二輪から四輪へ転身。チャレンジ精神でキャリアを掴み、目指すは自身初優勝【KYOJOインタビューVol.7/永井歩夢】

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2025年06月05日 18:00  AUTOSPORT web

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2025年KYOJO CUPに参戦する永井歩夢(NBAありそ鮨しKYOJOフォーミュラ KC-MG01)
 女性限定フォーミュラカーレースが開幕し、大きな転換点を迎えた新生KYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2025年シリーズ開幕戦の富士スピードウェイにて、二輪から転向して四輪デビューを果たし、キャリア2年目にしてJRCA全日本ラリー選手権に参戦した永井歩夢(NBAありそ鮨しKYOJOフォーミュラ KC-MG01)に、ドライバーとしての意外な課題点や休日の過ごし方などを聞いた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

⎯⎯まずは2024年のKYOJO CUPと、開幕前に行われた3回の合同テストを振り返った感想を教えてください。

永井歩夢(以下、永井):昨シーズンは、チームが変わるなどいろいろなことがありました。序盤は新しい車体に慣れていなかったこともあり調子が上がらず、順位で言うとトップ10に入るくらいだったと思います。後半にかけて、チームとうまくコミュニケーションを取れるようになり、マシンも仕上がっていったので、最終戦はかなりいい状態に持っていくことができました。

 合同テストは晴れの日もあれば雨の日もあり、今週(第1戦)の気温とも違う状態だったので、データ不足感は否めないですね。路面に対する練習ができたという面では良かったのですが、走行データの情報量を考えるとやや物足りなさが残りました。

⎯⎯今季のKYOJO CUPへの出場はどのように決まったのですか。

永井:チーム監督の番場(琢)さんにお声をかけて頂き、KYOJO CUPに出場できることになりました。フォーミュラカーに乗ることができると聞いたときは『やった!』と思いました(笑)。不安も少しはありましたけど『乗ってしまえばどうにかなるだろう』と思い、挑戦させていただくことになりました。

⎯⎯ご自身のモータスポーツのルーツについて教えてください。最初にレースを始めたきっかけはどのようなものでしたか。

永井:両親がモトクロスをやっており、私も物心がつく前からモトクロスに乗っていたので、きっかけというのは特にないですね。幼少期からずっとプロを目指してモトクロスに励んできましたが、プロになることが難しくなってきたタイミングで、気持ちを切り替えて四輪に転向しました。仮にモトクロスを続けていても、おそらく結果は上がっていたと思います。でも、時間をかけて結果を出せば良いというものでもないですし、四輪に比べて選手生命が短いので、自分の決断には納得できています。

 四輪に転向してからは、まずはラリーに参戦しました。1年目は病院がやっているラリーチームをTwitter(現X)で見つけて、オーディションを受けに行きました。年間で2戦ほど参戦した翌年は『CUSCO』さん(キャロッセ)が女性ドライバーを募集していたので、オーディションに参加し、採用していただきました。そこで全日本ラリー選手権にスポット参戦しました。

 そういったなかでKYOJO CUPがオーディションを行っていることを知り、参加したオーディションでチームに拾っていただけたので参戦を決めました。ラリーはタイムアタックなので、自分自身との戦いという部分での面白さがあるのですが、レースではライバルが直接見えているのでモチベーションが上がりますし、ラリーと比べるとやりがいを感じやすい気がしますね。

⎯⎯四輪転向後、永井選手が最初に直面した課題はどのようなものでしたか。

永井:チームとのコミュニケーションでつまずきました。マシンに乗った直後にチームの人と会話をするという概念がなかったのもそうですし、コミュニケーションそのものに苦手意識を持っていたこともあり、何を話せば良いのかわかりませんでした。電話をかけることも苦手だったのですが、レース活動を通して電話をかけてきてくださる人が増え、徐々に慣れていきました。おかげでコミュニケーションに対する抵抗感が少し減り、車体の状態を逐一報告して、自分のフィーリングをもとにクルマを改善するというプロセスは、年々スムーズに行えるようになりました。

 当時、伝達事項はその時々に教えていただければ良いと思っていたので、練習日、集合時間などの確認や、レース以外の時間に自分からコミュニケーションを取りにいくことをあまりしていませんでした。今でもその傾向が少しありますけど、チームとのコミュニケーションはしっかりするべきだと思いましたね。

⎯⎯近年ではドライバー自身がSNSなどを通じて情報発信をする機会が増えていますし、コミュニケーション能力は必須スキルになりつつありますよね。

永井:正直に言うと、SNSも苦手なんです。ドライバーとして一番苦手なことはSNSかもしれません(苦笑)。お話がうまくて、面白くて、SNSも映えている、といったように自己マーケティングがうまいドライバーさんが目を引くのは事実ですし、時代が時代なので、もう少し頑張るべきだとは思っています。ただ、SNSにかけられる余裕がないというのが正直なところです。あとは、何を発信するべきかわからないというのもありますね。

⎯⎯その他にドライバーとしての長所や、今後の課題点だと感じている部分はありますか。

永井:長所は闘争心が強いことで、課題点は焦りによるミスが多いことです。そういったミスは過去に何度も経験していて、昨年のKYOJO CUPで下野璃央(Dr.Dry with Team IMPUL KC-MG01)選手と一緒にコカ・コーラコーナーに進入した際、オーバースピードでいき過ぎてしまいました。イケイケな気持ちのときはそうでもないのですが、コンディションが万全ではないときに焦ってミスをしてしまうことが課題ですね。

