「テレビ版の『幸福の黄色いハンカチ』(TBS系)や映画『俺ら東京さ行ぐだ』などで栗山(富夫)監督がボクを気に入ってくださり、声をかけていただいた作品が『釣りバカ日誌』です」
こう語るのは、中本賢さん(69)。主人公・ハマちゃん(西田敏行)の隣人で、親友の八郎役だった。
「原作の漫画には登場しないキャラなんです。オープニングで、寝坊して遅刻しそうなハマちゃんを船に乗せてあげるのですが、悠々と隅田川を移動しながら高速道路のラッシュを見て『おかを行くやつはバカよ』と一言。あとあと考えてみると、通勤ラッシュを俯瞰した八郎の視点が、この映画には欠かせないものだったのでしょう」
『男はつらいよ』の併映作品で、当初、誰もが1作だけのつもりで撮影に臨んでいたという。
「スタッフから聞いた話では、寅さんは関西で思うようなヒットが出せずにいましたが、『釣りバカ日誌』は人気があったことから、続編が決まったそうです」
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毎回、ハマちゃんと八郎が取っ組み合いのケンカをするのが定番。
「あるとき、アドリブを多用する西田さんが、ケンカでボクの首を絞めることに。テストのとき『ケンちゃん、笑いながら気を失ってよ』とアイデアを出して、そのシーンが採用されました。一方で三國連太郎さんはプランを固めて芝居するタイプ。練習したがる三國さんと、練習したがらない西田さんの間にボクが立たされていました(笑)」
ヒットを連発したが、出演者たちには複雑な思いがあったという。
「同じシリーズで同じ役を演じ続けると、イメージが固まってしまいますから、三國さんも西田さんも、現場では“しんどいな”という話をしたりしていました」
映画人気の落ち込みを感じることもあった。
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「途中、松竹大船撮影所が閉鎖されることに。お世話になった撮影所だから、最後は半べそかきながら撮影に臨んでいました。その後は、ライバル会社の東映の撮影所をお借りしていたから、松竹のスタッフは忸怩たる思いもあったはずです」
こうした苦労も力に変換したからこそ、ファイナル作品にこぎつけたときは寂しさよりも“よくやった”という満足感が勝った。
「長い撮影期間でしたが、今でも思い出すのは、撮影所に向かう道すがら、車に乗った西田さんが身を乗り出して『ケンちゃーん!』と大声で叫ぶ姿。10歳近く下のボクを仲間として受け入れてくださいました。西田さんのお別れの会のときは、心から泣きました」
『釣りバカ日誌』(1988〜2009年)
西田敏行さんが演じるハマちゃんが、自社の社長のスーさん(三國連太郎さん)と釣りを通じて心を通わせるサラリーマン映画。遅刻の常習犯であくびばかりの問題社員のハマちゃんだが、なぜか誰からも愛される人物。西田敏行さんの人柄とも重なる代表作!
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【PROFILE】
なかもと・けん
1956年生まれ、東京都出身。1976年に芸能界入りするとアパッチけん名義で、コメディアンとして活躍。80年代に入ると『幸福の黄色いハンカチ』を皮切りに、俳優として数多くのドラマ、映画で活躍している。
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