
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、吉沢亮さん&横浜流星さん共演作『国宝』(2025年6月6日公開)です。カンヌ国際映画祭の監督週間にも出品され話題を振りまきました!
演出は『悪人』(2010)『怒り』(2016)などの李相日監督。試写で鑑賞しましたが、吉沢さん、横浜さんのお芝居が凄まじく、とても濃厚な約3時間でしたよ。では物語から。
【物語】
任侠の家に生まれた立花喜久雄(吉沢亮さん)は、立花組の組長である父(永瀬正敏さん)を組同士の抗争で亡くし、父と繋がりがあった上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙さん)に引き取られます。
半二郎の息子・俊介(横浜流星さん)と切磋琢磨しながら、歌舞伎界を生き抜いていくのですが……。
|
|
【任侠一家から歌舞伎の道へ!】
任侠一家に生まれた喜久雄が歌舞伎界で注目の女形に! でもその裏では、喜久雄の激しい葛藤がありました。
半二郎の家に引き取られる前、喜久雄は背中にタトゥーを彫り、父を殺した組に復讐を企てるなど荒れた生活を送っていたんです。そんな喜久雄を血筋や伝統を重んじる歌舞伎界の一家が簡単に受け入れてくれるはずがありません。半二郎の妻(寺島しのぶさん)は、あまり面白くない様子でしたからね。
いじめこそありませんが、 喜久雄は孤独だったと思います。
【喜久雄と俊介の友情が美しい】
そんな喜久雄の支えになったのは、半二郎の息子・俊介です。同年代のふたりは厳しい稽古を共に乗り越え、注目の女形に。突然やってきて自分と同じように父の教えを受ける喜久雄を受け入れ、友情を育んでいく俊介は素直な好青年です。
ふたりの友情は美しく、それを演じるのが吉沢亮さんと横浜流星さんというのはもう、眼福でしたよ〜!
|
|
「ここでしか生きられない」と必死に芸を習得していく喜久雄。全編通して彼はそれほど癖のある人物じゃないと思いました。芸も女性関係もすんなり受け入れていく。どこか人生という川を流れていくような……。
でも穏やかに見えた流れも、半二郎のある決断で急展開。喜久雄と俊介の友情にヒビが入ってしまい、そこから彼の人生は荒波に突入していくのです!
【吉沢亮の凄まじい芝居の力】
本作の李相日監督は、主演の吉沢亮さんについてこう語っています。
「喜久雄を演じるのは吉沢亮しかない。彼がいなければ映画として立ち上がらないし、彼がいることで出発ができるという “吉沢亮ありき” から始まっているのです」(公式インタビューから抜粋)
監督が吉沢さんにゾッコン惚れ込んで抜擢。そしてその期待に応えた吉沢さん。喜久雄の出自が世間にバレて、どん底まで落ちるなど、彼の人生の紆余曲折は尋常じゃない。吉沢さんは心を削りながら演じていたと思います。それはもう凄まじいものでしたよ!
|
|
【吉沢亮と横浜流星の挑戦】
幼少期から稽古を重ねて芸を身につけていくというイメージが強い歌舞伎ですが、本作では吉沢さん・横浜さんがご自身で演じているというから驚き。
この映画のために稽古を重ねて本番に臨んだふたりの大挑戦は、そのまま喜久雄と俊介の歌舞伎への情熱へと昇華されていった感がありました。李監督もそれを狙っていたのかもしれません。
この映画をきっかけに歌舞伎の世界に初めて触れてハマる人もいそう。3時間弱という長尺映画ではありますが、喜久雄の波瀾万丈の物語は全くだれることがありません! 吉沢さんと横浜さんの演技は、それだけ観客を惹きつけて離さない魅力に満ちているのです。
歌舞伎、衣装、美術などヴィジュアルも美しい映画『国宝』。ぜひスクリーンで堪能してください!
執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025 映画「国宝」製作委員会
『国宝』
2025年6月6日(金)より全国ロードショー
原作:「国宝」吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
脚本:奥寺佐渡子
監督:李相日
出演:吉沢亮
横浜流星/高畑充希 寺島しのぶ
森七菜 三浦貴大 見上愛 黒川想矢 越山敬達
永瀬正敏
嶋田久作 宮澤エマ 中村鴈治郎/田中泯
渡辺謙
製作幹事:MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