「70歳を過ぎても恋できる人」の特徴。“暴走する高齢者”にならずに楽しむには

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2025年06月16日 16:00  女子SPA!

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『続・続・最後から二番目の恋』©フジテレビ
 巷で話題になっている『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)が、笑いながら泣けるドラマとして人々の胸に刺さっているようだ。

 長倉和平(中井貴一)と吉野千明(小泉今日子)を中心に、長倉家の兄弟姉妹、周辺の人々による静かで深くて、せつないようなおかしいような日常が丹念に描かれている。登場人物それぞれのキャラクター、そしてそれを演じる俳優たちが非常に人間臭くて、リアルで、そして優しい。

 肝心の和平と千明の関係は、今もって「大事な人」であることしかわからない。男女を超えた信頼関係のもとに日々、少しずつ礎が堅固なものになっているのは見てとれる。

 今シリーズは、そこに千明のかかりつけ医となった成瀬先生(三浦友和)と、和平が定年後も勤務する鎌倉市役所で働き出した“未亡人”の早田律子(石田ひかり)が登場している。

◆73歳医師の恋「なんだか心が動くとおもしろい」

 成瀬先生は73歳、先立たれた妻にうり二つの千明に恋をしてしまう。和平と千明の関係を知って、成瀬は千明にこう言う。

「あの日以来、胸がチクチクしましてね。長倉くんと一緒のあなたを見てから何か……こうチクチクとね。2人の関係はすてきだし、長倉くんはいいやつだし。チクチクします」

 正直に自分の胸の内を語っていく。彼は初恋の相手と結婚し、その妻に先立たれてから、「ずっと、あとの残された人生を静かに、というふうに思ってたんだけど。まあ、それでもいいんだけど。なんだか心が動くとおもしろい」と伝える。

 心が動く、変化する、成長する。今回のドラマのキーワードである。

 千明59歳、和平63歳、成瀬73歳は、小泉今日子、中井貴一、三浦友和の実年齢でもある。だからこそセリフが実感をともなっていて説得力がある。

◆千明は高齢者寸前、和平が前期高齢者寸前

 一般的に「高齢者」は65歳からと思われている。これは医療制度や介護保険からの定義で、65歳は前期高齢者、75歳以上は後期高齢者である。だが、厚生労働省が高年齢者の雇用と言う場合は60歳以降を示すし、内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」なども対象は60歳以上だ。グルメ、レジャー、交通などのシニア割引もほとんどが60歳以上。

 ということは千明は高齢者寸前、和平が前期高齢者寸前ということになる。だが今の60代前半までは若々しい。そんな中、成瀬だけが立派な前期高齢者で、後期高齢者との狭間にいて、まだ元気ではあるものの、自らの「老い」をもっとも感じている年代だ。75歳の壁と言われるように、健康をもっとも害しやすいのが75歳以降。

◆ニュースをにぎわせる「暴走する高齢者」

 たまたまではあるが、三浦友和が73歳だったから成立したとも言える。年齢を受け入れながらも、まだ自らの「若さ」を信じる面もあり、自分の心の変化を客観的に見つめる冷静さと知性と理性がある。

 暴走する高齢者の話がときどきニュースをにぎわせるが、なぜ暴走するかというと理性を司る大脳が衰え、ストッパーが効かなくなるからだという。成瀬にはその片鱗もない。知性と理性、そして冷静さが自らを抑え込むのではなく、自らを客観的に見つめておもしろがることを可能にしているのだ。

 70代であろうと恋はする。胸がチクチクすることさえおもしろがれれば、その恋は素敵なものになるはずだ。時代の変化、自らの心の変化、変わることへの興味と関心を失なわず、真正面から受け止めることこそが、大人の恋なのかもしれない。

◆70代の素敵な恋は、ドラマの中だけじゃない

 実際、72歳の男性とつきあい始めて1年たつユカリさん(70歳・仮名)は、深く静かに続く恋を楽しんでいる。

「ふたりとも今は独身ですが、恋を燃え上がらせようという意図は特にないんです。好意を抱きあっていることはわかっていて、これは恋だという認識もある。でもその先に進もうとは思っていない。なぜなら相手が大事だし、今のまま静かに潜行したほうが長続きするから。徐々に相手を知っていくのがとても楽しいんですよね」

 結婚という日常生活がほしいわけではない。ふたりともひとり暮らしだが、子どもやきょうだいが近くにいる。彼のことは友だち以上恋人未満として、子どもたちにも紹介している。

◆気持ちが動くのは、生きている証拠

「人生を大きく変えたいわけじゃない。ただ、彼とつきあうことで今までと違う心の張りとか、自分でも思いもよらなかった感情とかがあふれてきておもしろいんです」

 ふたりは地域の趣味のサークルで知り合った。ときどきふたりで会うようになってから、彼が他の女性と話しているのを見たとき、ほんの少し嫉妬した。

「ほんの少し、なんですよ。胸が痛んだ。あ、嫉妬なんて何十年ぶりの感覚だろうってうれしくなっちゃった。それを彼に言ったら、『僕だって、あなたが他の男性を親しそうにしていたら嫉妬するよ』って。

 気持ちが動くのは、生きている証拠。長い間、自分の中でわき起こる新しい感情を、経験則で処理してきたような気がするんですよ。驚きもないままに。でも恋って本当に生身のものだから、感情の揺れを体で感じるところがある。それが驚きだし、新鮮だし。自分が70代だなんてことは忘れてしまいますね」

◆彼と私との間に、ベタついたものがあってはいけない

 それでもふたりとも理性をなくして恋に溺れようとはしない。サークル内ではふたりが仲よくしているのを周りも知っているが、「佇まいが素敵なふたり」と言われたそうだ。それがとてもうれしかったとユカリさんは言う。

「彼を大事に思う気持ち、愛する気持ちは言葉にできないくらいあります。でも、そういうナマな感情は自分の中で処理すればいい。ベタついたものが彼と私との間にあってはいけないような気がするんです。若い人たちの恋は見ているだけできれいで躍動感があるけど、それは私たちにはもうない。だからこそすっきりした空気をまとっていなければ、恋が汚いものになる」

 ユカリさんはそう言いきる。その「すっきりした空気」こそが、理性や知性なのだろう。重々しい感情をさらりと笑いとともに流すコツ、我慢せずに粋に振る舞える技術、つまりは感情と理性をどう配分しながらコントロールしていくのか。無意識に振る舞いながらも、それが素敵に見えれば、それはその人の生き方そのものなのだろう。「ベテランの大人」は、すべての言動に、これまでの人生の成果がつまっていると自覚したほうがいいのかもしれない。
<文/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio

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