
北中米ワールドカップ・アジア最終予選のラストゲーム、日本代表はホーム開催のインドネシア戦で6-0の快勝劇を見せた。
梅雨入りの報がもたらされ、雨が降ったり止んだり、寒いのか暑いのかよくわからないがとにかく湿度の高いコンディションのなか、次々に得点が決まる試合は大いに盛り上がった。
また、インドネシアサポーターの応援はここ最近のアウェーチームのなかで特に熱く、その熱気につられるかのようにスタジアム全体の興奮度も上がった。日本にしてみれば、オーストラリアでの敗戦を払拭するような勝利で「最終予選は美しくまとまった」とも言える試合だった。
すでにプレーオフ進出を決めているインドネシアだが、日本と比較すると明らかな格下。そのため戦いを終えた日本人選手たちから受けた印象は、勝ちきった充実感や高揚感、喜びよりも、ただ連戦を終えたリラックス感が上回っていた。
試合に入る前も、大一番のそれとはちょっと違ったようだ。たとえば、三戸舜介は代表初先発を知った時、努めて平常心を心がけたという。
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「これが最後の代表にならないように......という気持ちで、自分のできること、特徴を出しいけたら、というふうに思っていました」
この日、初アシストを記録しても、テンションはそのまま。
「ここでアシストできたから、今後の代表にちょっと関われるかって言われたら、そうではないと思っています。チームでレベルアップしていかないといけないし、今のままではたぶん呼ばれない。なので、ワールドカップに近づいたな、というふうにも感じていないです」
文字にしてみると、なかなか危機感たっぷりのようにも見える。だが、表情はいたってにこやかに話していた。若手が多く招集されてチャンスが与えられた6月シリーズであったことと、相手との力関係に拍子抜けしたような、そんな感じだった。
【代表定着に向けてライバルは?】
ただ、そうはいうものの、代表初先発となった三戸は立ち上がりから気を吐いた。3-4-3の左ウィングバックでプレー、開始15分で初アシストを記録する。
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左サイドで抜け出した三戸は、鎌田大地からのパスを受けると、ペナルティエリア手前から右足クロスを選択。ゴール前に走り込んだ鎌田がそのクロスを頭で合わせ、先制点となった。
「練習中からインスウィングのクロスで得点もあった。練習の形が試合で出てよかった」
三戸は安堵の表情を浮かべた。
また、武器である切れ味鋭いドリブルも見せた。
「(鈴木淳之介など)後ろの選手たちがいい配球をしてくれたので、やりやすかったです。何もしなくてもボールが来るので、あとは仕掛けるだけだった。もっと仕掛けたかったですけど」
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代表定着を考えると、三戸は複数ある攻撃的なポジションのいずれかで勝負することになる。左サイドであれば比較対象は三笘薫になるし、右サイドならば伊東純也や堂安律、中央のポジションでは南野拓実や久保建英らがライバルになってくる。
三戸の所属するオランダ1部のスパルタ・ロッテルダムと比べると、彼らは大きなリーグ、クラブでプレーしている。かねてから「みんなもっと上のリーグでプレーして活躍している。このクラブにいて代表に行けるとは思えない」と、極めて冷静に、まずは所属クラブからステップアップすることが必要だと口にしている。
とはいえ、今回代表に初めて招集されたことで、スパルタ・ロッテルダムにいても森保一監督からウォッチされていることを実感できたという。
「これまであまり代表は意識してなかったですけど、どこかで見てもらっていることがわかった。なので、あらためて自チームでがんばっていきたいなと思います」
5大リーグのトップレベルで活躍し、タイトルを獲得する選手も珍しくなった今、ただ海外に行っただけでは「日本代表に近づいた」とは言いがたい。監督をはじめコーチ陣やスタッフによるクラブ視察にもマンパワーの限界があり、小さなクラブでプレーする選手のところまでは目が行き届かないこともある。
だからこそ、これまで三戸は日本代表を意識できない側面があった。しかし今回、若手主体のラウンドであったとはいえ、招集されたことに大きな意味がある。
【久保は今、日本で一番の選手】
オランダリーグでは日本人選手ともプレーしているとはいえ、日本人の多い環境はパリ五輪以来のこと。それも三戸にとっては貴重な期間となったという。
「張り詰めた感は特になく、リラックスしてホテルで過ごせました。常連組ともいろいろコミュニケーションが取れたので、充実した10日間でした」
そして意外なことを言う。
「代表はなんか......普通にテレビで見ていた人たちばっかりで、『本当に存在するんだ』って感じでした。オランダだとテレビで代表戦もあまり見られないんで、うれしかったです」
三戸自身も海外組のひとりなのに──と思わないでもないが、代表とはそんな距離感のようだ。では、そのなかで最も「本当に存在するんだ」と感じたのは誰か。
「やっぱり久保くんじゃないですかね。年は1個上ですけど同年代ですし、今、日本で一番の選手だと思っていますから。会えてうれしかったです。めっちゃ話してくれるんで、ずっと話していて楽しかったです」
話の内容は、他愛もないことだそうだ。
三戸は今シーズン、オランダでの活躍が目に止まり、日本代表としてピッチに立つことができた。次に気になるのは、やはりスパルタ・ロッテルダムからのステップアップだ。
「(上のチームに行きたい欲は?)もちろん。それはもう、ずっとある。でも、あんまり背伸びはしたくないと思っています」
冷静に、でも虎視眈々と。三戸舜介は先を見据えている。