人気アーティストの“グッズ”が炎上…2000年代を風靡したグループが映し出す「現代の世知辛さ」

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2025年06月11日 16:01  日刊SPA!

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画像はRIP SLYME Official Xより
 果たしてこれはダサいのでしょうか?
◆トランプ大統領「MAGA」パロディグッズで炎上

 オリジナルメンバーの5人で復活したRIP SLYMEが新たに発表した公式グッズが炎上しています。トランプ大統領の「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」(MAGA)をパロディにした「MAKE RIP SLYME GREAT AGAIN」のキャップを発売したところ、“なーんにも考えずに作ってそう”とか“RIP SLYMEダセー”と批判が殺到したのです。

 この影響からか、現在までに商品を告知したポストは削除され、グループのオンラインストアでも在庫切れ状態になっています。

 キャップをプロデュースしたのは、メンバーのSU。「今こそ共に、再びリップスライムを!」とファンに呼びかける思いを込めたのだそう。このコメントを見ると、純粋な気持ちの照れ隠しで遊び心を出してしまったぐらいの話なのでしょう。

「楽園ベイベー」や「FUNKASTIC」などのヒット曲で独特のユーモアを発揮してきた彼らのことですから、これぐらいの冗談なら受け入れられるだろうとの読みがあったのかもしれません。

 しかしながら、時代は変わりました。2025年においてRIP SLYMEのセンスはどう映るのか? そしてそれを受け取る世間の空気はどうなっているのか? 様々な角度から考えてみたいと思います。

◆00年代には“イケてる”とされたRIP SLYMEのセンス

 まず、RIP SLYMEのセンスに関して。彼らの悪ノリとオシャレの絶妙なバランスは、80年代から90年代にかけてのサブカルチャーの洗礼を受けてきた人たちならではの感覚です。これが2000年代の前半までは、確実に“イケてる”ものとして受け入れられてきました。

 ただし、近年では、この斜に構えたアプローチを気恥ずかしいものと見る傾向があるように感じられます。

 たとえば、「MAKE RIP SLYME GREAT AGAIN」というスローガンは、RIP SLYMEがただの一度も「GREAT」だったことはないという自虐も踏まえたうえでのパロディです。それなのにさらに「AGAIN」と打ち出す図々しさが、彼らの皮肉めいた音楽性と共鳴しているわけですね。

 そうして、本心を隠す技術の中に、小洒落た表現力が培われていく。それを“センス”として競い合っていた時代に鍛えられたアーティストなのです。

◆現代の価値観では「率直さと配慮を欠いた粗相」に

 ところが、昨今の世論はこのような反語を中二病的に捉えるようになってきました。きつい言い方をすれば、大人になりきれない“サブカル中年“だと、冷ややかに見ている。90年代には、遊び慣れた大人の余裕だと見てもらえた感性が、現代では率直さと配慮を欠いた粗相になってしまったのです。真摯に生死の境を見つめ、複雑な社会の多様性に向き合う米津玄師のようなミュージシャンが尊敬を集める時代だという認識が、RIP SLYMEには欠けていたのですね。

 もちろん、多くのファンは擁護しています。しかしながら、そこにそうしたセンスを良しとする感覚が青春時代へのノスタルジアであるかもしれないとの認識はあるのでしょうか?

「MAKE RIP SLYME GREAT AGAIN」というユーモアは、その温もりに甘えた表現だったと言えるのかもしれません。

 そして、今回の炎上では、“反トランプの人たちが騒いでいるだけ”という主旨でRIP SLYMEを擁護する人たちまで現れました。これは、グループにとっても想定外だったはずです。RIP SLYMEのユーモアを支持する人たちは青春から抜け出せず、擁護する人たちはとことん誤読している―――。

 “かつて”オシャレだったRIP SLYMEの、世知辛い現状を暗示する一件でした。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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