デング熱や黄熱などを媒介するネッタイシマカの雄は雌に比べ、ヒトの耳に相当する触角が大きくて音を感じる神経細胞が多いだけでなく、さまざまな高さの音の情報を処理する脳のメカニズムがより複雑に発達していることが分かった。
名古屋大の上川内あづさ教授や大橋拓朗・博士研究員(研究当時)らが、遺伝子の働きや脳機能の解明が進んでいるショウジョウバエの実験手法を応用して発見し、米科学誌サイエンス・アドバンシズに5日発表した。
ネッタイシマカの雄は、群れの中に入ってきた雌の羽音を聞き分けて接近する。ヒトの血を吸い、感染症を媒介するのは雌だけだが、雌の羽音で雄をだまして捕獲・駆除し、繁殖を妨げる装置も開発されている。
大橋さんは「音の情報を処理する脳のメカニズムを応用すれば、捕虫装置の実効性を高められる」と説明。「雑音の中で雌がいる方向や距離を把握する能力の解明を進めれば、(助けを求めて声を上げる)被災者を探すような音源探索ドローンの開発にも役立つ」と話している。
触角は羽毛に似た「鞭節(べんせつ)」で音を捕捉し、根元の「梗節(こうせつ)」で神経の信号に変換する。雄は雌に比べて音の感度を高める繊毛が発達し、音を感じる神経細胞が約2倍多いほか、神経細胞から脳の「触角機械感覚野」に延びる軸索束が複雑に分岐。さまざまな高さ(周波数)の音の情報を総合して処理していると推定された。
雄の聴覚が発達している理由は、雌を探すだけでなく、トンボなどの天敵から逃げるためとも考えられるが、実験で裏付けるデータは得られていないという。