
34年間百貨店のお客様相談室で1300件以上のクレームに対応してきた関根眞一さんの著書『カスハラの正体 完全版 となりのクレーマー』から一部抜粋。
ゴルフパンツの裾上げに関するクレーム対応で、冷静さを失いお客様と口論になってしまった責任者の失敗談と、プロフェッショナルな謝罪対応のあり方、そしてクレームを悪化させるNG行動について紹介します。
防げなかった失敗例
大阪での出来事です。ある店舗で、常連の顧客から、ゴルフパンツの裾上げの技術に対して苦情になりました。「なんなの、これは! あれほどキチンと直してって言ってたのに。ほつれたり、長かったり。もうあんたのところではパンツは買わない!」
あまりに大きい声なので、そこにいた全員がこちらを見ました。対応した責任者は、冷静に対応できませんでした。恥ずかしいのもあいまって、腹立たしさがこみ上げます。部下や後輩の前で、まるで自分が失敗したかのような形にされてしまったのですから。
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「いきなりそんなデカイ声で言わなくてもいいじゃないですか! 私が修理したわけじゃないんで、修理場の人に文句言ってきますから」
すると相手は、「そんなんどうでもええねん! あんたが修理してもしなくても、実際こんなんやねんから謝れ」と。
「謝りますけど、修理場の人を呼んでくるから、その人に文句言って」
最悪にも、お客様とマジな喧嘩をしてしまったのです。
結局、そのお客様は怒鳴ったことでストレスを発散したのか、「あんたが悪い訳ちゃうけど、ここの修理はほんまにヘタクソやから客逃がすで、ってゆうといて」と言われ、もう一度やり直してお渡しすることで終わりました。
なにを隠そう、この失敗談の「責任者」はのちに店舗のエースとなった人です。
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この場合、冷静に、「申しわけありません。再度注意しておきます。念には念を入れてチェックしますのでお許しください」と、お答えすればよかったのです。
ですが、この失敗は彼女を大きく成長させました。
立派に成長した彼女から、その後何回もお客様対応のコツを聞いたことがありました。
謝り方にもコツがある
あるとき、百貨店で謝罪現場を目撃しました。その担当者は、入り口の受付カウンター脇で、お客様に長時間、何度も何度も頭を下げていました。
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のちに、その方に話を聞く機会がありました。すると、そのときの記憶はまったくないとのこと。ただ、苦情をいただいた顧客に謝罪をするのに、「周りなどまったく意識しないで行動するのが当たり前」とのひと言でした。
これがプロフェッショナルです。苦情を申し出ても、対応がスムーズにいけばどなたも気持ちが収まるはずです。
「初期対応」を誤ると拡大の原因に
拡大する原因は、初期対応にあります。よくある事例としては、緊張のあまり相手の言ったことを上手く理解できないようなときに起こります。それ以外にも、対応する姿勢、商品の知識不足、常識の欠如、対応に費やす時間等で拡大します。対応技術の未熟さに気づいたら、学び、次回に備えるべきです。普通は、非を素直に認めることと、誠意ある対応でほぼ収まります。
なお、以下の行為が事を大きくする場合があるので、注意しておきましょう。
1.非を認めない
2.言いわけをする
3.責任を転嫁する
4.苦情を聞く態度でない (言葉、眼つき、しぐさ)
5.反省の色がない
6.対応が遅い、または不充分
関根眞一(せきね しんいち)プロフィール
百貨店に34年間在職し、全国4店舗のお客様相談室を担当。こじれた苦情・やくざ・クレーマー・詐欺師等特殊な客を専門に1300件以上の苦情に対応した。
(文:関根眞一)