⎯⎯レースのない日はどのようなお仕事をされているのですか。

永井:今はフリーランスです。番場監督がイベント業をやっており、サーキットでイベントをやるときなどにお手伝いをさせていただいています。大学には行かず、高校卒業後はすぐに働き始めました。卒業後の1年間はフリーターでモトクロスに打ち込みました。翌年はラリーのオーディションを受けた会社に就職し、働きながらラリーに出場させていただいていました。

⎯⎯レースウイーク以外にもサーキットにいらっしゃることが多いのですね。休日はどのように過ごされていますか。

永井:休日はたくさん寝て過ごしています。趣味はあまりないのですが、強いて言えば『ピッコマ』というアプリで漫画を読むことです。いろいろなジャンルを読みますが、展開が単純明快で面白いアクション系の漫画が好きです。一押しの作品は今のところはありません。というのも、1日中読み続けてしまう日があるくらいたくさんの漫画を読んでいるので、細かい内容をあまり覚えていないんです(苦笑)。1話ごとに料金が設定されているので、課金額が割と高額になってしまうときもあります。

 その他には森林浴が好きですね。都会は騒がしいですし、人混みも苦手なので、自然に囲まれているほうが好きです。なので今は山登りに興味があり、昨年は富士山に登りました。モータースポーツで身体がある程度鍛えられていると思っていたので、日帰りで富士山に行ったのですが、想像以上にきつかったです。登山の翌日は冗談抜きに動けませんでした(笑)。でも楽しかったので、今年も登頂したいです。

⎯⎯では、レース前のルーティンがありましたら、教えてください。

永井:基本的に私はマイペースなので、テンポの速い音楽をひたすら聴き、曲に合わせて自分の生活リズムを上げています。よく聴いているのは『ワンオク(ONE OK ROCK)』で、フィギュアスケートの羽生結弦選手が聴いていると耳にしたので、私も聴くようになりました。種目は違いますが、トップアスリートと同じルーティンをすれば良い影響がありそうな気がして(笑)。なので、これは願掛けに近いのかもしれませんね。

 あと、レース直前はなるべく食事をとらないようにしています。ドライビングにものすごく余裕があるわけではないのですが、(富士の)ストレートは長くて少し暇なので、お腹がいっぱいの状態でレースに出ると、ぼーっとして認識が遅れてしまうことがあるんです。

⎯⎯もし、永井選手がモータースポーツに出会っていなかったら、どんな人生を歩まれていたと思いますか。

永井:難しい質問ですね(笑)。あまりイメージが湧きませんが、普通の会社員として働き、結婚していたのではないでしょうか。年齢が年齢ですし、子供がいた可能性もありますね。私はご飯を食べるのが好きなので、もし企業に勤めていたとしたら、食に関するお仕事をしていたかもしれません。

⎯⎯年齢のお話が出ましたが、5月7日に誕生日を迎えられましたよね。おめでとうございます。今年の目標は何かありますか。

永井:強いて言えば部屋を綺麗に保てるようになりたいです。公共の場では周りの迷惑になってしまうのでしっかりと整頓しているのですが、家やクルマなどのパーソナルスペースは散らかしてしまいがちなので、今年は綺麗に保てるように頑張ります。

⎯⎯最後に、この先どういったドライバーになりたいというビジョンはありますか。

永井: 私はレースと真剣に向き合っているクールな人が好きなので、走りと結果にしっかりと向き合い、いつまでも必要とされるドライバーになりたいです。女性ドライバーは年々増えてきてはいますが、男性に比べると少ないですし、プロにもさまざまなかたちがあるので、今後の自分を明確にイメージすることは現段階では難しいです。

 ただ、頑張った結果が今後に繋がっていくことは確かなので、毎日を大切にし、スキルアップをしながらレースを続けていくことができれば、自分らしいドライバーのあり方がおのずと見えてくると思います。

 具体的に出場したいカテゴリーは今のところはないのですが、参戦させていただいてるレースでは“一番”になりたいと常に思っています。ですから、もしお声をかけていただけることがあれば、ジャンルを問わず全力を尽くすつもりです。

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 5月10日に行われたKYOJO CUP第1戦スプリントレースでは、8番グリッドからスタートし5位でチェッカーを受けた永井。翌11日のファイナルレースでは攻めの姿勢で4番手争いを繰り広げたが、自身のミスによってポジションを落とし、8位で開幕戦を終えている。ファイナルレース終了後のインタビューでは「課題点がたくさん見つかった」と語っており、約2カ月ぶりの開催となる第2戦では、進化を遂げた永井の姿を見ることができるかもしれない。


●Profile 永井歩夢(ながい・あゆむ)

1999年5月7日東京都出身。幼少期からモトクロスに取り組み、2015年の全日本モトクロス選手権レディースクラスで3位を獲得。2019年からは四輪に転向し、2020年の全日本ラリー選手権 JN6クラスをシーズン5位で終えている。2021年にKYOJO CUP初参戦を果たし、2022年の最終戦で自身初の表彰台を獲得した。5年目の2025年シーズンはDOJO Racingから参戦し、開幕戦終了時点でドライバーズランキング7位となっている。

[オートスポーツweb 2025年06月05日]

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