写真 いつの時代も、次から次へと新しいドラッグが生まれては規制され、当局とのイタチゴッコがやむことはない。5月に新たに指定薬物となったのは、海外で使用されている麻酔薬だった。その正体とは!?
◆路上で若者が痙攣や失神! 新種の麻酔系ドラッグ出現
厚生労働省は5月26日、国内未承認の麻酔薬「エトミデート」を指定薬物に指定し、購入や所持、使用を禁止した。
エトミデートは最近、沖縄県内を中心に新種の危険ドラッグ「笑気麻酔」として蔓延しており、10〜20代の間で広まっていた。
VAPE(電子タバコ)で吸引するリキッドにされた状態で密売されているのが特徴だ。
◆沖縄で流行が拡大。3カ月で150もの押収が
「沖縄県内では昨年頃から『即効性のある脱法ドラッグ』として、主に若者の間で蔓延していました。当局がエトミデートの蔓延を認知したのは、県内で起きた交通事故の捜査がきっかけだったそうです。事故の関係者が酒に酔ったような状態だったために呼気検査を行ったが、アルコールは検出されなかった。違法薬物使用の疑いもあるとして、所持品を調べるなかでエトミデートの成分が混入されたリキッドを発見したのです。さらに同時期に那覇市内などの繁華街でたむろしている少年らへの職質でも同様のリキッドの所持が確認されたのです。2〜4月に、県警は150個のリキッドを押収しています」(沖縄メディアの記者)
その後、5月1日に九州厚生局沖縄麻薬取締支所、いわゆる「マトリ」が記者発表を行い、「死亡例を含む健康被害や異常行動を引き起こす場合がある」危険ドラッグとして、エトミデートの危険性を訴えた。
指定薬物に指定されるまで、所持や使用に関しては“合法”だったため、危機感を募らせたマトリが県警と連携し、摘発事例や危険性を広報。そして、今回の薬物指定に繋がったという流れだ。
◆安価でユーザー層が若すぎる
前出の記者によれば、沖縄県内の小中高への注意喚起が行われていたという。ユーザー層が若いこともあり、当局は迅速に動いたのだろうか。
では、実際に現地ではどのような形で流通しているのか。
「切れ目の早いダウナー系のドラッグが流行っているという話が去年くらいから噂になっていた」と話すのは、沖縄の暴力団関係者だ。
「草(大麻)と似たような鎮静効果があるって話だが、効き目は数秒しかもたないらしい。リキッド1本でだいたい3000円ぐらいで売っているという話だった。那覇の歓楽街の松山にあるクラブにかなり出回っているという話が回ってきていて、一度、うちのシマでも半グレみたいな若いのが売ってる現場を捕まえたことがある。モノは県外から持ち込まれたようだった」
沖縄で流行しているエトミデートだが、実はそれ以前からすでにアジアで社会問題となっていた。中華圏の事情に詳しいライターの廣瀬大介氏は言う。
「香港や台湾でも’23年末くらいから流行り始め、街中で痙攣を起こしながら立つ姿や、道路の真ん中で踊ったり、寝そべる姿などが各地で報告されました。ユーザーは若く、香港では1本6000円くらいで売られていて、中学生の乱用も問題視されています。リキッドはイチゴやマンゴー、カシスなどフルーツのフレーバーが添加され、女性ユーザーが多いのも特徴です」
◆電車内で錯乱してガタガタ震える男性も
現地では「ゾンビVAPE」や「太空油」と呼ばれており、SNSやニュース映像を確認すると、電車内で突然ガタガタ震えだして錯乱する男性や車が行き交う路上の真ん中で踊りだす女性の姿が。
さらに電車内で堂々と吸引し、フラフラになりながら下車、その後プラットホームにぶっ倒れる女子学生を映し出した動画もあった。
公共の場所で意識混濁状態に陥る若者の動画はほかにも多数あり、連日、現地ではニュースで取り上げられていた。
「同じ麻酔薬としては近年、路上でゾンビのようにさまよう大勢の依存症者を生んだフェンタニルの乱用がアメリカで社会問題化していますよね。エトミデートはいわば、アジア版のフェンタニルといったところでしょう」(中華圏の事情に詳しいライターの廣瀬大介氏)
沖縄での蔓延は、台湾との距離が近いことが関係ありそうだが、さらに今、沖縄から本土へ広まりつつある。
◆ゾンビVAPEとは
全身麻酔薬「エトミデート」を混入させた電子タバコのこと。同薬は医療用で日本では認可されていないが、呼吸抑制が起きにくいということで海外ではメジャーな存在だ。本来、注射や点滴で使用されるが、吸引により即効性が高まるため麻薬としても使用されている。
取材・文/週刊SPA!編集部
―[[ゾンビVAPE]密売ルートを追え!]―