公開車検で記念撮影に臨むトヨタGAZOO Racingの7号車のクルー。マイク・コンウェイ、小林可夢偉、ニック・デ・フリース 6月7日、ル・マン市内のリパブリック広場で行われたWEC第4戦ル・マン24時間レースの公開車検2日目。この日は、終盤になってトヨタGAZOO Racingの2台のGR010ハイブリッドが登場した。
トヨタは今回のル・マンに向け、7号車GR010ハイブリッドに特別カラーリングを採用。1998年のル・マン参戦車、GT-One(TS020)の赤と白に彩られたマシンは、公開車検場に集まった多くのファン、そしてメディアの注目を集める存在となっていた。
ミックスゾーンに姿を現した小林可夢偉チーム代表兼ドライバーも、海外の記者たちを前に、まずはこの特別リバリーに触れた。
「そのアイデアを聞いたとき、いいなと思ったので、実現できるように強くプッシュしました」と可夢偉。
「トヨタはこれまで、この種のリバリーやデザインというものをやってこなかったので、ぜひやってみたいな、と」
「日本のスタイルとしては、こういった過去にあまりやっていないようなことに挑戦しない風潮もありますが、僕がこれをやりたかった理由は、正直に言えばシンプルです。まずは、人々はこのリバリーを見たとき、『クール!』と言う。その言葉が、僕にとっては一番重要だったんです」
「ふたつ目に重要だったことは、トヨタのル・マンプロジェクトが40周年を迎えるにあたり、そこに携わるすべての人々、このプロジェクトに関わったエンジニアやメカニックに感謝の意を表するためだと思います。この仕事は我々の技術を向上させ続けるものであり、明らかにそれが僕らが伝えるべきメッセージなのです」
そして可夢偉は各国の記者陣に「この赤に白のカラーは何て呼びます? ストライプ? それともタイガー?」と問いかけると、一部ファンの間では『霜降り』とも称されるこの1998年のTS020カラーの、日本人が受け取るイメージを“紹介”した。
「僕らは、これを『和牛』と言っていました。この赤に白が混ざる感じは、和牛の一部に見えるんです。だから、日本の人たちはこれを和牛に似ていると感じるんですよね。イギリスやフランスではどうです? 場所によって見え方は違うと思うんですが、日本では和牛なんですよ」
そんな可夢偉流のコミュニケーションで記者たちを和ませたあと、話題は先日可夢偉がポール・リカールで行ったハースF1の旧型車両を使用したテスト走行の件へ。
「よかったですよ。エンジョイしました。参加した理由? 楽しむためです……というのはジョークですけど」とリアクションした可夢偉は、すでにハースのSNSでも明らかにしているように、TGRが抱える若手ドライバーたちがF1を目指すにあたり、それをサポートする役割の可夢偉が直近のF1マシンを理解し、正しいアドバイスするための機会であったことを説明した。
海外記者の輪が解けた後、日本語で追加の話を聞く。テストに参加する実際のきっかけは、可夢偉本人やTGR-E側だったのだろうか、それともハース側だったのか。
「それが僕もよく分からないんですよね。そもそも平川(亮)も(宮田)莉朋も乗れない、と。あのときは彼らはバルセロナにいましたからね」と可夢偉。つまり、“スケジュールありき”の話だったというわけだ。
「ハース的にはTPC(旧型車でのテスト)をやりたいというスケジュールが先にあって、『じゃあ誰?』となったときに誰もいなくて、『だったら僕が乗って、何か評価できることないか』という流れになりました」
11年ぶりのF1ドライブではマシンの進化にさぞ驚きもあったのではないかと思うところだが、可夢偉は「何もないです。というか、ピレリが割と特殊なので」と、一概に比較できない様子。2日間、ひとりでの90周以上をこなしても首が平気だったことをSNSでは触れていたが、「昔のクルマだったら、きつかったと思う。重量が違うので」と可夢偉。もちろん、フィジカルの面では、現役のスーパーフォーミュラドライバーであることも大きかったはずだ。
記者からル・マン向けのBoP(性能調整)について問われると、「BoPってなんですか?」とかわしたが(※WECではチームメンバーがBoPについて公の場で発言することは禁じらている)、大一番に向けて「勝つしかない。勝つために何をできるか。しっかりとやっていきたい」と8日のテストデーから始まるサルト・サーキットでの走行に集中している様子だった。
[オートスポーツweb 2025年06月08日]