WEC参戦2年目のミック・シューマッハー(アルピーヌ・エンデュランス・チーム) 2025年WEC第3戦スパ F1からWEC世界耐久選手権へ活動の場を移し、最高峰のハイパーカークラスで36号車アルピーヌA424をドライブするミック・シューマッハー。今季2025年は参戦2年目を迎え、新たなチームメイトとともにすでに2度の表彰台を獲得している。シリーズのハイライトであるル・マン24時間レースの“前哨戦”となったWECのスパで、彼のいまと今後を聞いた。
■デビューイヤーとは異なるル・マン24時間へのアプローチ
――チーム代表のフィリップ・シノーからイモラからシャシーが交換されたことを伺っていますが、スパではどのシャシーを走らせているか教えていただけますか?
ミック・シューマッハー「イモラではいわばシャシーの交換の計画されたイベントだった。規定の走行距離が経過した後のシャシー交換、つまり走行距離がすでに達した後にシャシーを交換した」
シューマッハー「スパで使うのはル・マン用のシャシーだ。つまり、改善できる点や改善の必要がある点、特定のケーブルを設置する必要があるかどうか、その他さまざまな点で改良・改善の必要かどうかを確認する作業が行われているということだ」
――スパではすでにル・マン用のシャシーを使用しているということなのですね。
シューマッハー「まあ、それは普通のことだと思う。ほぼすべてのチームがル・マン用のシャシーを用意している。昨年のアルピーヌはル・マン前のレースにはル・マン用のシャシーが手元になかった。今年はやり方を変えて、基本的に事前にそれを使用してレースに出ることにした。レースクラフトまたはレースディスタンスがすでに設定されていることから、スパのシャシーは昨年のル・マンを走ったものだ。今シーズンは古いシャシーをルーティーンしながら、昨年のさまざまなトラブルや問題を探っている」
シューマッハー「僕が言えることは、ル・マン用の昨年のシャシーで今回のスパに参戦していることだけで、昨年から使用されていたすべてのシャシーはアルピーヌで管理している。僕が詳細をすべて把握するのは難しい。僕のドライバーとしての立場では、自分の仕事に集中することが第一だ」
――スパのフリープラクティスでは車両整備に時間が掛かり、あまりドライブできなかったなかでの“二次予選”ハイパーポール進出は素晴らしかったです。
シューマッハー「フリープラクティスではドライブする時間が少なく、走り込んでセットアップを調整するという目的からしたら、逆効果な一日を過ごした。もちろん、それはチームメイトにとっても同じことだった」
シューマッハー「ドライバーの立場から言えば、可能な限りフリープラクティスで走り込み、最終セットアップに近づけることに集中するほうが予選に向けて大いに役立つのは言うまでもない」
■ル・マンは「ポテンシャルを証明するツールのひとつ」
――2024年に初参戦となったル・マン24時間レースでは、アルピーヌの2台は予想よりも早くリタイアとなってしまいました。世界でもっとも有名な24時間レースを経験した感想をお聞かせください。
シューマッハー「僕にとって大好きなサーキットはスパとサンパウロと鈴鹿。残念ながら鈴鹿はWECのカレンダーには入っていないが、サンパウロとスパをドライブできるのはとても嬉しい。そして、それらと同じくらいにはル・マンも楽しみにしている」
シューマッハー「アルピーヌがフランスの自動車メーカーということもあり、母国でのレースにはチームがとても興奮している。ル・マンは人々を大きく魅了するレースではあることは間違いないし、レーシングドライバーの誰もが『ル・マンは世界最高峰のレースだ』と言うだろう。しかし結局のところ、僕にとってはル・マンも自身がこなすレースのひとつなんだ。すべてのレースが大切であり、ル・マンだけが特別なレースではない」
シューマッハー「僕にとっては実際のところ、これらのすべては別のレースへ向けての大きな一歩という意味を持っている」
――あなたのそのコメントには少し驚きました。WECではル・マンがシーズンハイライトのレースであり、そこへどのチームもドライバーも大きな焦点を当てていますし、ル・マンで勝つという特別なことに命を懸けて挑んでいるといっても過言ではないかと思うレースです。
シューマッハー「ル・マン24時間レースは、今まで僕のキャリアの中で経験したことのないビッグイベントだったということは間違いない。だが、他のドライバーとはル・マンに対して僕のアプローチは少し違う」
シューマッハー「もしもル・マンで勝つことができたのであれば、世の中の人々に僕のポテンシャルを証明できるというツールのひとつだと考えているんだ」
――ところで、地元メーカーということで、多くのフランス人ファンが訪れるル・マンでは特に期待が高まっているのでしょうね。
シューマッハー「もちろん、期待はつねに高いと感じている。とくに昨年はアルピーヌにとってもハイパーカーデビューの年だったこともあり、ファンの熱狂ぶりは大変なものだった」
