『私たちが光と想うすべて』(C) PETIT CHAOS - CHALK & CHEESE FILMS - BALDR FILM - LES FILMS FAUVES - ARTE FRANCE CINÉMA - 2024 インド映画史上初、第77回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したほか、100を超える世界の映画祭・映画賞にノミネート、25以上の賞を獲得し『私たちが光と想うすべて』。改めて、その“スゴさ”に迫った。
カンヌ国際映画祭で最高賞<パルム・ドール>に次ぐ賞であり、その年を象徴するような強烈な作品が選ばれることで知られている<グランプリ>。
形式やジャンルの枠を超え、時代の空気を鋭く切り取るテーマ性など、ときには観客の心に残る作品がここから生まれ、日本でもスマッシュヒットした『関心領域』(第76回)、『CLOSE/クロース』(第75回)なども、この賞を受賞。ちなみに今年・第78回のグランプリは『私は最悪』のヨアキム・トリアー監督『Sentimental Value』(英題)が選ばれた。
この度、『私たちが光と想うすべて』が7月25日(金)に日本公開されることを記念し、本作をはじめ、近年、強く印象を残したカンヌ<グランプリ>作品群をピックアップした。
<第77回グランプリ>『私たちが光と想うすべて』
女性たちを縛るインド社会のしがらみ
仕事、恋、結婚、友情ーままならない人生に揺れる女性たちを描く
インドのムンバイで看護師をしているプラバと、年下の同僚のアヌ。2人はルームメイトとして一緒に暮らしているが、職場と自宅を往復するだけの真面目なプラバと、何事も楽しみたい陽気なアヌの間には少し心の距離があった。
プラバは親が決めた相手と結婚したが、ドイツで仕事を見つけた夫から、もうずっと音沙汰がない。アヌには密かに付き合うイスラム教徒の恋人がいるが、親に知られたら大反対されることは分かっていた。そんな中、病院の食堂に勤めるパルヴァティが、高層ビル建築のために立ち退きを迫られ、故郷の海辺の村へ帰ることに。揺れる想いを抱えたプラバとアヌは、1人で生きていくというパルヴァティを村まで見送る旅に出る。
神秘的な森や洞窟のある別世界のような村で、2人はそれぞれの人生を変えようと決意させる、ある出来事に遭遇する――。
インド映画として30年振りに第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門入りを果たし、さらにはインド映画史上初のグランプリを獲得したほか、オバマ元大統領の2024年のベスト10に選ばれ、70か国以上での上映が決定するなど、世界中から高評価を獲得した本作。
監督は本作が長編デビューとなるパヤル・カパーリヤー。世代の違う3人の女性たちが、自分たちが直面する様々な束縛から光をみつけ出す姿を詩的でありながら鋭く現実を突きつける唯一無二の美しい映像へと昇華、生きづらい社会に翻弄され続ける世界の女性たちにエールを送るような作品となっている。
カンヌでは審査員長のグレタ・ガーウィグ監督、日本から審査員として参加した是枝裕和監督も本作を絶賛。「ウォン・カーウァイを彷彿とさせる」と評判を呼び、『aftersun/アフターサン』シャーロット・ウェルズ監督、『パスト ライブス/再会』セリーヌ・ソン監督など、若手女性監督たちの作品が世界の映画祭で脚光を浴びる中、パヤル・カパーリヤー監督もまた、世界中から新たな才能として注目を集めている。
第76回グランプリ『関心領域』(英)
戦争加害、無関心が引き起こす惨劇。
戦争を<見ていない者>への問い直しという課題も…
不穏な音、建物から立ちのぼる煙。目に映らずとも、その気配は確かに“こちら側”に伝わってくる。家族の何気ない会話、交わされる視線。その1つ1つから観客が感じ取るのは、恐怖か、不安か――あるいは無関心なのか。
戦争加害、無関心が引き起こす惨劇。ウクライナ戦争の長期化や新たな火種、戦争を<見ていない者>への問い直しという課題も突きつけた、第96回アカデミー賞国際長編映画賞・音響賞も受賞したジョナサン・グレイザー監督による衝撃作。
(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
第75回グランプリ『CLOSE/クロース』(ベルギー)
友情、喪失と再生、痛みと孤独、ジェンダー…
社会のあり方に別の視線を提示する
レオと幼なじみのレミ、13歳。親友以上で兄弟のような関係の2人は、24時間365日ともに時間を過ごしてきた。だが、そのまま同じ中学校に入学した彼らはその親密さをからかわれ、同級生から「付き合ってるの?」と質問を投げかけられる。戸惑ったレオは、レミにそっけない態度をとるようになり距離を置くようになるが、やがて些細なことで大喧嘩をしてしまう。
誰もが多感な時期に経験する、取り巻く世界との違和感、痛みと孤独。社会のあり方に別の視線を提示する、新鋭ルーカス・ドン監督による至極のドラマ。
第74回グランプリ『英雄の証明』(イラン)
SNSの光と闇、社会に潜む歪んだ正義と不条理
借金を返せなかった罪で服役中だった、元看板職人のラヒム。婚約者が偶然拾った金貨で借金返済を試みるも示談は失敗。だが、その後、罪悪感を感じ、金貨を持ち主に返すことになったラヒムは、その行動が「正直者の囚人」としてメディアで話題に。世間の称賛を集め、寄付や就職先の話まで舞い込むが、SNSで広まった噂をきっかけに状況は一転。ラヒムは名誉を守ろうと、小さな嘘をついてしまう――。
“英雄“をめぐる、社会に潜む歪んだ正義と不条理。様々な人々の思惑が交錯する本作は、SNSによって富を得る人、人生を狂わせる人、その光と闇が暴かれつつある“総SNS時代“の真実や倫理、欲望をアスガー・ファルハディ監督が鋭く描いたヒューマン・サスペンス。
『私たちが光と想うすべて』は7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国にて公開。
(シネマカフェ編集部)