「全国模試1位、姉は東大」エリートから転落した芸人が語る“親の期待”の逸らし方と目標もたない方がいい理由

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2025年06月08日 19:10  週刊女性PRIME

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シドニー石井さん 撮影/佐藤靖彦

 学生らの不登校や、新入社員の退職が増えるとされる「魔の6月」。受験戦争や就活が過熱の一途をたどる中、「いい大学からいい会社へ」のプレッシャーに押しつぶされそうな日本の若者たちに、エリートの道からあえて外れた芸人のシドニー石井さんが自身の貴重な体験を語ってくれた。

幼稚園からの勉強の貯金のおかげでなんとか合格できた

 吉本興業所属のお笑い芸人、シドニー石井。令和ロマンらと同期で、45万人の登録者を誇るYouTubeチャンネル「僕らの別荘」のメンバーでもある。

 動画では、神童と呼ばれた幼少期、ほぼ“ノー勉強”で合格を勝ち取った中学受験、付属高校からの内部進学失敗など、数々のエピソードを披露。大きな反響を呼んでいる。

 教育熱心な母と、東大に進んだ優秀な姉を持ち、小さな違和感を抱えながら過ごした10代。親が期待する道から大きく外れたが、「今が楽しい」と笑顔で語る彼に、当時の葛藤や、今の思いを聞いた。

幼稚園のころは、親に言われるまま朝6時に起きて、勉強してから登園していました。それが普通だと思ってたんです」(シドニー石井、以下同)

 小学生からは公文式、習字、水泳など週7回の習い事の日々。全国模試では1位になったことも。友人からも教師からも、神童として扱われた。

小学4年生から、完全に中学受験にシフトしました。入塾前のテストで1位を取っちゃって、俺は天才だ、ってマジで思ってましたね(笑)

 厳しいカリキュラムで知られるSAPIXで、成績上位者を対象とした“αクラス”の所属が決まった。

だけどこのころから、自分が本当は勉強が好きじゃないことに気づき始めるんです

 徐々に勉強しなくなり、クラスのレベルも落ちていった。

当然、母から怒られますよね。夜の10時ぐらいに、めっちゃ眠いのに、勉強させられる。うとうとしていたら、机をバンッ! て叩かれて起こされたことは覚えてます

 あっけらかんと語るが、今の時代だと“教育虐待”とされてもおかしくない状況だ。どう乗り切ったのか。

僕、反抗期が早くて(笑)。うるせーんだよババア!って言い返してましたよ

 ろくに勉強しないまま中学受験を迎えたが、なんと明治大学の付属中を含め、いくつかの難関中学に合格。

もうこれで難関大学まで進めるんだ、人生って簡単だなって(笑)。でも、後から気づくんですけど、別に僕は天才でもなんでもなかった。要は幼稚園からの勉強の貯金のおかげで、なんとか合格できただけだったんです

 入学後、真っ先に挑んだのは“キャラ変”だった。

優等生って、友人と距離ができちゃうんです。みんながふざけている輪の中に入りたいのに、“無理しないで”と気を使われたり。小学生のころから、それがずっと嫌で

 無知のふりをしたり、ボケ続けたりすることで、小学校のときとは180度違う“いじられキャラ”を確立。ますます勉強しなくなり、成績は常に最下位に近かった。

評価軸は一つじゃない

高校生になってからは、先生に何度も“このままだと内部進学は厳しい”と通告されて。でも僕はこのころ、すでに芸人になると決めていたから、意地でも勉強しませんでした。芸人にピエロに通じるカッコよさを感じて、憧れてたんです

 高2で、内部進学できないことが確定。それすら“芸人としてネタになる”と考えていたが、親はそうはいかない。

ずっとお金かけて、塾や私立校に行かせて、そりゃそうですよね(笑)。でもこのとき、姉がもう東大に行っていたんです。つまり母には、自分の教育は失敗ではなかった、と納得できる材料がすでにあった。だから僕のことは、仕方ないと諦められたのかも

 なぜここまで頑なに、勉強を拒んだのだろう。

幼少期の経験によるマインドセットなのかな。どうせ芸人になるし、という逃げですよね。でも両親と話し合った結果、一応は大学受験を目指すことになったんです。逃げてばかりだと言われて、それもそうだと一瞬思っちゃって

 エスカレーターで大学に進んだ同級生を横目に、孤独な浪人生活が始まった。勉強は思うように進まなかったが、1年後、なんとか何校かの私大に合格。両親を納得させるため、学費は自分で払うと決め、東洋大学への進学を決めた。

でも、大学のお笑いサークルがいまいちで。友人のつてで、明治大学のサークルに所属することにしたんです

 1学年上には、中高の同級生が大勢いる。当然のごとく、散々いじられた。

僕も少しは傷つきます(笑)。でも、大学のネームバリューでは負けていても、僕のほうが面白いとか、足が速いとか、顔がいいとか、なんでもいいんだけど、相手より優れてることも確実にあるから、それを見つけるんです。自分を守るためには、都合のいい解釈をしていいと思う。評価軸は一つじゃないから

 持ち前のコミュ力の高さで、サークルでは存在感を発揮。他大学の学生ながら部長も務めた。その後、大学は中退してしまったが、後悔はないという。はたから見れば決して要領のいい生き方ではないだろう。

 だが、親の期待に押しつぶされず、自分の価値観を貫く強さがあった。夢への思いが、彼を支えたのだろうか。

別に、夢や目標がなくたっていいと思う。目標があると他人と競争しなきゃいけないし、達成できなかったら悔しいでしょ。夢がなければそういう嫌な思いをしなくてすむから、それもひとつの幸せ。僕は、生きてるだけでいい、っていう考え方です

 子の幸せを思うあまり、自分の価値観を押しつけがちになってしまう世間の親に対しては、“親が子どもにできることはほぼない”と続ける。

子どもは、親に認めてもらえないのがいちばんつらいんです。親が思う幸せと、子どもの幸せは違う。だから、親が“いい大学に行かせてあげられなかった”とか変な罪悪感を持つ必要もないと思います

 30歳を過ぎた今、芸人として活動する息子を両親も応援してくれているそう。

偉そうなこと言えないけど(笑)、大事なのは、自己中でもいいから、自分の幸せを追求できる力を身につけることだと思う。僕はそれがあるから、今日も明日も幸せです

シドニー石井●1994年、東京都出身。NSC東京校23期出身。大学時代に明治大学のお笑いサークル「木曜会Z」に所属し、令和ロマンや、ラランドらと活躍。YouTubeチャンネル「僕らの別荘」「シドニー石井ch」を展開中。

取材・文/植木淳子

このニュースに関するつぶやき

  • 学業成績への遺伝の影響は7割。勉強などしなくとも出来る人は出来る。特に理数系は顕著だね。ちなみに収入は5割くらい。まだ努力の余地がある。
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