2025スーパー耐久第3戦富士24時間 レース序盤に繰り広げられた小出峻のSPOON リジカラ CIVICと野尻智紀のhonda R&D Challenge FL5による争い
TKRI松永建設AMG GT3が総合優勝で幕を閉じた2025年スーパー耐久第3戦富士24時間レース。各クラスでもさまざまなドラマが生まれたなか、ST-2クラスではホンダ陣営のスーパーGT GT500クラスドライバー同士による“シビック対決”が密かに繰り広げられていた。
今季は95号車SPOON リジカラ CIVICに小出峻がレギュラー参戦しているのに加えて、今回は富士24時間の助っ人要員として、72号車OHLINS CIVIC NATSに大津弘樹、743号車honda R&D Challenge FL5に野尻智紀が加わった。
●『だから言ったじゃん!』スタート直後から白熱の野尻vs小出
昨年に続いてチームのクラス優勝に貢献するべく743号車に加わった野尻。決勝ではスタートドライバーを務めたほか、深夜の時間帯や日曜日の終盤パートなど、複数のスティントを担当した。
雷雨から天候が回復していく場面で、最初はセーフティカー(SC)先導状態になった2025年の富士24時間。ST-2クラスポールポジションからのスタートだった野尻は「最初(SC先導)の段階から『めちゃくちゃやる気がある人がいるな……』という動きを感じていました」と、後方から只ならぬオーラを感じていた。
その正体は、クラス3番手スタートのSPOON リジカラ CIVIC。スタートを担当した小出は、今回のホンダGT500ドライバー対決をかなり意識していた様子で「実は、今回はそこに対して闘志をけっこう燃やしていて、スタートでも野尻さんに仕掛けにいきましたし、夜のスティントでは大津さんと同じスティントになってやり合う場面もありました」と、先輩ふたりに対して積極的に仕掛けていっていた模様。
スタート直後から始まった小出の猛追に対して、野尻は一時先行を許すが、その後も激しいバトルが続いた。
「なんとか防げたらなと思って4〜5周は守っていました。ただ、タイヤと燃費のケアもしなければいけないので、無理をせずに彼を前にいかせました。そうしたら、今度は向こうのタイヤがタレたらしくて『だから言ったじゃん、最初にいき過ぎなんだよ!』みたいな(笑)」と野尻。
「最初にたくさん仕掛けてこられて、僕もペースを上げざるを得なかったので『そうだったら、レースは長いんだから、仕掛けてこないでほしかったなぁ』という感じでした。でも、そういうのも楽しいところだなと思います。各チームでそれぞれ思惑は違うので、あえて仕掛けにいって相手のペースを乱すというのもひとつの戦い方ですから、すごく面白かったです」と、レース序盤を振り返った。
honda R&D Challenge FL5は夜間走行に入るタイミングで他クラスの車両と接触があり、マシン修復のため20分ほどピットイン。これでトップ争いから脱落した。
スーパーフォーミュラでは2度のチャンピオン経験を持つ野尻だが「この24時間では、たったひとつでも何か起きてしまうと、結果につながらない。それだけ、みんなが当たり前かのようにノーミスでやってくるし、すごく競争力が必要なレースだなと思いました」と、富士24時間で勝つことの難しさを痛感していた様子だった。
●「無線で誰が乗っているか確認した」深夜に繰り広げられた小出vs大津
深夜のスティントではSPOON リジカラ CIVICの小出と、OHLINS CIVIC NATSの大津が接近戦を繰り広げた。野尻と小出がスタートを担当したのに対し、大津は日付が変わる手前に初スティントを迎えた。その後、深夜を担当するなかで、SPOON リジカラ CIVICとバトルをする場面があったという。
やはり大津もホンダGT500ドライバー同士のシビック対決は意識していたそうで「自分のスティント中も『今95号車(SPOON)って誰が乗っているの?』と無線で確認していました。そこで小出が乗っているとわかると『よし、いってやろう!』という気持ちにはなりましたね」と笑顔で語る。
「夜のスティントだからこそ、そういったターゲットがいるとこっちも燃えますし、楽しめるという意味ではライバルがいて良かったなと思います。実はエンジンが失火する症状があった関係で、ストレートスピードが伸びなくて小出に抜かれたのですけど、こちらもペースがないことを分かっていながらも、あえて最終コーナーで抜き返そうとしたり……ふたりにしか分からないバトルをしていました」と小出とのバトルを楽しそうに振り返る大津。
対する小出は「すごく面白かったです。GT500もシビックですし、ある意味で“真のシビック使い”を決める戦いみたいな感じで……結果的に大津さんのいるチームが優勝したので、そこに関してはすごく悔しいです」と、ライバル心は相当強かった様子だ。
●野尻「24時間は長いけど、また挑戦したくなってしまう」
小出のコメントにもあったとおり、このホンダGT500ドライバー対決は大津が加わったOHLINS CIVIC NATSがST-2クラス優勝を飾った。
「シビックにはST-Qクラスでだいぶ乗ってきたので、そのアドバンテージはあるのかなと思いました。いろいろなことを試してきたなかで、速く走らせる方法や、FF独特のセッティングをだいぶ培ってこられているなというのは今回感じました。それをチームに貢献できたのは良かったです」と大津。
レース終盤にピット作業違反に伴うペナルティストップ60秒が結果的に大きく響き、2位に終わったSPOON リジカラ CIVICの小出は「正直、このレースでは『ああなっていれば良かったな』というのがあまりなかったです。トラブルというトラブルはほとんど出ていなかったですし、みんな良いペースで走っていました。戦略に関しても全然悪くなかったので……本当に最後のちょっとしたところが噛み合わなかったなという感じです。でも、確実に成長していて、良い方向に進んでいるので、ここからのレースがすごく楽しみです」と、今回の結果と内容を前向きに捉えて、次戦につなげようとしていた。
そしてhonda R&D Challenge FL5の野尻は「水曜日から現場入りして、レースウイークがすごく長くて、土曜日の段階で『ようやくレースが始まる』という感じなんですけど……こうして終わると、不思議とまた挑戦したくなっちゃいますね」と、どこか思い残したことがあったような様子。
クラス4位で表彰台を逃す結果になったこともあり「どういう形であれ、この富士24時間に挑戦できる機会があるといいなと思っています」と、来年への想いを語った。
スーパーGTとはひと味違ったFL5シビック・タイプR対決。お互いに負けたくないという強い想いが出つつも、どこか対決を楽しんでいる3人が、とにかく印象的だった。
[オートスポーツweb 2025年06月04日]