森永製菓の「チョコモナカジャンボ」(参考小売価格184円)は、年間約2億個を販売する人気商品だ。発売から半世紀を超えるロングセラー商品であり、近年は訪日外国人からの人気も高い。海外著名人らによるSNS投稿でも話題になるなど、「日本に来たら食べるべきアイス」としての地位を確立しつつある。なぜ、国内外から圧倒的な支持を得ているのか。
人気の秘密は、2001年から続く「鮮度マーケティング」と呼ぶ独自の取り組みにある。賞味期限がないアイスで「鮮度」にこだわる戦略は異例ともいえるが、取り組み開始後は、20年間で売り上げが約5倍に伸びた。
通常、アイスは夏の最盛期に在庫を切らさないよう2〜3カ月前から大量に生産し、冷凍保存しておくのが一般的だ。しかし、同商品は「製造から5日以内の工場出荷」を目標に掲げる。
「当時から、できたてのほうがおいしいという認識が社内にあった。できたてに近い状態で届けられれば、よりおいしさが伝わるのではないかと考えた」と冷菓マーケティング部の中村望さんは振り返る。
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2000年代初頭にビール業界で話題となった鮮度訴求をヒントに、取り組みを開始した。背景には、バニラアイスに含まれる水分がモナカに移ってしまい、時間とともにチョコモナカジャンボならではのパリパリ食感が損なわれてしまうという課題があった。
●「受注生産」に近い販売形態で鮮度を維持
鮮度マーケティング戦略を支えるのが、独自の製造と出荷体制だ。夏の需要を見越して事前に大量生産するのではなく、その日に売れる見込み分だけを製造・出荷する、ある意味で受注生産に近い販売形態を採用している。
最盛期の7〜8月には、チョコモナカジャンボを最優先とする製造体制に全社がシフトする。天候や気温で需給が大きく変動する夏場でも柔軟に対応できるよう、同商品のために人的・設備的リソースを優先的に割り当てている。他のアイス製品については、事前に計画的に製造し、冷凍保存している。
「製造から5日以内の出荷目標」を実現するには、精緻な需給予測が必要になる。そこで同社は、2017年から日本気象協会と提携し、気象データとチョコモナカジャンボの過去の出荷データからAIが分析を行い、需要を予測している。全国一律ではなく、9つのエリアごとに気象予測や最高気温を算出している。
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例年より気温が1度下がるだけでも売れ行きに影響するため、微細な変化への対応が求められる。
ただし近年は、気候変動の影響で予測は困難になっていることから、過去のデータよりも直近の状況を重視して判断せざるを得ない状況になっている。猛暑日のように気温が極端に高い日には、消費者が外出を控える傾向も強まるほか、アイスの中でも氷菓系商品の需要がより高まるなど、夏のアイスニーズにも変化が見られる。
●5年をかけて「チョコの壁」技術を開発
チョコモナカジャンボはモナカの「パリ」とセンターチョコの「パキ」という複合食感が特徴で、この独特の食感が競合製品との差別化要因となっている。このできたての食感を消費者に届けるために開発されたのが「チョコの壁」と呼ばれる独自技術だ。
アイスは約60%が水分のため、時間の経過とともにモナカに染み出し、パリパリ食感が損なわれてしまう。この問題を解決するため、バニラアイスの両側面をチョコで覆い、モナカの隙間からの吸湿を防ぐ仕組みを開発した。
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開発には5年を要した。当初は姉妹品の「バニラモナカジャンボ」(参考小売価格184円)で実現したが、チョコモナカジャンボはセンターチョコを挟むため上下のバニラアイスが分離した構造になっており、技術応用が困難だった。
最終工程でチョコをモナカの隙間に流し込む際には、アイスが冷たいためチョコがすぐに固まってしまう。そのため、チョコの粘度や温度、さらにはアイス側の温度設定も極めて重要となる。「緻密な計算のもとにチョコの壁をつけるのが大変だった」と中村さんは振り返る。2025年2月には食物繊維原料を追加し、防湿性がさらに向上した。
開発を支える「ジャンボ職人」と呼ばれる専門チームもあり、店頭で販売するチョコモナカジャンボのモナカを削り、水分値を日々チェックしている。職人は水分値を0.5%の誤差で言い当てるほどの技能を持つという。さらに同社は感性研究も実施し、骨伝導音や脳波測定により、パリパリ音が「心地よい」「おいしそう」というポジティブな感覚を引き起こす可能性も指摘している。
技術と徹底した品質管理に加えて、感性にもアプローチ できている点が、他社には真似できない独自性を生み出している。
●「日本でしか食べられない」価値を訴求
チョコモナカジャンボは海外からの評価も高い。2021年の東京オリンピックのために来日した海外記者が絶賛したことをきっかけに商品が認知され、2025年2月には海外の著名ゲーマーが自身のSNSでチョコモナカジャンボを「人類史上最高の発明だ」と紹介し、そのインプレッションは1000万を超えた。
3月には来日したメジャーリーガーもSNSに投稿して話題になったほか、同月には東京の浅草寺でサンプリングを実施。2日間で2万5000個を無料配布したところ、両日とも2時間ほどで終了するなど大盛況だった。
「日本でしか食べられない」という希少性を持たせていることが、インバウンド向け戦略の核といえる。海外での生産・販売は行わず、訪日時の特別な体験として位置付けている。
同社は今後も主要観光地でのサンプリングを検討しており、寿司やラーメンのような「日本に来たら食べたくなるインバウンドフード」を目指している。「日本に来たら食べるべきものの1つになれたらいい」と中村さんは展望を語る。
●「姉妹商品」のブランディングが課題
一方で、ブランディング面における課題もある。2013年から発売する姉妹品「バニラモナカジャンボ」だ。「チョコモナカジャンボから、チョコを抜いただけと思われがちで、損した気分になるから買わないという意見が多い」と中村さんは語る。
同社によると、バニラモナカジャンボのほうが原価も高いという。しかし、その違いが十分に伝わっていないのが現状だ。
実は、使用しているバニラアイスのグレードもそれぞれ異なる。チョコモナカジャンボはチョコとのバランスを考えてアイスミルクを採用しているが、バニラモナカジャンボは、よりリッチな乳脂肪分が高いアイスクリームを採用している。
モナカにもアーモンドパウダーを入れて洋菓子風にするなど、バニラアイスと合う品質にこだわっている。
筆者もチョコの有無だけの違いと思っていたが、実際に食べ比べるとその違いがはっきりと感じられた。バニラモナカジャンボのバニラアイスはより濃厚で、チョコモナカジャンボのバニラアイスは、センターチョコとのバランスを重視した設計になっている。
同社は「バニラモナカジャンボのほうが原価が高い」という動画をSNSで発信するなど、大胆な手法で差別化を訴求し、バニラアイス好きの顧客層を取り込むことで、ブランド全体の成長を目指す方針だ。
コストの上昇や気候の変化による出荷予測の難しさなどの課題もあるが、森永製菓はパリパリ食感のさらなる向上を目指して取り組んでいる。「チョコモナカジャンボはまだ完成されていない」を合言葉に、現在も吸湿遅延技術の検討を進めている。
年間2億個という販売実績を誇るチョコモナカジャンボは、「鮮度」にこだわる戦略で成果を上げてきた。加えて、近年では「日本でしか食べられないアイス」というブランディングでインバウンド市場も開拓しつつある。寿司やラーメン、焼き肉など、訪日客に人気の定番フードの中に、チョコモナカジャンボが加わる日もそう遠くないかもしれない。
(カワブチカズキ)
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