青い海に面した丘の一角に、黒い御影石の石碑が整然と並ぶ。「ありったけの地獄を集めた」とも言われる戦闘が繰り広げられた沖縄戦で、犠牲になった戦没者24万人超もの名前が刻まれているこの「平和の礎」。
6月4日、天皇陛下と雅子さまと一緒にご覧になりながら、愛子さまが、
「毎年、読み上げを行っているのですよね」
と説明役にお尋ねになった。そのご様子を、両陛下は頼もしく見つめられていた。
6月4日と翌5日の1泊2日で、沖縄県を訪問された天皇ご一家。戦後80年となる今年、戦没者慰霊と、戦争の記憶を継承する旅の一環として、激戦地となった沖縄本島南部を巡られた。
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「4日には、『平和の礎』や沖縄平和祈念堂、国立沖縄戦没者墓苑、沖縄県平和祈念資料館などがある平和祈念公園をご訪問。5日には米軍の攻撃で1500人近くが犠牲になった学童疎開船『対馬丸』の慰霊碑へのご供花、記念館へ訪問されました」(皇室担当記者)
愛子さまには初めての同県ご訪問となったが、ここに両陛下の強いご決意が表れていると、宮内庁関係者は言う。
「沖縄に深い思いを寄せてきた上皇ご夫妻は皇太子時代を含め、沖縄県を11回も訪問されています。しかし戦後、天皇皇后両陛下とお子さまがそろって公式な慰霊行事に臨んだ前例はありません。
秋篠宮ご夫妻が幼い悠仁さまを伴い私的に沖縄を訪問されたことがあります。しかし、成年皇族としてご活動の幅を広げる段階に入り、かつ歴史的な経緯を十分に学ばれた愛子さまが同行されたことに、重大な意義があるのです」
天皇陛下は今年2月のお誕生日に際した記者会見で、
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「戦争の記憶が薄れようとしている今日、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や歴史が伝えられていくことが大切であると考えております」
と語られている。
2日間で、このおことばで示されたお気持ちが表れていた場面があった。それは、天皇ご一家が足を運ばれた平和祈念資料館で、戦争体験者や戦没者の遺族、そして若き語り部たちと懇談されたときのことだ。
石垣島を中心に語り部の活動を行う綿貫円さん(36)は、
「愛子さまから、『語り部をしていてどんな新しい気づきや発見がありますか』とお声がけがありました。“資料だけではなく、戦争体験者と対話し、皆さんがどのように語っているかを学び取ることに気づきがある”というようなことをお伝えしました。お三方とも事前にさまざまなことを調べていらしたことは、形式的ではない対話やご表情から伝わってきました」
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語り部としての活動のほか、県内外の学生に対する平和学習にも携わる狩俣日姫さん(27)も、次のように振り返る。
「お三方が遺族会の方たちと懇談された際、両陛下と愛子さまが『ちゃんと次の世代、若い世代が育っているんですね』と私たち語り部のほうをご覧になりおっしゃっていました。沖縄戦の体験者、遺族、語り部の話を聞く時間を大切にされていると感じました」
そして平和学習講師として活動する仲本和さん(25)は、天皇陛下のあるご様子が印象的だったという。
「時折、天皇陛下が相槌を打ちながら、愛子さまを気にかけるように視線を向けられる場面があったのです。戦没者の慰霊だけではなく、両陛下と愛子さまが親子三人で、“沖縄の歴史をさらに深く学ばなければ”というお気持ちもあったように感じました」
■皇室に向けられる県民の複雑な思い
天皇陛下と雅子さまが、愛子さまに学んでもらい、感じてほしかったのは、皇室の歴史が抱く“闇”の部分でもあったのだろう。
皇太子時代の上皇さまが1975年に名誉総裁を務めた沖縄国際海洋博覧会では、上皇ご夫妻に対して過激派が火炎瓶を投げつける「ひめゆりの塔事件」が起きた。今回の天皇ご一家の訪問に対しても、反対する抗議グループが警察官ともみ合いになり、1人が公務執行妨害で逮捕される事案も起きている。
昭和天皇の名において始まった太平洋戦争。沖縄戦では多数の民間人が巻き込まれ、県民4人に1人が犠牲となっただけに、皇室に否定的な思いを抱く人も少なくなかった。静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次さんはこう話す。
「戦時中の犠牲だけではなく、戦後も長く米国の施政権下に置かれ、現在も米軍基地が置かれる沖縄は、いまでも“戦争の負の遺産”に苦しめられています。
こうした歴史があるからこそ、沖縄の人々へお心を寄せることに、戦後の天皇家は力を尽くされてきたのです。上皇ご夫妻、両陛下が重ねた取り組みは、皇室に対して複雑な感情を抱く人々に、少しずつ戦後の天皇家の平和への思いを伝えてきたように思います。
そうした戦後の天皇家の重要な責務を、次世代を担う愛子さまに継承していただくことは、皇室への敬意と崇敬の念を、末永く国内外に示していくためには非常に重要なことだと言えるでしょう」
昭和、平成、令和の皇室が向き合ってきた“光と闇”を沖縄で体感された愛子さま。両陛下から受け継がれた“魂”の後継者として、これからも愛子さまは、平和な光に包まれた世界の実現を希求されていく――。
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