2025年F1第10戦カナダGP 角田裕毅(レッドブル) F1での5年目に突入した角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回はカナダGPの週末を振り返る。
──────────────────
レッドブルの2台目のシャシーには呪いがかかっているのか? かわいそうな裕毅は、カナダでようやく、イモラ以来マックス・フェルスタッペンが使用していたアップグレード一式を受け取ったにもかかわらず、土曜午前のフリープラクティスで走行時間を失い、物議を醸すグリッドペナルティを受けたことで、実質的に最後尾からのスタートとなった。
2台がピットレーンスタートをしたことで、角田は18番グリッドからのスタートになり、結果は12位だった。
誰にでもこういう時期はある。何をやってもうまくいかず、悪いことばかりが起こる数週間、あるいは数カ月という期間が。
確かに、角田はイモラのQ1開始直後に不必要にクラッシュしたせいで、RB21の新型空力パーツの大部分を壊してしまい、旧仕様を使わざるを得なくなったのは事実だ。しかし、レッドブルが新しい部品を製造するのに丸1カ月も必要としたのは不可解だ。
モントリオールのことに話を移そう。シミュレーターでの作業を経た後、角田はFP1では一切リスクを取らず、その慎重なアプローチにより、11番手となったが、チームメイトのフェルスタッペンからは0.7秒以上も遅れており、角田にまだ改善の余地があることが明らかだった。
FP2ではセットアップが変更され、しかも悪い方向に変わったため、角田はその日を15番手で終えた。しかし、フェルスタッペンもチームのセッティングに明らかに不満を示していたため、2人の差は0.3秒未満に縮まっていた。
レッドブルが土曜に向けてマシンを変更したため、角田としては、予選で自信を得るためにFP3において可能な限り多くの周回をこなす必要があった。しかしそこから運の悪さが彼を襲い始めた。技術的な問題により角田はガレージに30分以上も留め置かれ、予選シミュレーションの走行は1回しかできず、自信を欠いた状態で走った彼は、セクター1で非常に遅く、FP3での順位は最下位、チームメイトから1.5秒以上も遅れていた。
それでも、週末を立て直すチャンスはまだあった──角田に厳しいグリッドペナルティが科されるまでは。FP3でオスカー・ピアストリがチャンピオンズ・ウォールにヒットしてピットに戻ろうとノロノロ走っていた時、赤旗下で角田は慎重にその脇を通過した。
この出来事について言えるのは、損傷した車両は即座に停車させるべきであり、ピアストリはそれをしなかったのだから、まず罰せられるべきは彼だったのかもしれないということだ。さらに、ピアストリはこの時、極めて遅く走行し、かつレーシングラインから外れていた。
しかし、そのいずれも考慮されなかった。その結果、予選で11番手という納得のパフォーマンスを見せ、Q2ではフェルスタッペンから0.463秒差と、改良型RB21での走行経験がほとんどない状況としては妥当な差であったにもかかわらず、角田はペナルティにより、最後尾に送られることとなった。
レースでは1ストップ戦略で戦ったが、その賭けは報われなかった。さらに悪いことに、レース終盤の5周はセーフティカーにより実質的に中立化され、順位をさらに上げることは不可能になった。
そうした事情はあるものの、厳然たる事実として残るのは、角田は再びポイントを逃した、ということだ。そして、サマーブレイク前に残るのはあと4戦しかない。
この4戦では、角田は毎回Q3に進出し、これまで以上にフェルスタッペンに接近しなければならない。レーシングブルズのアイザック・ハジャーは素晴らしいパフォーマンスを見せているし、レッドブルは育成ドライバー、アービッド・リンドブラッドのF1昇格への準備を推し進めつつある。
そのため、若き裕毅が今すぐ結果を出さなければ、現在ではなく過去のドライバーになってしまう危険がある。そんな結末を我々は決して見たくない。
────────────────────────筆者ハービー・ジョンストンについて
イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。
悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。
ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。
穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。
[オートスポーツweb 2025年06月24日]