
Aさんが店長を務めるファミリーレストランは、週末のランチタイムになると家族連れや若者たちでいつも満席になります。その日も例外ではなく、店内は活気と美味しそうな匂いに満ちていました。次々と入るオーダーをこなし、スタッフたちが忙しく立ち働くいつもの光景がそこにはありました。
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しかし、突然の男性客の怒鳴り声がいつもの光景を一変させます。Aさんがホールに出て状況を確認すると、入ったばかりのアルバイトの学生が、中年男性のお客様の前で青ざめた表情で立ち尽くしています。どうやら「ハンバーグのソースを間違えて提供してしまった」という単純な配膳ミスが原因のようです。
ただ、ミスの内容から想像もできないほどに、男性の怒りは常軌を逸していました。真っ赤な顔で仁王立ちになり、アルバイトに向かって責任者を呼ぶよう叫んでいます。
慌てて駆け寄ったAさんが、アルバイトの代わりに謝罪をしようとすると、男性の怒りの矛先はAさんに向かいます。男性は「お前もこのアルバイトと一緒に土下座しろ」と信じられないような要求を突き付けてきます。
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Aさんは警察を呼ぶべきかとも考えましたが、事を荒立てて店の評判に傷がつくことを懸念し、すぐに行動できませんでした。このように怒った挙句に土下座の強要をしてくる客は、法律的にどう判断されるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
土下座強要で逮捕された事例も
ーこの客がおこなっている行為はカスタマーハラスメントに該当しますか?
そもそもカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、顧客や取引先等からのクレーム・言動のうち、要求内容の妥当性に照らして、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不当なものであって、手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」のことを示します。
そのため、この客の言動はカスハラに該当します。
ー客による土下座の強要は法的に問題はありますか
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カスハラであることはもちろんのこと、土下座の強要は「強要罪」(刑法第223条)に該当する可能性が高いと考えます。強要罪は、相手を脅迫したり、暴行を加えたりして、義務のないことを行わせた場合に成立します。
このケースでは、客が店員に対して怒鳴り声をあげていた点が脅迫行為にあたり、土下座という義務にないことを強いている形になります。したがって、この客の行為は強要罪の構成要件を満たす可能性が高いのです。
また、客の行為により別の客が帰ってしまったり、営業が困難になったりした場合には、威力業務妨害罪に問われる可能性もあります。店側が退去を求めたにもかかわらず、居座り続けた場合には不退去罪の成立も考えられます。
ー土下座強要で逮捕されたり、有罪判決を受けたりした事例はありますか?
2013年には衣料品店で店員に土下座をさせ、その様子をSNSに投稿した女性客が逮捕されました。またコンビニで接客態度に腹を立て、土下座を強要した上にタバコを脅し取ろうとした男性が逮捕された事例もあります。
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これらの事例が示すように、土下座の強要は単なる「行き過ぎたクレーム」ではなく、警察が介入し、刑事罰の対象となる明確な犯罪行為なのです。
ー土下座を要求された場合、どのように対応すればいいでしょうか
大声で怒鳴られたらパニックになるのもわかります。それでも気持ちを強く持って、冷静に対応することが重要です。まずは相手の要求には応じず、毅然と断りましょう。仮にこちらにミスがあったとしても、土下座までする筋合いはありません。
また従業員1人で対応せず、心身の安全を確保することも大切です。相手の興奮が収まらない場合には、警察に通報しましょう。可能であれば証拠を確保することも重要です。
客からのクレームには真摯に対応すべきですが、従業員の人格や尊厳を踏みにじるような要求に応じる必要は一切ありません。毅然とした態度で臨み、従業員と店を守りましょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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