HEAVY METAL』ってコミック誌を教えてもらったのがきっかけ。メビウス、シド・ミード、H.R.ギーガーらの漫画を見て、その幻覚的な世界観にびっくりしてね。向こうに行って大量に彼らの漫画を買い漁ったよ。税関で止められるくらいね。自分もこういうのを絶対やりたいってくらいハマった。

その後『狂い咲きサンダーロード』(1980年)で美術を担当して映画の形にしたり、『デスパウダー』(1986年)ってサイバーパンク映画を自分で監督したり。『宝島』で(忌野)清志郎らと「ヒューマ」(1991年)なんて漫画も描いたな。今回、ヨネ(米原康正氏)ってギャラリーの変わった人から個展の話をもらったときも、描くのはサイバーパンクって決めていた。いやサイバーパンクしか描く気にならないっていったほうがいいかな。

――『狂い咲き〜』は今も変わらぬ人気作。今回、それを題材にした新作が展示されていましたが、見てアツくなった方も多いでしょうね。

泉谷 だといいけど。石井聰亙(現・石井岳龍監督)は最初、あれをただの暴走族映画にしようとしてたんだよ。で、「おいおい、もっと近未来バイオレンスの要素を加えろよ」っていろいろ資料を見せたら、「じゃあ泉谷さん描いてよ」となってね。当時、フォーライフを辞める一端になったほど、そっち系統に入れ込んでたんだよな。まぁアートに目覚めるってそういうことなんだけど。


――ギャラリー内には、幻覚的ながらもエネルギーに満ちた近未来の画が並びます。泉谷さんの中で、サイバーパンクの定義とは?

泉谷 明確なのはないな。強いて言えば過酷な状況の中でも逞しく生き残る不良どもの世界というか。戦争や震災後の瓦礫の中、不安な顔をした大人が見る中で、子供たちが笑いながら走り回る光景ってあるでしょう。あのイメージだよね。

――終末感はあるけど決して、悲劇的ではないというか。

泉谷 そうそう。むしろ終末も楽しんじゃうみたいなね。辛気臭くないんだな。うちらの世代って、カッコつけてんのかどうか知らないけど、未来をやたらと悲観的に語るやつが多くて。俺はそいつらに「ふざけんな! ハスに構えてんじゃねーよ、この野郎!」って思うわけ。たとえ終末だろうがなんだろうが、前を向いてる奴の方が断然カッコいい。そう思うんだな。

――サイバーパンクってテクノロジーと密なだけにデジタルなイメージがありますが、泉谷さんの絵はフィジカルで生々しいですね。

泉谷 それは俺がコンピュータを使えないってのと、あとコンピュータってやるとなんとなくでも"できちゃう"でしょ。それじゃつまらないんだよね。であればコンピュータより体力を使おうと。今回のは全部手書き。2ヶ月間かけて19点描いて、なんだか点数が少ないので初日前に一日がかりで7点描いた。断っとくけど、デジタルも好きは好きなんだよ。でもアナログはデジタルを直せるけど、デジタルでアナログは直せないから。俺はコンピューターにも尊敬されたいんだよな。

――今回はその個展と並行してサイバーパンクマンガ『ローリングサンダー』を発売しました。個展と連動する世界観で、地球の滅亡をかけた人類とAIとの死闘を描いた物語。260ページの力作です。

泉谷 描き切るまでに1年3ヶ月かかった。ヨネに最初予定してた開催時期を延期してもらうなどして迷惑をかけたよ(笑)。

――『コブラ』のサイコガンのような腕を持つ女戦士、ハンドガンケイをはじめ魅力的なキャラが生き生きと描かれ、見ていて思わず引き込まれます。もともと泉谷さんは漫画家志望だったとか。

泉谷 そう。60年代、手塚治虫さん、石ノ森章太郎さん、さいとうたかをさんら、たくさんの漫画家に憧れてね。『COM』って雑誌に投稿したよ。ただ俺は絵が下手でプロにはなれなかった。それで当時流行っていたフォークの世界にいったんだけど、漫画家になれなかった悔しさはやっぱりあって。だから今回思い切り描けたのは嬉しかったよ。

