家に迷い込んできた犬と戯れる浅田魔王―[振り返れば青学落研]―
YouTubeチャンネル登録者数180万人を突破した「バキ童チャンネル」。
唯一無二の企画とキャラクターを活かした動画が支持される一方で、中心メンバーのお笑いコンビ、春とヒコーキが出会った青山学院大学・落語研究会についてのエピソード動画も強い人気を集めている。
そんな「青学落研の話」を、チャンネル出演者であり、青学落研出身者であり、春とヒコーキの学生時代からの友人でもある芸人・町田が振り返る。
第11回は、町田が一番面白いと思っていた先輩「浅田魔王」について。
◆2浪でぐんぴぃの同級生だった浅田魔王
浅田魔王さんは私が在学当時の青学落研で一番面白いと思っていた先輩であり、私が落研に居続ける理由を作ってくれた先輩でもある。
魔王さんは私や土岡の1つ上の学年、ぐんぴぃと同学年にあたる。2年の浪人も経ているので、年齢は3つ上でとても落ち着いた印象であった。
後輩の私たちには特に親切に接してくださり、落語の知識や演芸の歴史、文学や美味しいごはん屋さんまで、様々なことを話してくれた。
そう言った面も魔王さんの魅力ではもちろんあるのだが、私たち部員一同が本当に魅了されたのは魔王さんの笑いを取ることへの飽くなき姿であり、物腰柔らかな外見とは真逆の底意地の悪さであった。
普段は知的でエスプリの効いたトークで僕らを楽しませてくれる魔王さん、だがしかし、ひとたびスイッチが入ると狂ったようにボケ続けるマシーンに変貌するのだ。
◆あの手この手で笑わせてくれた
当時、僕らは部員の誰かの家に集まって、徹夜でお喋りをして過ごすという集いを定期的行っていた。その時など、ほとんど魔王さんの独壇場になってしまっていた。
異常な表情で無秩序に奇声を挙げつづけたり、過剰な下ネタ、ぜんぜん表だってはしてはいけない発言、先輩への止めどない悪口など、あの手この手で私たちを笑わせてくれた。とてつもない場の掌握力であった。
中でも、魔王さんは「下ネタを奇声とマイムで表現する」ことに素晴らしく長けていて、その時の手は指先にまで魂が宿っているかのようにしなやかで、えげつない下ネタながらどこか上品であった。
私たちは魔王さんについていく所存です、といった感じであったが、部全体の集いなどになると魔王さんはどこか一歩引いたように過ごしていた。
私などは魔王さんに落研のリーダーとしてその強烈な面白さで部を引っ張っていく存在になっていってほしいと常に感じていた。
そんな折に、機会は訪れた。
◆青学落研メンバーで大学生お笑いの大会に出場
私たち落研部員は一度だけ、大学生お笑いの大会に出たことがある。
それは私が2年生の時であった。落研のA先輩に誘われるかたちで、私たちはその大会に出場することとなった。
A先輩は当時、お笑いの養成所に通っていたこともあって、青学落研内で自らを笑いカリスマと称すリーダー的存在であった。しかしながら私たちは本当にA先輩はカリスマなのだろうかとしばしば、疑問に感じていた。
漫才・コント・ピンネタで大学のサークルごとに競う団体戦形式の大会に、私と土岡がコント、ぐんぴぃがピンネタ、魔王さんとA先輩が漫才の5人1組でエントリーした。
普段、落語しかやってこなかった我々のネタをA先輩が作ってくれての出場であったが、私と土岡のコントや、ぐんぴぃのピンネタはそれぞれ自分達で意見を出し合いながらやりたいように修正を加えた。
しかし、A先輩と魔王さんの漫才はA先輩本人がやることもあり、全く手直しを加えないまま大会本番を迎えることとなった。
私たちのチームはひとまず大会の予選を通過した。
しかし、魔王さんとA先輩の漫才が激烈にスベっていた。2人が実際に目の前で漫才を披露しているのに、遠くで誰かが喋っているのをお客さんがただただ見ている、そんな感じのスベり方であった。
◆落研が変わる革命の予感
予選通過後、決勝に向けて集まる私たち。A先輩だけがその集まりに遅れていた。
「俺、もう人前であんなに滑りたくない。『このままのネタじゃウケるわけないからネタを変えましょう』ってA先輩に言うわ」
そう話す魔王さん。A先輩に魔王さんが意見を!
落研内の図式が変わるかもしれない!
「魔王さんがA先輩に言うんだったら僕もそれに続きますよ」
ぐんぴぃがそれにつきしたがう意思表明を!
これは落研が変わる革命だ。私と土岡は胸躍る思いであった。
「まず、僕がA先輩に軽くネタについて話すんでその後に魔王さんが僕らが思ってた全部話してもらえますか…?」
というぐんぴぃの提案に
「もちろんだよゴリくん!俺たちで変えよう!」
魔王さんは決意を表明した。(ぐんぴぃは当時ゴリと呼ばれていた)
感動的な瞬間であった。私が本当に面白いと思う先輩でありながら、シャイなところもあってどこか矢面に立つことを避けていた2人が、こんなに奮い立つなんて!
遅れてA先輩の到着。先陣を切ったのはぐんぴぃ。
「A先輩、あの、ちょっといいですか。このままだとA先輩と魔王さんの漫才、確実に滑りますよ」
おお!いいぞぐんぴぃ!カッコいいぞ!魔王さん行け行け!私はそう思っていた。
そして魔王さんが口を開く。
「ゴリくんそれは言い過ぎじゃない」
んん?? 一体何が起こったのかわからなかった。
「ゴリはわかってないよ」
A先輩はぐんぴぃをそう切り捨てて、最悪な空気のままその日から大会まで私たちは過ごすこととなった。
革命は1秒で終わってしまったのだ。
当時の私は心底がっかりしたのだが、魔王さんの心境を今ならば察することができる。大きな揉め事を回避するには、ああする他になかったのだと。
それにしても…と思うが、あの時に革命が起こらないのも落研らしくてよかったと思います。
―[振り返れば青学落研]―
【町田】
ぐんぴぃの友人。芸人としての活動もしている。@saisaisai4126