新たなピット位置前にマシンを止めて作業を行うトヨタGR010ハイブリッド 2025ル・マン24時間テストデー 6月8日、フランスのサルト・サーキットではWEC世界耐久選手権第4戦・第93回ル・マン24時間レースのテストデーの走行セッションが始まったが、今年ル・マンのパドックではひとつ、大きな光景の変化があった。それは、トヨタGAZOO Racingのピット位置の変更だ。
トヨタは近年、ル・マンではピットロード入口(最終コーナー)寄りのピットボックスを使用してきた。エントリー台数が62台へと増加して以降は、ピット棟とコントロールタワーの間のスペースに2ピット分の仮設ガレージが設営されているため、トヨタの位置は入口側から数えて3&4ボックス目だったが、それでも常設ガレージのなかではもっとも最終コーナー寄りを“定位置”とし続けてきた。
この位置はコントロールラインにも近く、2016年の決勝レースで中嶋一貴のドライブするTS050ハイブリッドが残り数分でトラブルが発生、最終的にマシンを止めた位置もこのトヨタのチームピットの目の前だった。
今年、トヨタは長年親しんだこの場所を離れ、ピット出口(1コーナー)寄りへと移動。具体的には出口側から数えて6番目と7番目のボックスを使用する。ここはピット上部の2&3階部分を持たない、いわゆる“平屋”状の建物だ。合わせて、パドックに建てられるホスピタリティユニットも、1コーナー寄りのスペースへと移された。
なお、トヨタの“ご近所”を紹介しておくと、もっとも出口側となる4つのピットはチームWRT(ハイパーカー&LMGT3)が使用しており、これに木村武史の所属するケッセル・レーシングを挟んで、トヨタの2ピットが位置している。つまり、トヨタはハイパーカー勢としてはBMWに次いて2番目にピット出口に近い。反対側の隣には、アイアン・リンクスの3台のメルセデスAMG GT3 Evoが陣取っている。
今回のピット移動の理由について、中嶋一貴TGR-E副会長に聞いた。
「スポーティングレギュレーション的に、ピット出口に近い方が有利な場面がいくつかある、というのが理由です。勝つための可能性を上げるため、というか、余計な不利益を被る可能性を減らすため、というか。ちょうどガレージの空きもあったので、そういった機会をフル活用しよう、という理由で移動しました」
ピット出口が近ければ、セッション開始3分前に一斉にピットロードへと並ぶ際にも、先頭に近い位置に陣取れる。とりわけ、アタックに向けたポジション取りが重要となる予選では、有利なピット位置だ。
ただ、出口側に陣取りたい理由はそれだけではないという。
それはル・マンのみに適用される、3台のセーフティカーが同時に介入するというルールが関連している、と一貴副会長は説明する。
「毎回そうなるわけではなく、シチュエーション次第なのですが、ピットの入口側にいる場合に不利益を被る可能性が出てきてしまいます。過去にGTクラスで、3台いるセーフティカーのどれかひとつの後ろにつけてピットインした場合に、給油してそのまま同じセーフティカーの隊列につけてしまう事例が起きたんです(※通常は出口が赤信号となり、ひとつ後ろのSC隊列に復帰する)。それだと有利になってしまうということで、そのケースにあたる場合はそれぞれが自チームのピットボックスで一度待機し、その後一斉にファストレーンに出るという運用になったのです」
「この場合、ピットに入ってきた順番にコースへ出してもらえるわけではないので、とくに入口側に近い位置にピットがある場合は、ポジションが入れ替わって不利益を被る可能性が出てくるわけです」
そんなリスク排除も視野に入れ、トヨタは慣れ親しんだ場所を離れたというわけだ。
なお、ル・マンのピットロードは出口に向けて緩やかな上り坂となっているが、ピット作業の面などでは大きな不自由は生じていないという。
規則上の影響の有無に加え、これまでは交換直後にピットロードでタイヤをある程度温めることができていたが、それができなくなる影響がどこまで出るかなど、新たなピット位置がもたらす変化にも着目したい。
[オートスポーツweb 2025年06月08日]