――何より一冊、描き上げるって相当体力が必要だったはず。それこそ目なんて大変ですよね。

泉谷 目は霞んできたらすぐ寝て休んじゃうし、5万円するメガネを買ったから大丈夫だったよ(笑)。というか、絵も漫画も体力は関係ないんだよ。みんな、お酒を飲みに行ったり、旅行に行ったり、競馬にいったりするでしょ。自分にとってはそれと同じ。だから苦じゃないし、むしろ幸せなんだよな。ただ、どちらもヒットを狙ってやってないからさ。それは関係者に覚悟してほしいんだけど(笑)。


――売れるかどうかは二の次だと。

泉谷 うん。俺はそういう欲がないんですよ。売れてメジャーになんて永遠になりたくないし、それこそ俺の作品はメジャーにならない面白さなんです。『サンダーロード』もそう。当時、プロデューサーに言われたもん。「これは受けないです」って。それも作ってる真っ最中に(笑)。

――メジャーにならない面白さ、というと?

泉谷 熱狂できるってこと。深く激しく楽しめる面白さというか。そして熱狂が熱狂を呼び、さらにまた熱狂を産んでいく。それがなにより大事。俺は決してたくさんのファンを持っているわけじゃないけど、みんな熱狂的なんだよね。ヨネや今回の漫画の編集者もそう。それが一番嬉しいし、幸せ。だからそれに純粋に応え、熱狂を生み続けたいと思う。音楽もそう。スタジアムでライブは何度もやったけど、絶対に小さい箱がいい。個人が見えないのがイヤだからね。

――ファンが熱狂的だからこそ、ひとりひとりに向き合いたいと。

泉谷 そうそう。それに俺のファンは歳を取っているから、目も耳も悪いし、デカいと歩くのも大変。だから小さい場所がいいのもあるけど(笑)。

――その音楽ですが、この個展や漫画にやや先駆けて、6年ぶりの新アルバム『シン・セルフカヴァーズ 怪物』がリリースされました。こちらは泉谷さん自身で過去の作品をセレクトし、セルフカヴァーした作品です。

泉谷 セルフカヴァーってコンセプト自体は「いまの声で歌っているのを聴きたい」ってファンの声に応えたものなんだけど、それより、レコーディングが大嫌いで、ライブが大好きだから。キレイな音じゃなくていい、ライブのような爆音を出させてくれとお願いして作った。それが一番大事だったくらい(笑)。


――アルバムには新曲「怪物」を収録。これは美しい姿から醜い怪物に変身した男性の物語。PVもビル崩壊や爆発のシーンとともに、グロテスクなペイントを全身にした泉谷さんが歌うといった内容で、いずれにせよ、今回の個展や漫画を彷彿させる、なんともサイバーパンクな世界観の楽曲です。

泉谷 うん、それしかできないし、やらないしね。特に「怪物」は昔、俺が描いた漫画がベースになっている。それは自分が作った想像上の怪物が現実に現れて暴れ出し、仕方なしに自分で始末するって話で。今回の漫画で描いた「AI対人類」も同じだよね。AIだってもともと人間が作り出したものなんだから。結局、怪物は誰もが抱える不安や疑心暗鬼など形になったもの。自分を一番苦しめるものは、自分の勝手な妄想なんだよな。

――なるほど。それにしても歌も絵も漫画もそうなんですけど、泉谷さんの作品は「叫ぶ」イメージがありますよね。以前ある記事で「反権力が一番自然なエンタメだ」と泉谷さんが語っているのを読みましたけど、常に反権力でいたいと?

泉谷 あぁ、確かに反権力ってのは大事にしている。でもそれは体制とかそういうことに対してではなくて、人間対人間の戦いにおいてだけど。第一、この国で税金払っといて、反体制もクソもないし(笑)。ただ叫ぶってのは、それだけが理由ってわけではないけどな。単純に気持ちいいんだよね。

――気持ちいい、ですか?

