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2025年06月11日 12:11 ITmedia PC USER
昨今のモバイルノートPC市場では、軽さや性能だけでなく、使い勝手やスタイルの自由度も重要な選択基準となっている。
そうした中、日本HPが発売した「HP OmniBook X Flip 14 AI PC」は、360度回転ヒンジによる2in1構造と高い基本性能、そして美しい有機ELディスプレイを備えた注目モデルだ。
OmniBook X Flip 14にはCore Ultra 200Vプロセッサを搭載する「Intelモデル」と、Ryzen AI 300プロセッサを搭載する「AMDモデル」が用意されている。今回、AMDモデル(OmniBook X Flip 14-fk)のパフォーマンスモデルを借りて試す機会があったので、さまざまな側面から実力をチェックしていく。
●OmniBook X Flip 14-fk(パフォーマンスモデル)の概要
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今回レビューするOmniBook X Flip 14-fkのパフォーマンスモデルは、その名の通り性能重視の上位モデルだ。直販標準価格は25万3000円で、Intelモデル(OmniBook X Flip 14-fm)のパフォーマンスモデル(Core Ultra 7 258V搭載)と比べると1万9800円安い。主なスペックは以下の通りとなる。
・APU:Ryzen AI 7 350
・CPUコア:Zen 5/Zen 5cアーキテクチャ(8基16スレッド)
・GPUコア:RDNA 3.5アーキテクチャ(Radeon 860M Graphics)
・NPUコア:XDNA 2アーキテクチャ
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メモリ:32GB(LPDDR5x-7500)
ストレージ:1TB SSD(PCI Express 4.0 x4接続)
ディスプレイ:14型有機EL(タッチ操作/ペン入力対応)
・解像度:2880×1800ピクセル
・DCI-P3色域:100%カバー
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・リフレッシュレート:可変式(48〜120Hz)
無線通信:Wi-Fi 7(IEEE.802.11be)/Bluetooth 5.4
外部ポート:USB 40Gbps(USB4) Type-C、USB 10Gbps(USB 3.2 Gen 2) Type-C×1、USB 10Gbps Standard-A×2、HDMI 2.1出力、イヤフォン/マイクコンボジャック
・USB Type-C端子は電源入力と映像出力を兼用
Webカメラ:約500万画素(顔認証対応)IRカメラ(Windows Hello顔認証対応)
指紋認証センサー:電源ボタン一体型
OS:Windows 11 Home(日本語)
サイズ:約313(幅)×218(奥行き)×14.6〜16.9(高さ)mm
重量:約1.41kg
本製品に搭載されているAPU「Ryzen AI 7 350」は、モバイル向けのRyzen AI 300シリーズの中でも比較的上位に位置するモデルだ。CPUコアはZen 5アーキテクチャとZen 5cアーキテクチャを4基ずつ搭載するハイブリッド構造で、最大5GHzで駆動する。一般的なビジネス用途から軽めのマルチタスク作業まで、幅広く快適にこなせるパフォーマンスを備える。
GPUコアは、8基の演算ユニット(CU)を備えるRadeon 860M Graphicsを搭載している。3D性能は控えめながら、動画再生や画像編集、軽量な3Dゲームなどを快適に楽しめるスペックは確保している。
XDNA 2アーキテクチャのNPUコアはピーク処理性能が50TOPS(毎秒50兆回)となっており、Microsoftの定める新しいAI PC(Copilot+ PC)の要件を余裕でクリアしている。「Windows Studio Effects」によるAIを生かした映像処理はもちろん、HP独自のアプリ「HP AI Companion」のようなローカルAIアプリケーションでも、CPU/GPUのリソースを圧迫せずにスムーズな動作が期待できる。
1TBのSSDはPCI Express 4.0 x4接続で、レビュー機ではキオクシア製の「KBG60ZNV1T02」というモジュールを搭載していた。本SSDはPCメーカー向けに出荷される「KIOXIA BG6シリーズ」のType 2280/1TBモデルで、公称スペックでシーケンシャルリードが毎秒6000MB、シーケンシャルライトが毎秒5000MBという性能を備える。
「CrystalDiskMark 8.0.6」で実測した限り、カタログスペック通りの性能は出なかったが、読み書き速度は実用において十分なものだった。
