【はばたけラボ 連載「つなぐ」】発酵のうまみで東海3県をつなぐ、地域の食文化をとことん味わう新感覚の展覧会

0

2025年06月11日 15:40  OVO [オーヴォ]

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

OVO [オーヴォ]

【はばたけラボ 連載「つなぐ」】発酵のうまみで東海3県をつなぐ、地域の食文化をとことん味わう新感覚の展覧会

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。ウェルビーイングな暮らしのために、異なるものをつなぐことで生まれる「気づき」を大事に、いろんな「つなぐ」をテーマに連載でつづる。

【動画】インタビュー動画はこちら

 第5回は、地域の「食」がテーマの一風変わった展覧会、愛知・岐阜・三重を舞台にした「発酵ツーリズム東海―うまみの聖地巡礼―」。本展のキュレーターを務める発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに展覧会の内容と日本の発酵文化について聞いた。


■濃厚なうまみ食品でつながる、東海3県

 東海の食文化でヒラクさんが注目したのは、濃厚なうまみを持つ日本酒、しょうゆ、みそ、酢、みりん、なれずし、伝統ずしなどの発酵食。そこで、「うまみの聖地巡礼」というサブタイトルをつけた。2つのミュージアムで開催されている展覧会で見て学び、普段は入れないところも含めて50の蔵元を中心に、100以上のプログラムを体験できる。会場は愛知、岐阜、三重の3県にまたがる。



■すしでつながる、東海・世界・未来

 東海3県は、実はすしでつながる。すしの歴史を展示で伝えるのが、チェックイン会場の一つ、ミツカンミュージアム(愛知県半田市)で開催中の「すしの千年を巡る旅展」(入場無料、予約不要)だ。

 愛知県の海沿いの町・半田はミツカン本社があるように酢の醸造や技術開発が盛んで、江戸時代の「江戸前ずし」の酢飯文化を支えた場所。岐阜県には山間部の保存食として「鮎のなれずし」などのすし文化が色濃く残る。三重県は伊勢信仰との関わりですし技法が発達した。「朝廷におすしを献上する文化の源流をたどると、神様におすしをささげる行為に行き着くんです」

 すしに限らず、日本人が食を大事にするのは、「単においしいものが日本にたくさんあるから」ではなく、食と信仰が深く結びついているからだという。伊勢神宮外宮(豊受大神宮)の創建神話では、「自分一人では食事が安らかにできない」という天照大御神の信託を受け、食物をつかさどる豊受大御神(とようけおおみかみ)が伊勢の地に迎えられたと伝わる。外宮では、毎日朝と夕の二度、神々に食事を奉る日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)が1500年続いている。

 文化人類学、農業、フランス留学など知識と経験が豊富なヒラクさんは、おすしを世界や未来ともつなぐ。「すしは日本生まれではなく、アジアで生まれて日本にやって来た。古代アジアから渡ってきたおすし・お供えのおすしといった千年以上前のおすしから、現代のおすしまで、全て残っているのが東海。ルーツを突き合わせ、次の時代のすし文化を作っていくことを目指した」





■発酵で人生がつながる、小倉ヒラクさん

発酵デザイナーの小倉ヒラクさん

――「発酵デザイナー」ってどんな仕事?

 発酵デザイナーはデザインやアートの力を使って、目に見えない微生物の働きを目に見えるようにする仕事です。今から12、3年前に始めて、今は展覧会をしたり本を作ったり、あとは自分でお店を運営したり。研究もするんですが、論文を書いたりよりは、一般の幅広い人たちが発酵のことを楽しめたり、あるいはメーカー側が新しい商品やサービスを作るお手伝いをしています。

――発酵食品ってどんな食べ物?

 発酵食品は、目に見えない微生物たちが働くことによっておいしく役立つようになった食べ物のことです。日本の気候は湿潤温暖なので、微生物が働きやすい土地柄。食べ物が腐らないよう、良い菌の力を使って悪い菌を追い出す技術を昔から発達させてきました。日本は菌の数が多く、人間に役立つ健康的な成分を作ってくれる菌もいっぱいあって、そういうのをうまく使いこなす技術が発達し、日本人が元気で長生きする下地を作るような発酵食品が生まれました。

――日本の発酵文化の独自性はどこにある?

 微生物っていろいろ種類があるのですが、カビを使いこなしているところが非常に特徴的です。日本では今、こうじがトレンドですが、こうじを使って調味料も作るし、漬け物も作るし、お酒も作る。こうじからいろんなものを作り出すのが非常に特徴的です。これは中国や韓国ともちょっと違います。日本のこうじは上品な味わいで、甘くてうまみがあって軽くて。元から日本にあっただし文化とかと結びついて発達し、独特のものになっていきました。

――今後、実現していきたいことは?

 今、僕が運営している「発酵デパートメント」は、お客さんの3、4割が海外の方なんですね。日本が千年以上かけて育んできた発酵文化を、世界の共有財産にするためにはどうするかが問われています。これから取り組みたいことは、世界中の人たちと、こうじやおすしといった文化を、共通値としてどう発展させていくか。あとは、その技術を使って、田んぼや漁業をどう守っていくか。それらが、僕たちの大きなミッションだと思っています。

――発酵食品の魅力、おすすめの発酵食品は?

 発酵食品はとにかく楽しいです。これまであまり出合ったことのない味わいや匂いに出合えたり。発酵食品を追いかけていくと、これまで旅する機会のなかった場所に行けたり。発酵食品を作っている人って大体変わった人なので、そういう人に会うのも楽しい。楽しい発見があるのが一番かなと思います。最初の入り口としては、せっかく日本なので、こうじに触れてみてほしいなと思います。塩こうじを作ってみるとか、甘酒を飲んでみるとか。こうじの独特の味わいにハマってみてほしいなと思います。

――ご自身にとって、日本の発酵文化とは?

 発酵に興味を持ったきっかけは、もともと僕は体が弱くて、デザイナー時代に体を壊してしまった時に、小泉武夫さんという発酵の博士に出会ったことです。「(生まれつき体が弱いなら)発酵食品を食べなさい」と言われて、それでみそ汁や漬け物を食べるようになって元気になったのがきっかけ。

 でも、単純に健康に良いとかおいしいだけじゃなくて、発酵って、いろんなものとつながっていて。生物学でもあるし、物質が変化していく化学でもある。その土地で生きている人たちがどういう風に暮らしていたのかという結果が、発酵食品になっていたりする。それまで自分が関心を持っていたことが、全部つながっていくような感覚でした。僕は30歳くらいまでブラブラして、ろくに働いてなかったんですけど、日本の発酵って、バラバラに見えていた自分の興味をつなげてくれるものだなと思っています。

 「発酵ツーリズム東海」は7月13日まで。参加には公式サイトまたは電話(各プログラム申し込み先)で予約要。

【プロフィール】

小倉ヒラク

83年東京都生まれ。発酵デザイナー。早稲田大学文学部で文化人類学を学び、在学中にフランスへ留学。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボをつくる。全国の醸造家や研究者と発酵・微生物をテーマにしたプロジェクトを展開。絵本&アニメ『てまえみそのうた』で「グッドデザイン賞2014」受賞。20年、発酵食品専門店「発酵デパートメント」を東京・下北沢にオープン。24年に「発酵文化芸術祭 金沢」展のキュレーターを務める。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など。

#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。

もっと大きな画像が見たい・画像が表示されない場合はこちら

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定