100円ショップ、輸入雑貨、アパレル…手がける事業失敗続き　借金抱えた元アイドルが40代目前に裏方を選んだ理由

「人間、一人では生きていけません」

【写真】「腐ったミカン」直江喜一と44年ぶり共演したひかる一平

「芝居を使った人づくり」をコンセプトに掲げる芸能事務所「スカイアイ・プロデュース」の代表ひかる一平（61）は、元アイドル。

映画主演は43年ぶり、カメラの前で演技するのは7年ぶりという『還暦高校生』が6月27日から公開される。俳優として久々の表舞台だ。

莫大な借金を背負って

TBS系連続ドラマ『3年B組金八先生（第二シリーズ）』（1980年）の生徒役でデビューし、アイドル歌手としても人気を博した。ジャニーズ事務所退所後は『必殺仕事人』シリーズにレギュラー出演。個性派俳優として本格的に俳優の道を歩んでいたのに、なぜ裏方へと方向転換したのか。

「芸能人のセカンドキャリア形成は難しいです。日本の芸能界は仕事がない人が多すぎるのが現実。いくつになっても夢を追いかけてアルバイトしながら俳優を続けている人が今も大勢いますから」

かくいうひかるも辛酸を舐めてきた当事者だ。生活の安定を求めて100円ショップ、輸入雑貨店、服屋の経営に乗り出すも、儲かったのは最初だけ。残ったのは莫大な借金だった。

その後ハウスクリーニング経営が当たり借金は返済できたものの、気付いたら40代目前。表舞台から退き後進を育てる側に回ったきっかけは、知人に誘われて始めた子役への演技指導。育成という形でも芸能の仕事が自分には向いている、と改めて理解した。

独立して「スカイアイ・プロデュース」を立ち上げたのが2012年。資金も場所も何もないゼロからのスタートだったが、今では所属タレントも100人を超えた。会社設立13年目にしてようやく軌道に乗ってきたわけだ。

「ここにたどり着くまでが本当に大変でした。テレビ局に営業に行くと俳優時代は顔パスでしたが、初めて廊下で待たされました。『俳優としてはベテランとして扱うけれど、裏方としては新人だから』と言われて」

人生は勉強の連続

しかし今ではその言葉が初心を思い出す金言になっている。

「自分には芸能界でのキャリアがそれなりにあったわけで、裏方の仕事なんていくらでも舞い込んでくると甘く見ていました。でもよくよく考えると、それまでのキャリアなんて自分ではなく周りのお陰でしかなかった。所属事務所の後ろ盾に助けられ、そこを辞めた後は『必殺』の仲間たちに支えられ救われた。今の会社を立ち上げた時もいろいろな人に助けられました。映画や舞台を作るのと同じで、どんな仕事も一人でできるものなどありません。人間、一人でなど生きていけないのです」

芸能事務所経営の傍ら、東邦音楽大学では非常勤講師として対人関係向上を目的としたコミュニケーション学を教えている。この仕事も人と人との縁で得たもの。『3B』で知り合った音楽家・城之内ミサからの推薦がきっかけだった。

「俳優の卵とはまた違った彼らに演技を通したコミュニケーションを教えるのは僕自身の刺激にもなります。若い子たちと接することでこちらも若くいられますから。僕は芸能の仕事をしていて高校もろくに行っていないので、学生に教えるためにいろいろと勉強しています。どのように伝えれば僕の言葉が届き、生徒たちが楽しく学んでくれるのか。大学では生徒からの通信簿もあるので負けてはいられない。人生ずっと勉強です」

老体に鞭打ち還暦高校生役

実るほど頭を垂れる稲穂かな。「芝居を使った人づくり」というコンセプトは、ひかるが紆余曲折の半生の中で辿りついた真理なのだろう。

「芸能界、ひいてはお芝居の世界とは夢のある場です。そこでしっかりと食っていけるような俳優、公的な書類の職業欄に胸を張って“役者”と書ける表現者を育てたい。それが僕の夢。諸先輩方からの良い教えを若い世代に継承する。ある意味で僕からの芸能界への恩返しでもあるんです」

43年ぶりに主演した映画『還暦高校生』では、42回留年している還暦の高校生という“笑撃的”役柄に挑戦した。

「笑える映画としか言えませんが、おふざけではなく真面目に真剣に昭和の学園ものにリスペクトを込めています。老体に鞭打って高校生を演じている姿を見てください」

61歳の元アイドルは朗らかに笑った。

（まいどなニュース特約・石井 隼人）

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