泉谷 うん。爆発するというか、エネルギーを放出するというか。ものすごく生きてることを実感する。みんなね、もっと叫んだほうがいいですよ。大声を出すことって普段あまりしないでしょ? 叫ぶと気持ちがすっきりするよ。それに、喉とか内臓を鍛えられるし、なんなら体力だってつく。あと70代になると、喉が弱くなって餅も食えなくなるから、絶対に大事だよ。

――いいことづくめなんですね(笑)。今回のように絵や漫画を手がけるなど、泉谷さんは精力的に活動し続けているわけですけど、今後のビジョンなどありますか? 

泉谷 特にはないかなぁ。強いて言えば、まだまだでかい音を出したいってこと、音楽的でなくていいから。振り切った表現をしていきたいってことかな。それこそ、ライブはまだまだたくさんやっていきたいな。是非来て、一緒に大声で叫んでほしいと思うね(笑)。

★tHE GALLERY・米原康正さんが語る泉谷しげるさんの魅力

「僕のギャラリーで、一昨年に糖衣華さんってアーティストの個展をやったんです。で、彼女の家に遊びに行ったら、おじいさんが泉谷しげるさんだと聞いて、びっくりしちゃって。

泉谷さんが『狂い咲きサンダーロード』って映画で、美術を担当するなど、アーティストとしての活動を知っていたので糖衣華さんとの「対決展」をお願いし(2023年)、そして今回、泉谷さんの個展を開催させていただきました。

泉谷さんは表現に対して真摯な方という印象ですね。事前の打ち合わせで約30点展示しましょうという話をしていたんですが、開催前日の時点で展示されていたのは22点。僕は納得していたんですけど、足りないよなって言って、翌日の朝6時まで徹夜で7点を描いて持ってきてくれました。そのままギャラリーでパタンと2時間寝ちゃいましたけど、すごいバイタリティだと驚きました(笑)。

『サンダーロード』も、アート作品集『泉谷しげるが作品impact!』(1998)を見てもそうなんですけど、泉谷さんはサイバーパンクを表現しています。一切ブレがないし、しかもいつ見ても時代とのずれを感じない。それがすごいと思います。決して時代を意識せず、とにかく描きたいものを全力で描いているからなんでしょうね。

あと決して暗くならず、ハッピーな気分にさせてくれるのも泉谷さんの作品の魅力。サイバーパンクってノーフューチャーみたいなイメージもあるじゃないですか。決してそうじゃない。泉谷さんの作品は力強くて、エネルギーに満ちているんですよね。それはご本人の人柄もあると思います。

週末はご本人も在廊され、トークやライブもされます。泉谷さんの時代を超えた圧倒的な世界を全身で堪能していただきたいですね」


■泉谷しげる 個展 "サイバーパンク展" 
場所:tHE GALLERY OMOTESANDO 
期間:5月16日(金) 〜 6月15日(日) 
休廊日:月・火曜日 
時間:12:00〜19:00 
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-20-21 ベルウッド原宿

■泉谷しげる SHIGERU IZUMIYA 
1948年5月11日 青森県生まれ
1971年、アルバム『泉谷しげる登場』でデビュー。以降、ミュージシャン、俳優、アーティストとして活動。
アーティストとしての活動は、映画『狂い咲きサンダーロード』(1980年)で美術・音楽を担当し、ブルーリボン美術デザイン賞を受賞。また『爆裂都市/バーストシティ』(1982年)で美術を担当し、そちらも話題を呼んだ。作品集『泉谷しげるが作品impact!』(1998年)も発表している。
2025年2月に48年ぶりに古巣フォーライフよりCD『シン・セルフカヴァーズ 怪物』をリリース。

『シン・セルフカヴァーズ 怪物』 フォーライフより \3300(税込)

『ローリングサンダー』 生きのびるブックスより \2200(税込)

 
■泉谷しげるライブ情報

●「シン・セルフカヴァーズ 怪物」発売記念 
6/21(土) 
ビルボードライブ横浜

●「泉谷しげる全力ソロライブ90分! 越谷」 
6/28(土) 
越谷・EASY GOINGS

●「泉谷しげる全力ライブ90分! 神戸・名古屋」 
7/12(土) 
神戸VARIT. 
7/13(日) 
名古屋・TOKUZO

取材・文/大野智己 撮影/宮本賢一

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