シューマッハー「今年のチームはより経験値が増えポテンシャルがアップしているので、このル・マン24時間というイベントには大きな期待を抱いて挑むが、チームとしては昨年と同様に全力で挑むということに集中するだけだ。今年こそはレースの最後まで走り切ることが最大の目標。24時間レースのチェッカーフラッグを受けるのは決してたやすいことではないからね」
■秘密さえも共有できるチームメイト
シューマッハー「フェラーリが一歩リードしているももの、前半戦を終えた現時点ではチャンピオンシップは非常に接戦だ。だからル・マンでも非常に接戦になるだろうと予想ができる。そして、ここではすべてのドライバーが、誰よりも強いことを示すためにより貪欲に挑むに違いない」
――今シーズン、新しいチームメイトと組んで非常に好調ですね。
シューマッハー「彼らとは本当に良い関係を築いていると思っている。ジュール・グーノンとフレデリック・マコウィッキのふたりはそれぞれGTレースやポルシェ963を駆りWECのハイパーカーで豊富な経験を持っており、数多くの成功を収めている。だから、彼らといろいろなことを話すととても勉強になり、彼らの経験が僕のドライブのヒントにもなっているのは間違いないし、彼らとチームメイトになってからは、昨年以上にチームメイトとの交流を深めている」
シューマッハー「もちろん、昨年もアルピーヌではチームメイトとともに情報の共有や交流をしてきたが、ジュールとフレッドとの関係性は、僕のいままでのレーシングドライバーとしてまったく新しい経験であり、これほど詳細に情報を共有するのは、本当に初めてのことなんだ」
シューマッハー「プロのレーシングドライバーとして、自分だけのトリックは通常誰にも秘密にし、決して他のドライバーには教えないものだ。しかし、このふたりとならば共有し、互いの力を高め合える。そんな素晴らしい関係性が築けている。僕たちは皆、それぞれ性格が違うし異なるレース哲学を持っているけれど、それさえも互いに尊重や承認できる関係なんだ」
――複雑で容易ではないかと思いますが、ハイパーカードライブすることに対して楽しさを感じられていますか?
シューマッハー「最高峰のマシン(F1)をテストしたりドライブすることを許されていた後に、それほど速くなく、それほどダウンフォースもないクルマをドライブするということは……当然、以前ほどの楽しさは感じない」
シューマッハー「ハイパーカーのドライブを習得すること自体、その背後にある複雑さはもちろん僕にとって非常に有益であり、基本的に僕自身のドライバーとしてのツールの知識を強化するのに役立っている。僕の将来がどこへ向かうにせよ、ハイパーカーで得たスキルは間違いなく僕の身に着き、引き出しが増えて僕を助けてくれることだろう」
■「独身には……」と本音を明かす
――2024年はあなたの活動の場がF1からWECに変わった訳ですが、耐久レースを100%エンジョイしていないのではないかと、あなたを見ていて少し感じていました。WECに関して、現時点でどのようなお考えをお持ちですか?
シューマッハー「F1とWECの違いを精神的によく切り離せるという点で、比較的幸運な性格の持ち主だと思っているよ。WECのレースウイークにサーキットを訪れれば僕は完全にプロフェッショナルとしてこのシリーズだけに集中し、すべての雑念を切り離すことができている」
シューマッハー「もちろん、WECもF1も僕にとっては大きな目標であることは間違いない。しかし、僕の最大の愛はもちろん今でもF1であり、それはこれからもずっと変わることはなく、そこへカムバックするという大きな夢は続いている」
――F1の現役時代では年間数多くのレースを転戦していて、リザーブドライバーに就任していた際にも毎戦に帯同していたことから、WECでの全8戦は少なく感じているのでしょうか?
シューマッハー「毎日、なにか新しい発見をし、『今日はこんな日にしよう』『こんな日になった』という、小さな歓びの積み重ねの日を送るようにしている。WECのレース後に他にスケジュールが入っていなければ、2〜3週間の休みを取ることもあるし、『さて、次は何をしようか?』と考えることもある」
シューマッハー「トレーニングや自分のすべきこと、したいことも充分にできているが、いまの僕の状況では年間8戦というのは充分でない。『もっとレースに出たい』『レーシングカーのコックピットに収まっていたい』それが正直な本音だ」
シューマッハー「だが、今シーズンからWECに参戦しているケビン・マグヌッセンを例に挙げてみると、彼には家族がいるので、僕とは状況が違う。家族と幼い子供がいるドライバーにとってみると8戦というレースの数は家族生活のためにはとてもよいコンディションだと思うが、僕は独身でパートナーや子供はいないので、やはり年間のレース活動が8戦というのは少な過ぎると考えている」
[オートスポーツweb 2025年06月05日]