英Queen Mary University of Londonなどに所属する研究者らが発表した論文「Genetics of monozygotic twins reveals the impact of environmental sensitivity on psychiatric and neurodevelopmental phenotypes」は、一卵性双生児を用いたゲノム解析により、精神疾患や神経発達障害における環境の影響と遺伝子との関係を明らかにした研究報告だ。
一卵性双生児は遺伝的にほぼ同じであるにもかかわらず、性格や病気のなりやすさに違いが生じることがある。この違いは環境の影響によるものだが、環境への反応の仕方にも遺伝的な個人差(環境への感受性に関与する遺伝的要因)があるのではないかという疑問から今回の調査が行われた。
研究チームは11の研究から集めた2万1792人の一卵性双生児(1万896ペア)のデータを集め、ADHD症状や自閉症的特徴、不安症状、うつ症状、精神病様症状(妄想や幻覚など)、神経症傾向、ウェルビーイングという7つの特徴について、双生児間の差異とゲノムワイド関連解析(GWAS)を組み合わせた分析を行った。
その結果、ある双子のペアでは2人の間でうつ症状にほとんど差がない。しかし別の双子のペアでは、2人の間で症状に大きな差が出る。この「双子間の差の大きさ」の違いこそが、遺伝的に決まっているという発見があった。
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つまり、環境の影響を受けやすい遺伝子タイプを持つ双子は、わずかな環境の違いでも大きな差が生じ、環境の影響を受けにくい遺伝子タイプを持つ双子は、環境が多少違っても似たような状態を保つのだ。
解析の具体的な結果は、環境への反応の仕方に影響する13の遺伝的要因を発見。例えば、うつ病に関連する「PTCH1」という遺伝子は、ストレスへの反応の個人差に関わっていることが分かった。この遺伝子の特定のタイプを持つ人は、同じストレスを受けても、より強く反応する可能性がある。
不安症状では「C15orf38」という遺伝子が関与。この遺伝子は体内のストレスホルモンの調節に関わっており、同じ状況でも不安を感じやすい人とそうでない人の違いを説明する可能性がある。
自閉症的特徴では、脳の発達に重要な成長因子に関連する遺伝子群が見つかった。これらの遺伝子の働き方の違いによって、社会的な刺激への反応の仕方に個人差が生じると考えられる。精神病様症状では、脳内物質ドーパミンの調節に関わる遺伝子が関与していた。
興味深いのは、うつ病になりやすい遺伝的体質を持つ人ほど、環境によってうつ症状の現れ方が大きく変動することだった。この傾向は大人で特に強く、子どもではそれほど顕著ではなかった。これは、年齢によって遺伝と環境の相互作用の仕方が変わることを示唆している。
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この研究成果は科学雑誌「Nature Human Behaviour」に6月10日付で掲載された。
Source and Image Credits: Assary, E., Coleman, J.R.I., Hemani, G. et al. Genetics of monozygotic twins reveals the impact of environmental sensitivity on psychiatric and neurodevelopmental phenotypes. Nat Hum Behav(2025). https://doi.org/10.1038/s41562-025-02193-7
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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