●ビジネスにもプライベートにもなじむデザイン
OmniBook X Flip 14-fkは、ビジネスにもプライベートにもなじむ、落ち着いたデザインが魅力だ。
本体カラーは「メテオシルバー」で、やや青みを帯びたシルバーのトーンが清潔感と高級感を演出している。天板には金属素材特有の質感があり、中央に配置されたHPのロゴは控えめながらも上品な印象を与える。手にした際の満足感も高い。
本体には360度回転ヒンジが採用されており、通常のノートPCスタイルに加えて、タブレットモードやテントモード、スタンドモードなど、シーンに応じた柔軟な使い方が可能だ。ヒンジの動きは滑らかで、途中の角度でもしっかり保持される。プレゼンテーションや動画視聴、ペン操作時も安定して操作可能だ。
本体サイズは約313(幅)×218(奥行き)×14.6〜16.9(高さ)mm、公称重量は約1.41kgとなる。14型の2in1ノートPCとしては標準的なサイズと重量だが、実際に手に持つと見た目よりも軽く感じられる。天板を開いた状態でも、片手で問題なく持ち上げられる。
ACアダプターはUSB PD(Power Delivery)対応で、最大65W出力となる。電源ケーブル込みの実測で300gほどあった。本体にはウォールマウント式のプラグも付いているので、より軽くしたいならそれを使うか、別途USB PD対応で65W以上の出力に対応する充電器を買ってもいいだろう。
キーボードは日本語配列で、バックライトも備えている。Enterキー周辺は少しキーの幅が狭まっているので、慣れが必要かもしれない。
●きれいな表示のディスプレイと充実のインタフェース
本製品のディスプレイは、2880×1800ピクセル表示に対応した14型有機ELパネルを採用しており、タッチ操作/ペン入力もサポートする。表示色域はDCI-P3を100%をカバーし、輝度は最大400ニトと明るい。有機ELの特性もあって、発色はとても鮮やかだ。動画視聴や写真閲覧時の臨場感は高く、黒の締まりも良好で、視覚的な満足度は高い。
リフレッシュレートは可変式で最大120Hzに対応しており、画面のスクロールも滑らかだ。光沢パネルのため映り込みはあるが、明るい表示性能と高い精細感がそれを十分に補っている。
通常のノートPCスタイルでも使いやすいが、タブレットモードにすれば手元が安定しやすく、タッチ操作やペン入力でメモや注釈入れといった作業がさらに快適になる。
なお、本製品はペンが別売りとなる。Microsoftが定めた「MPP(Microsoft Pen Protocol) 2.0」規格のスタイラスペンに対応しており、純正オプションとして「HP MPP アクティブペン」(直販価格1万780円)も用意されている。
ポート類については、左側面にUSB 40Gbps Type-C(USB4)、USB 10Gbps(USB 3.2 Gen 2)Type-C、USB 10Gbps Standard-A端子とHDMI 2.1出力端子を備える。USB Type-C端子はUSB PD(Power Delivery)規格の電源入力と、DisplayPort Alternate Mode規格の映像出力にも対応しているため、両規格に対応するディスプレイにつなぐとケーブル1本で映像出力と充電を同時に行える。
右側面にはUSB 10Gbps Standard-A端子と3.5mmイヤフォン/マイクコンボジャックを備える。有線LANポートやSDメモリーカードスロットは非搭載だが、拡張性はモバイルノートPCとしては十分だ。周辺機器との接続に困る場面は少ないだろう。
●NPU搭載で実現するローカルAI体験
先述の通り、本製品は50TOPSのピーク処理能力を備えるNPUコアを統合したRyzen AI 7 350が搭載している。この強力なNPUコアによって、さまざまなAI(人工知能)を効率良くローカル処理できることが特徴だ。
例えば、Windows 11の「Windows Studio Effects」では、カメラ撮影時に「自動フレーミング」「アイコンタクト補正」「背景ぼかし」といったエフェクト処理をCPUやGPUに負荷をかけずに実行できる。このような処理はCPUやGPUでも行えるが、電力効率面ではNPUの方が有利だ。
カメラのエフェクトという面では、HP独自アプリ「Poly Camera Pro」も便利だ。Windows Studio Effectsではカバーしていないエフェクトが用意されている他、色味や明るさなど映像の細かい調整も行える。
さらに、AI Companion(β版)では、自然文によるPC操作やドキュメントの分析、タスク整理といった支援機能を提供する。現時点では対応するアプリや機能に制限があるものの、日常業務の一部をAIで補助できる可能性を感じさせるには十分だ。
将来的な機能拡充にも期待でき、ローカルAIの実用的な“入口”としては十分に魅力的といえる。
●ベンチマークテストでパフォーマンスをチェック!
