「新しい学校のリーダーズ」公式Instagramより引用文/椎名基樹
◆「新しい学校のリーダーズ」が世間に与えるモノ
時代が進むにつれて、世の中はどんどん世知辛くなっていく。インターネットが社会に定着して、それは加速していったように感じる。
仕事の結果は数値化されて、多くの労働者は、より数字を追い求めることを強いられるようになった。人々の承認欲求は刺激され続け、私生活でも数字を追い求めるようになった。他人を押しのける強さを持った者が持て囃されて、それができずに孤立する人間は、自己責任の名の下に切り捨てられる。
新しい学校のリーダーズのドキュメンタリー映画「青春イノシシ」は、社会に馴染めずにいる人たちが、彼女たちから生きる勇気を受け取る様子が多く描かれている。
もっとも印象に残ったのは、コンサート終了時に会場前でインタビューを受けた、およそ20代半ばの女の人だ。
「部屋から出られないような状態が続いていたが、リーダーズのコンサートに行きたくて外に出ることができた。恥ずかしい話、4年間引きこもっていた。リーダーズを知って、人生の楽しむ気持ちを取り戻した。今は、一人で海外に行ってみたい。それが夢です」
こういったことを涙ながらに語っていた。
◆“死ぬ気”で挑む「ライブ魂」
新しい学校のリーダーズが、社会から抑圧を感じる人たちに勇気を与えられるのはなぜだろう?
2年前に初めて、彼女たちのライブをYouTubeで見たとき、私は「こいつら死ぬ気か?」と思った。ステージ上で、すべてを出し切るために、体から命や魂を絞り出そうとしているかのように見えた。
実際、ボーカルのSUZUKAは、ライブのたびに観客のモッシュの中にダイブする。アメリカ、南米、アジア、世界中のどの会場でも、それを敢行していて、見ていてハラハラする。
もちろん、集まっているのは彼女たちのファンであり、傷つけようとする人はいないだろうし、日本の会場だけが安全と言うわけではないだろうけれど、見知らぬ国でそれをやることは、彼女の勇気に感嘆せざるを得ない。
また、SUZUKAは、たびたび高いステージ上から会場の無人の床に向かって、走り幅跳びよろしく大ジャンプを敢行する。毎回、足が折れたのではないかとヒヤヒヤする。
そうした行為を繰り返す理由について、彼女は「予定調和を壊したい」と映画の中で語った。身を犠牲にして、生命の危うい瞬間を生み出して、観客の興奮を煽りたい衝動に駆られているように見える。
『青春イノシシ』では、コンサートの出番直前のバックステージで、メンバーがお互いの背中を平手で叩く儀式を終えると、気合が入った彼女たちが、獣の目に変わっていく様子が映し出されている。
彼女たちが、生命を燃焼する姿を見て、人間社会の冷たさに打ちのめされた人たちは、自分の心に新たな興奮の火を見つけて、人生を謳歌する使命を見出しているように感じた。
また、自分の信じた道を突き進む、彼女たちを見て「他人の視線などどうでもいい」と悟り、精神の自由を獲得しているように見える。
◆「一生青春」に込められた想い
新しい学校のリーダーズは、コンサートで盛んに「一生青春」を唱える。「青春とは老若男女問わず、失うことのない情熱のこと!」と言う。
私は最初それを聞いたとき「若い女の子たちが、なんて年寄り臭いことを言うのだろう」と思った。しかし、『青春イノシシ』をみて、現代人は孤立していて、まさに老若男女が、情熱を傾けるものをなくしてしまうと、生きる意味を見失ってしまうのだと思わされた。
彼女たちが主張する「一生青春」とは、生きるために必要な覚悟を表しているのだろう。
◆現代社会への怒りが原動力に?
新しい学校のリーダーズのトレードマークは、メッセージが書かれたハイソックスだ。「青春日本代表」がその筆頭であるが、その中の一つには「脱不寛容社会」と書かれている。
彼女たちは、メッセージ性の強いこのようなグループのコンセプトをいつ生み出したのだろう? 中学生時代から活動しているのだから、最初はただ音楽やダンスが好きな少女の集まりだったはずだ。
きった彼女たちは、インディーズアイドルの活動を続けているうちに、そこに集まる大人たちが抱える、生きにくさを目の当たりにしてきたのではないだろうか。少女だっただけに余計に、現実社会の冷淡さに驚き、怒りを覚えたのではないだろうか。その怒りが、現在の彼女たちの衝動の原動力になっているように思える。
◆すべては「美しい瞬間」に出会うため
映画の中で、SUZUKAは「美しい」という言葉をよく口にする。例えば、ファンのリーダーズに対する思いに触れたとき「美しいモノ」に触れたと話す。そうした瞬間に出会うことが、彼女の活動のモチベーションになっているようだ。
彼女たちの振る舞いは、なんだかセイントのようで、感動的であると同時に、とても危うく感じられる。「美しい瞬間」に出会うためならば、何もかもを犠牲にしてしまいそうだ。
◆SUZUKAがライブ前にアワビを食べる理由
映画の中で、大会場である代々木第一体育館入りしたSUZUKAは、いきなりバックの中からパック詰めされたアワビの刺身を取り出し「これをライブ前に食べれば、エネルギーはバッチリだ」と言った。
聞くところによると、彼女はライブ前は敏感になり、添加物が入ったようなものは一切受け付けなくなるそうだ。それで、ライブ前のエネルギー源として、彼女が選んだのはアワビだったらしい。
それならば、バナナの方が良いのではと思うけれど、その独特な感性と変態性がSUZUKAならではで笑ってしまった。同時に、彼女が非常にギリギリのところで、パフォーマンスをしていることを改めて思い知らされた。
◆先鋭化され続けている“心意気”
2年前に「こいつら死ぬ気か?」と感じた、新しい学校のリーダーズの心意気は、さらに先鋭化していることが映画を見るとよくわかる。そんな彼女たちがとても心配になるけれど、同時に私もまた彼女たちから勇気をもらっている。
映画自体の感想が最後になってしまった。『青春イノシシ』は、120分のドキュメンタリー作品にもかかわらず、あっという間に時間が過ぎてしまう、素晴らしいエンターテイメント作品に仕上がっている。
【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記〜できれば強くなりたかった〜』を連載中。ツイッター @mo_shiina