地元フランスではWECスパで見せた速さを発揮することができなかったプジョー9X8(プジョー・トタルエナジーズ) 2025年WEC第4戦ル・マン プジョー・スポールのテクニカルディレクターであるオリビエ・ジャンソニは、6月14日から15日にかけて行われたWEC世界耐久選手権第4戦『ル・マン24時間』においてプジョー9X8が競争に参加できなかったことを受け、シリーズにおけるプジョーの将来について、自身が考えるふたつの選択肢を説明した。
■性能調整でスパでの速さを失ったプジョー9X8
プジョーはWECの一大イベントであるル・マン24時間を前に、8社のハイパーカーメーカーのなかでもっとも悪い予選結果を記録。レースペースは多少改善されたものの、最高順位は11位(50号車フェラーリ499Pのレース除外後)に留まる結果となった。
この結果はロイック・デュバル、ストフェル・バンドーン、マルテ・ヤコブセンがドライブする94号車9X8がほぼノントラブルで走行を続けたのに対し、93号車はポール・ディ・レスタの早朝のコースアウトと、レース後半のステアリングラック交換によって遅れを余儀なくされたことによるものだ。
プジョーのドライバーたちは明言こそしなかったものの、レース前やレース中に、第3戦スパでプジョーに有利に働いたBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)が、今回はとくにストレートスピードにおいて9X8に他車と勝負を余地を与えないことを明確に示していた。
そうした背景を踏まえ、ジャンソニはレギュレーション面での変更が必要だと考えており、BoPか、ハイパーカークラス開発を制約する複雑なホモロゲーションとエボ・ジョーカーのシステムのいずれかの変更を提言した。
「正直なところ、プジョーがル・マンで勝つ立場にない状態でWECに参加するのは意味がない」とジャンソニはレース前に記者団に語っている。
「解決策を見つける必要がある。選択肢はふたつだ。ひとつはル・マンでのクルマの性能調整の方法を劇的に変更すること。もうひとつは我々が何か異なることをするのを許可することだ。いずれかの選択肢がいつか実現する必要がある。それが唯一の道だ」
「我々はまだパフォーマンスを向上させている最中だ。しかし、ライバルとのギャップを見ると、それは車高やスプリング、ダンパーといったセッティングで埋められるようなものではない」
ジャンソニのコメントはACOフランス西部自動車クラブの年次記者会見の直後に発表されたもの。そして既存のハイパーカー規定が2032年まで延長されることは確認されたが、追加のホモロゲーションやエボ・ジョーカーについては言及されていない。
同氏はプジョーが規則下でメーカーに許可されているひとつの新規ホモロゲーションをすでに使用済みであることを明確にした。また、今年のサスペンションのアップデートで5つのエボ・ジョーカーをすべて消費したとのうわさを否定しなかったものの、今後のFIA国際自動車連盟とACOの議論において、ジョーカーの数を追加する可能性が議題になるだろうと述べている。
「これらは彼らと議論する必要がある問題だ」と続けるジャンソニ。「新規車両の承認を許可するかどうかは、つねに規則を定める彼らの裁量に委ねられている」
「彼らはそれを承認する責任があり、それについては正しいことだと思っている。最終的に、彼らはホモロゲーションの条件下で、バランスの調整や、誰が何をできるかを管理している」
■WECへの参戦継続はブランドと取締役会の願い
5月に行われた第3戦スパ6時間レースにおいて、新任のプジョーCEOアラン・ファヴェイと、ステランティス・モータースポーツ責任者のジャン・マルク・フィノーは、プジョーが当面はWECへのコミットメントを維持すると発言し、2027年にプジョーに代わるステランティスブランドが導入されるという憶測を否定した。
ル・マンでフィノーは次のように述べた。「我々の願いは長期的なコミットメントだ。これはプジョー・ブランドと、プジョーの取締役会の願いだ」
「しかし、長期的なコミットメントを実現するためには、競争力のあるツールが必要になる。良い道を見つけるために議論が必要だ」
「目標は明確だが、その道は極めて詳細に示さなければならない」
ジャンソニは、プジョーのル・マンでの競争力不足を「大きな驚きではない」と述べたが、昨年から9X8の進歩を示せないことへの不満を認めている。
「我々のマシンは2024年から大幅に改善されたと思う」とジャンソニ。「一部の領域ではまだ苦戦しているし、競争相手がより強くなっていることもあってトラック上ではそれが現れていない。正直なところ、チームにとって報われない状況だ」
昨年まで弱点となっていた高速コーナーでの改善については、同氏はこう答えている。
「その点は実際、大幅に改善することができた。しかし、昨年持っていた強みが今では弱点になっている。ストレートスピードがあまりに不足しているんだ」
[オートスポーツweb 2025年06月20日]