ここからは、OmniBook X Flip 14-fk(パフォーマンスモデル)の性能をベンチマークテストを通してチェックしていこう。
なお、今回は特記のない限り全テストを「最適なパフォーマンス」の電源設定で行っている。
CINEBENCH R23/2024
まず、3Dレンダリングを通してCPUのパフォーマンスをチェックする「CINEBENCH R23」を実行してみた。結果は以下の通りだ。
・マルチコア:1万4165ポイント
・シングルコア:1954ポイント
マルチコアとシングルコア共に、モバイルノートPC向けCPU(APU/SoC)としては優秀な結果を記録した。マルチコア性能は、日常的な作業はもちろん、やや重めの処理やマルチタスク作業にも快適に対応できる水準だ。
シングルコアのスコアも2000に迫っており、アプリの立ち上げや操作の反応速度にも安心感がある。
より新しく、負荷の重い「CINEBENCH 2024」では、以下のような結果となった。
・マルチコア:618ポイント
・シングルコア:114ポイント
突出したスコアではないものの、やはりモバイルノートPC向けCPUと考えると良好な結果だ。普段使いからビジネス用途まで不満なくカバーできるだけの余裕は感じられる。
PCMark 10/PCMark 10 Applications
続けて、PCの総合ベンチマークアプリ「PCMark 10」の結果を見てみよう。
・総合:7430ポイント
・Essentials:1万1382ポイント
・Productivity:1万861ポイント
・Digital Content Creation:9006ポイント
PCMark 10ではシステム全体の使い勝手を測るため、PCの基本動作からビジネス系、軽いクリエイティブ用途まで幅広いタスクをテストする。いずれのスコアも高い実用性を発揮できるレベルで、本製品の実力が見て取れる。
特に基本操作やOfficeアプリの動作においては、ハイエンドクラスのPCにも引けを取らないスコアを残している。
PCMark 10には、実際のMicrosoft Officeアプリ(とMicrosoft Edge)を使ったテストシナリオ「Applications」も用意されている。このシナリオでもテストを実施した結果、スコアは以下の通りとなった。
・総合:1万5285ポイント
・Word:9131ポイント
・Excel:2万3739ポイント
・PowerPoint:1万4216ポイント
・Edge:1万7715ポイント
いずれのスコアも、モバイルノートPC向けCPUを搭載する製品としては高い。中でもExcelは2万ポイント超で非常に高く、関数やデータ量の多い作業でも快適にこなせそうだ。
WordやPowerPoint、Edgeなども1万ポイント前後をマークしており、日常業務でストレスを感じる場面は少ないだろう。
3DMark
3Dグラフィックスの性能を測る定番ベンチマークソフト「3DMark」の主要テストにおける総合スコアは以下の通りとなった。
・Fire Strike:6584ポイント
・Time Spy:2911ポイント
・Steel Nomad Light:1914ポイント
さすがに外部GPUを備えるゲーミングノートPCと比べるとさすがにスコアは低いが、CPUの内蔵GPUと考えるとスコアは高めだ。Radeon 860Mを搭載する他のノートPCと比べてもスコアの乖離(かいり)はほとんどなく、標準的なスコアとなっている。
Fire Strikeではミドルクラスに近いスコアを記録しており、DirectX 11ベースの軽量な3Dタイトルであればある程度快適にプレイできそうだ。一方でTime SpyやSteel Nomad Lightではスコアがやや低く、最新の3Dゲームを遊ぶには設定を調整する必要がありそうだ。
あくまでも、動画再生や2D主体のアプリの利用が主用途となる。
