4月13日に開幕した大阪・関西万博は、初日だけで14万6426人が来場し、その後も連日多くの来場者が会場を訪れている。開幕から11日目の4月23日には、スタッフを含めた累計入場者数が100万人を突破し、記念セレモニーも開催した。4月26日までの累計来場者数は137万9655人に達し、1日あたりの一般来場者が週末には10万人を超える日もあるなど、盛況ぶりが際立つ 。5月12日には、来場者数が累計で300万人を超えた。
万博の入場方法は大きく分けて2つある。多くの人が利用する1つ目が、1日券などの一般的なチケットによる入場だ。この方法では、来場者は事前に万博IDを登録し、公式Webサイトなどで日時指定の電子チケットや紙チケットを購入する。入場当日は、手荷物検査後にスマートフォンに表示したQRコードをかざして会場に入る手順だ。
もう1つの入場方法が「通期パス」や、7月19日〜8月31日限定の「夏パス」など、複数回入場可能なパス所有者向けの顔認証入場である。複数回パス購入者は、事前に公式アプリや専用サイトで顔写真を登録。当日はゲートでQRコードをかざした後、設置されたカメラに顔を向けるだけで本人確認と入場が同時に完了する。なりすまし防止やセキュリティ強化にもつながるという。
この顔認証入場を可能にしているのが、NECの顔認証技術だ。そして万博では、入場だけでなく、会場内の店舗へも顔認証による決済方法を提供している。これを可能にした経緯には、NECの社内DXの取り組みも実は関係しているのだ。NECの取り組みを追った。
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●世界1位の顔認証 DXに活用している技術を万博に
NECの顔認証技術は、実は世界でもトップクラスの評価を得ている。同社は2009年から米国国立標準技術研究所(NIST)が実施する顔認証技術のベンチマークテストに参加し、これまで何度も世界第1位の評価を獲得してきた。2025年3月に実施されたテストでも、NECは世界中の競合企業・研究機関を抑えて第1位の座を獲得した。
NECの強みは、独自の顔検出・特徴点抽出アルゴリズムやAI技術の高度な融合にある。顔の向きや表情、照明条件の違い、さらにはマスク着用時でも高い認証精度を維持できる点が、世界中で高い評価を得ているのだ。
この技術は、大阪・関西万博の入場管理だけでなく、東京オリンピック・パラリンピックや空港の出入国管理、金融機関の本人確認など、実社会のさまざまなシーンで導入が進んでいる。現在、NECの顔認証システムは50カ国以上で展開。グローバルスタンダードとしての地位を確立している。
この高い信用性のある顔認証技術は、NECが提供するDXソリューションにも積極的に活用している。NEC本社をはじめとするグループの各拠点では、2024年7月から顔認証を中核とした「デジタル社員証」を導入。入館管理や社内決済といった日常業務のデジタル化・効率化を実現している。
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入退管理の面では、従来の社員証を不要にした。社員がゲートに設置したカメラに顔を向けるだけで、非接触かつスムーズにビルやフロアへの入退館を可能にしている。
この顔認証入退管理は、2020年の本社ビル実証実験を皮切りに、2022年からは本格運用を開始。2023年には国内NEC社員約2万人にデジタルIDを発行し、2024年にはカードレス化を進めた「NEC丸ごとデジタルID」プロジェクトを本格展開している 。
社員は手ぶらでゲートを通過できるだけでなく、入館履歴の自動記録や、社内での居場所確認、グループ企業間のデジタル名刺交換など、コミュニケーションや業務効率化にもつながっている。
そして入退だけでなく、この顔認証技術は社内決済でも活用している。社員食堂や売店では、事前に顔情報と決済手段を登録しておくことで、顔認証だけで即座に決済が完了する。財布やカードを持ち歩く必要がなく、両手がふさがっている場合でも、手ぶらで支払いができる点が大きな特徴だ。
この顔認証決済は、給与天引きやクレジットカード決済など複数の決済方法に対応している。これにより、社員の利便性と経理業務の効率化を両立した。POS端末との連携や、パターン認証との2要素認証によってセキュリティを強化している。
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NECでは、社内DXの取り組みを通じ、顔認証技術による入退管理システムと決済管理システムを確立してきた。社内で培ってきた技術を、万博でも活用しているというわけだ。
●一般入場者でも顔認証による決済が可能に
万博で導入されている顔認証技術は、入場に関してはなりすまし防止を目的として「通期パス」「夏パス」と呼ばれる複数回来場できるチケットでのみ提供している。一方で、チケット券種にかかわらず、一般来場者が利用できる顔認証技術がある。それは会場内店舗での顔認証決済だ。
顔認証決済を利用するには、利用者は万博協会が提供する公式アプリ「EXPO 2025デジタルウォレット」をスマートフォンにインストール。万博IDとひもづけるとともに万博独自の電子マネー「ミャクペ!」利用登録をする。その後「ミャクペ!」から顔登録システムに遷移し、顔情報を登録することによって、顔認証決済が利用可能だ。
会場内の顔認証決済では、SMBCグループが提供する「stera terminal standard」という決済端末を利用する。同端末は、サイゼリヤやコロワイドグループなど全国の一般店舗でも展開している端末だ。万博会場では、stera terminal standardとNECの顔認証システムを組み合わせることで、利用者は端末の内蔵カメラに顔を向けるだけで決済できる仕組みを構築した。
この内蔵カメラは、本来は顔認証用のカメラではなく、PayPayやd払いなどといったQRコード決済のバーコードやQRコードを読み取るためのもの。それをNECのソフトウェア技術によって、顔認証決済にも対応させた形だ。この端末を万博会場内に約1000台設置し、ほぼ全ての店舗で顔認証決済が利用できる。
顔認証時も、スマートフォンの顔認証のように利用者がカメラを意識し、正対してのぞき込むように見る必要はなく、目線を少し送るだけで完了するという。この精度の高さも、NECの技術力を生かしている。
NEC大阪・関西万博推進室の伊藤愛さんは、「荷物で手がふさがっていたり、お子さんを抱きかかえていたりする方には特に便利さを感じていただきやすいと思う。日常生活で実際に利用できる場面は現状多くないが、今回の万博を契機として一人でも多くの方に体験いただきたい」と話す。
stera terminal standardは全国の店舗で既に導入が進んでいる端末だ。顔認証カメラの後付けが不要で、ソフトをアップデートするだけで技術的には顔認証決済が利用可能になる。顔認証を用いた決済そのものは、Apple PayやGoogle Payなどで既に導入実績がある技術だ。そのため、大阪・関西万博を契機に、全国の店舗でも顔認証決済の導入が進む可能性は十分にあるだろう。
(フリーライター 河嶌太郎)
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