就活生向けの“面接音声投稿サービス”に賛否 法的には問題ないのか 弁護士に聞いた

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2025年06月11日 15:11  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

提供:ゲッティイメージズ

 就職活動中の学生が、採用面接やOBOG訪問などの音声を投稿・共有できるサービス「Voice Career(以下、ボイスキャリア)」が話題を呼んでいる。運営会社であるEdu Studio(東京都港区)の公式Webサイトによると、ボイスキャリアは、就活生が自身の振り返り用として録音した実際の面接やグループディスカッション、OBOG訪問などの音声を投稿するサービスだ。他の就活生が音声を就活対策に活用することが想定されている。2025年3月時点で250社、5万分の音声データが掲載中だという。


【画像】面接音声が登録されている企業一覧


 ボイスキャリアを利用するには、会員登録が必須となっている。会員登録時には大学専用のメールアドレスを入力する必要があり、学生しか登録できないようにしている。投稿された音声は全て匿名加工され、会員のみが聞ける仕組みだ。


 一方、企業名や選考年次、面接形式などは会員登録なしでも閲覧可能。アクセンチュアやキーエンス、三菱商事など、業界ごとに企業名が一覧になっている他、新しい音声が追加されると新着情報として表記されている。


 面接の録音を禁止したり、OBOG訪問時に話した内容をオープンにしないよう依頼したりしている企業もある。集団面接の場合、録音をした学生以外の受け答えがデータに入ってしまうことも考えられる。こうしたサービスに、法的な問題はないのか。佐藤みのり弁護士に聞いた。


●法的に問題はないのか 弁護士の見解は?


――ボイスキャリアのサービスは法的に問題ないのでしょうか。


佐藤弁護士: 内定者が、企業や自分以外の発言者の同意を得ずに録音した音声を、ネット上に投稿する行為は、内容によってプライバシー権侵害、名誉毀損などの違法行為になる可能性を否定できません。仮に、企業や面接参加者などが被害を訴え、ボイスキャリアの運営会社に削除要請をした場合、運営会社は「権利が侵害されているのを知っていた」または「知り得たと認めるに足る相当の理由がある」とき、削除に応じなければ、損害賠償責任を負う可能性があります(情報流通プラットフォーム対処法3条1項)。


 なお、ボイスキャリアの利用規約には、投稿された音声に関して第三者との間に紛争が生じた場合、「投稿ユーザーの費用と責任で解決する」と記されています。その内容が法令に抵触しているかどうかについて、運営側が監視・確認する義務はなく、ユーザーや第三者に損害が生じた場合でも「責任を一切負わない」としているようです。


 しかし、消費者契約法8条1項により、事業者の債務不履行や不法行為により消費者(ユーザー)に生じた損害を賠償する責任を全部免除する規定は「無効」とされています。また、利用規約により、第三者の事業者に対する損害賠償請求権を制限することはできません。


●今後、企業から訴えられる可能性は?


――運営会社は「リーガルチェック済み」「就活生は安心して利用できる」とうたっています。利用する就活生は安全といえるのでしょうか。


佐藤弁護士: 企業の採用面接などでは、企業側が録音を禁じている場合があります。明確に禁じていなかったとしても、就活生が企業の同意を得ずに面接やグループディスカッションなどを録音した場合、「秘密録音」にあたります。いずれのケースでも、参加者のプライバシー権の侵害にあたるかどうかが問題になるでしょう。


 プライバシー権の侵害にあたるかどうかは、会話の当事者の関係性、秘密録音を行った目的・必要性、録音に至った経緯、録音の利用方法などさまざまな事情を総合的に考慮し、判断されます。一般的には、秘密録音を私的に保有しているにとどまっていれば、プライバシー権の侵害として違法とまではいえないと考えられます。


 ただし、録音データをネット上に投稿した場合、プライバシー権侵害となる可能性はあります。


(1)本来外部に流出することが予定されていない内容と考えられること


(2)自身の就活のための振り返り用として秘密録音したものを公表する必要性が高いとは言い難いこと


(3)投稿者以外の面接やグループディスカッションへの参加者の発言も音声に含まれている可能性があり、これらの者は自己の発言が公表されることを想定していないと考えられること


 などから、違法なプライバシー権侵害となる可能性を否定することはできません。


 その他、投稿された内容が、企業や参加者の社会的評価を下げるものである場合には、名誉毀損が問題になる可能性もあります。違法な名誉毀損にあたるかどうかは、公共の利害に関する事実か、公開の目的に公益性があるかによって変わります。


 ボイスキャリアに投稿された音声は、企業名や選考年次、面接形式などが公表されている一方、ボイスチェンジや音声カット、自主規制音による加工を実施しているとのことで、実際に投稿されている内容が、誰の発言なのか特定できるのかどうか不明です。特定できる場合には、プライバシー権侵害や名誉毀損など、法的にも問題となるリスクがあることは知っておいた方が良いでしょう。


 仮に、法に触れなかったとしても、録音禁止の面接などをこっそり録音したこと、さらにはネットに投稿したことなどが後から企業に知れた場合、採用されたとしても企業との信頼関係が崩れる危険があります。


――今後、掲載された企業から、ボイスキャリアの運営会社や、投稿した就活生本人が訴えられる可能性はあるのでしょうか。


佐藤弁護士: 投稿されている内容にもよりますが、掲載された企業や面接参加者などがボイスキャリアの運営会社に対して、権利侵害を訴え、削除要請をすること、削除に応じなかった場合に損害賠償請求することは考えられるでしょう。また、投稿者がプライバシー権侵害や名誉毀損などを理由に損害賠償請求される可能性もあります。



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