FF14/FF15ベンチマーク
実際のゲームベースのベンチマークテストを実行してみよう。
まず、中程度の負荷となる「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク(FF14ベンチマーク)」で、フルHD解像度/フルスクリーン設定で4つの品質設定でスコアを計測した。結果は以下の通りだ。
・標準品質(デスクトップPC):7118(やや快適)
・高品質(デスクトップPC):6676(やや快適)
・最高品質:3247(設定変更を推奨)
標準〜高品質では「やや快適」との評価で、最高品質ではスコアが3000台まで落ち込み「設定変更を推奨」という評価となった。
プレイ自体は可能だが、グラフィックス設定はやや抑えた方がよさそうだ。
より高負荷の「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(FF15ベンチマーク)」ではどうだろうか。フルHD解像度/フルスクリーン設定で3つの品質でスコアを測った結果は以下の通りだ。
・軽量品質:4268(普通)
・標準品質:3383(普通)
・高品質:2408(重い)
軽量および標準品質では「普通」と評価されており、設定を絞り込めばプレイは一応可能だ。ただし快適とは言いがたく、場面によっては処理落ちやフレームレート低下が発生する可能性もある。
高品質では「重い」と判定されており、グラフィックス負荷の高い環境でのプレイは現実的ではない。FF15のような高負荷タイトルは、この構成にとっては荷が重いかと思う。
バッテリー駆動時間
PCMark 10に内包された「Battery Profile」テストから、Modern Officeシナリオを選択し、ディスプレイの輝度を50%とした上で満充電(100%)から残量5%(強制休止状態)に入るまでの時間を計測したところ、10時間7分という結果となった。
このテストでは、バッテリー駆動時間を安定して比較できるよう、ULが提供する専用の電源プロファイルを適用して実施している。このプロファイルは「省電力機能の無効化」に加え、「スリープやディスプレイオフの防止」「継続的なアクティビティの維持」といった設定が含まれており、常に負荷がかかった状態での測定となる。そのため、実際の利用環境よりもバッテリー消費が速くなる傾向がある点には留意しておきたい。
このように厳しめの設定にしたにも関わらず、10時間を超えるバッテリー駆動ができたということは、外出先でも安心して作業できるだろう。
●バランス重視の2in1ノートPC 日常使いにちょうどいい1台
HP OmniBook X Flip 14-fk(パフォーマンスモデル)は、基本性能/機動性/拡張性のバランスが取れた1台に仕上がっている。軽量ボディーに14型有機ELディスプレイを搭載し、ペン入力やタッチ操作にも対応するなど、ハードウェア面での完成度も高い。
テストの結果からも分かる通り、実際のパフォーマンスも安定している。業務用途から軽度なクリエイティブ作業、動画視聴といった日常利用まで、幅広い用途に応えられるポテンシャルを持つ。加えて、バッテリー駆動時間も10時間超と長く、外出先での実用性も確保されている。
惜しい点があるとすれば、ペンが付属していないことや、ゲーミング性能に限界があることが挙げられる。もっとも、「ペンはいらない」「モバイルノートPCでゲームはしない」という人には大きな問題ではないだろう。
性能/携帯性/画面の美しさ/拡張性といったモバイルノートPCに求められる要素をバランスよく備えた本製品は、日常的に持ち歩くノートPCとして非常に実用的な選択肢である。特に、2in1タイプならではの使い方に魅力を感じる人にとって、有力な候補となるだろう。
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