芝居とは思えない。鈴木唯から目が離せない映画『ルノワール』は11歳の少女が大人の世界を垣間見るひと夏の物語です

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2025年06月21日 00:30  Pouch[ポーチ]

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【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、映画『ルノワール』(2025年6月20日公開)です。演出・脚本は第75回カンヌ国際映画祭・ある視点部門カメラドール特別賞を受賞した『PLAN 75』の早川千絵監督。本作の主人公・11歳のフキ役はオーディションでヒロインに選ばれた鈴木唯さん。彼女が本当に素晴らしかった!

では、物語から。

【物語】

11歳のフキ(鈴木唯さん)は、父の圭司(リリー・フランキーさん)と母の詩子(石田ひかりさん)と郊外の家で3人暮らし。

お父さんは闘病中で入退院を繰り返し、お母さんは家事と仕事と看病に追われ、いつもバタバタしています。

フキはそんなお母さんの代わりに入院中のお父さんのお見舞いに行って、ほかの患者さんに頼みごとをされたり、同じマンションに住む久里子(河合優実さん)の悩みを聞いたり、さまざまな場所で大人の世界を垣間見ていくのです。

そんなある日、フキは伝言ダイヤルのメッセージを聞くことに夢中になり……。

【11歳の女の子の心の成長】

早川千絵監督の前作『PLAN 75』は、75歳以上の国民に死の選択を迫る物語でしたが、本作はフキという少女のひと夏の物語。彼女が周囲の大人たちと関わり、心揺れながらも、自分らしく生きていく姿を綴っています。

正直、フキを取り巻く環境は決して明るいものではありません。お父さんが突然倒れて救急車で運ばれたり、お母さんは看病と仕事の板挟みで悩んだり……。フキはそんな大人たちの言動に何かを感じながら生きているのです。

私もフキくらいの年齢のころ、大人たちが話していることについて興味津々で聞き耳を立てて「どういう意味だろう」と考えたりすることがあったので、フキの心が微妙に反応していることがわかりました。そうやって子どもは大人の世界を垣間見て、何かを感じている。それもまた成長に繋がっているのかなと思いました。

【鈴木唯さんの素晴らしさ】

人は未知の世界に興味を持ち、覗きたい願望があることもフキを通して描いています。彼女は伝言ダイヤルのメッセージに興味を持ち、それをきっかけに薫(坂東龍汰さん)という青年と繋がりを持つようになります。

フキと薫のシーンはいちばんドキドキしましたね。SNSを通して知り合い、危険な犯罪へと繋がっていく事件があるので、もしやフキも……と想像しちゃって。

そんなふうにフキの周りで起こる出来事、それに対するフキの言動がこの映画の中心ですが、彼女は多くは語りません。全て表情と数少ない言葉で表現していくのですが、それが芝居しているように見えないんですよ。「フキ=唯さん」としか思えないし、そんな彼女から目が離せないんです。

鈴木唯さんは早川監督がオーディションで見出した俳優。監督は唯さんの魅力に魅せられて、彼女に合わせて脚本がどんどん変わっていったそうです。

【80年代の懐かしさ】

本作の舞台は80年代。美術、衣装、文化、人間関係にも時代が投影されています。

フキは超能力者が登場するテレビ番組が大好きで、入院中のお父さん相手にテレパシーの練習をしたり、近所に暮らす久里子の悩みを催眠術で引き出そうとしたりします。そういえば当時、ユリ・ゲラーとか流行っていたなぁと思い出しました。

フキは好奇心から超能力にも興味を持ったのかもしれませんが、もしかしたら、不思議な力に “希望” を見出したのではないかとも思いました。

ひとりの女の子のひと夏の物語は、80年代のノスタルジーに浸れると同時に、さりげなく厳しい現実も描いています。が、何より見どころは鈴木唯さんの魅力。その輝きをぜひスクリーンで感じてください!

執筆:斎藤香(C)Pouch
Photo:© 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

『ルノワール』
2025年6月20日(金)より全国ロードショー
監督・脚本:早川千絵
出演:鈴木唯、石田ひかり、中島歩、河合優実、坂東龍汰、リリー・フランキー

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