「デートで映画に行き、彼女と来たのを忘れてひとりで帰ってきた」マンガ家が脳内に杉下右京を召喚するワケ

0

2025年06月24日 16:20  女子SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

女子SPA!

写真
「ADHDの特性は、愛犬のようなもの」

こんな言葉ではじまる『すごいADHD特性の使い方』(KADOKAWA)。ADHDとは注意欠陥・多動症のこと。

◆最近よく聞くADHDって何?

具体的には、

不注意……物事に集中できず、忘れっぽい
多動性……落ち着きがなく、じっとしていられない
衝動性……衝動的に動いてしまう

という特徴があります。

「社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもの」と判断されるのが一般的なようです。

医師からADHDと診断されたのが、著者でWEB漫画家のやしろあずきさん。

実際、仕事でも私生活でも、本人的には「どうしてこうなった?」という失敗続きでした。

やしろさんにとってADHDは、「いつなんどきも生活を共にし、人生の苦楽を一緒に乗り越えていく」。

ともに成長し合う、かけがえのない愛犬としてのADHDの日常を、おもしろくも切なく綴ったのが本書なのです。

◆やっかいだけどすごい「愛犬」

やしろさん流にADHDをポジティブに変換すると、

「注意欠如、多動・衝動性、空気が読めない・ズレている、興味がないことは何もできない」
→「発想力・創造力、すごい行動力、常識破りの魅力、好きなことには超絶集中!!」

このようになります。

やしろさんをはじめ、漫画家、歌手、脚本家といったアーティスト系の職業にADHDが多いのも事実です。

自身に備わった特性を才能ととらえ、発揮しているやしろさん。経験に基づいたライフハックを、本書からいくつか紹介しますね。

◆「できない」の先を探そう

ADHDだけでなく、「できない」とあきらめてしまったら、物事はそこで終わります。

ADHDはとりわけ「物忘れが激しい」傾向で、「マジで5秒前のことを忘れる」といったレベル。にわかには信じがたいのですが、常に頭の中で考え事があふれ、重要なタスクが頭の隅に追いやられてしまうというのです。

「デートで映画を観に行った際に、彼女と来たのを忘れてひとりで帰ってきた」とは、やしろさんの実体験。その後、彼女との関係はどうなった?と私は心配になりました。

「できない」を「できるようにがんばる」と努力でカバー。これ、ADHDには難しいです。

努力って普通に疲れるじゃないですか。それよりも、豊かな発想力を駆使して「できない」の先を試すのが先決。アラームをセットする、映画が終わったら彼女にメールしてもらう、など予防線を張っておくのです。

無理に変わろうとしなくても、代替案を次々に実行していく、そのほうが人生は何倍も楽ですし、前向きになれます。

◆「忘れる」を嘆くよりも「思い出す」工夫

公私において時間や約束を守るのは、暗黙のルール。

しかし秒で「忘れる」のがADHD。いいえ、忘れるのではなく、別の考えが光の速度レベルで脳を席巻していくだけなのです。

とはいえ世間的には「忘れる」で片付けられてしまいます。もう「忘れる」を忘れましょう。

やしろさんは脳内に「秘書」を雇いました。優秀なアプリです。しかも「アクションコマンド2つくらいで技が出せるような、工程数が少ないもの」というアプリのみ。

工程が多いと面倒で続きません。シンプルなGoogleカレンダーは最強アプリだそうで、「とにかく毎日開いて見るアプリにTo Doを打ち込む」。リマインド機能は絶対につけましょう。

◆「完璧な返信」でなくてもいい

「ADHDで、LINEやメールの未読が100件単位でたまっている人は少なくないと思います」と、やしろさん。ADHD特有の「先延ばしグセ」の典型例だといいます。

相手によっては、数日あるいは数週間の既読スルーで関係性をあきらめる人もいるかもしれません。

ADHDだけではなく「多忙だからあとで」とか「言いたいことをまとめてから」など、返信を先延ばしにすることは誰にでもあります。

ADHDの場合、当事者の事情とは別にその特性がそうさせているので、やはり「どうしてこうなった?」という混乱や孤独や悲しみなども感じやすいかもしれません。

ただ、記念日や約束といった、重要な返信を先延ばしエンドレスにしてしまうのは、相手だけではなくご自身の生活にも支障をきたします。

対処法は「思いついた瞬間に、完璧を捨てて即行動」。了解!OK!なんならスタンプひとつでも大丈夫。相手と自分に安心感をあたえましょう。

事前の対応策としては、「1日1回、『強制返信タイム』を設ける」「メッセージは返信タイムまで開封・既読をしない」。こちらもリマインド機能で管理して、「即レス」すれば完了です。

「このレスは時間かかりそうだから…」といって後回しにするのは厳禁。やしろさんいわく「脳を通さない。脳に疑う余地を与えない」のが鉄則だそうです。

ADHDの特性をふまえたルールですが、LINEやメールで集中を妨げられたくない人にも有効だと思いました。

◆ADHDと「相棒」

「果たして本当にそうでしょうか?」。このセリフ、知っていますか。大人気ドラマ『相棒』の主人公、杉下右京さんの決め台詞です。

やしろさんは自分を過信しそうになった時、「脳内の右京さんを召喚する」のだとか。この発想も、やしろさんならではのユニークさが光ります。右京さんの口調であのセリフが脳内でこだましたら、確認や見直しを極めるしかないではないですか。

◆人と違うからおもしろい

人と同じことができない、ではなく、人と違うからおもしろい。

ADHDに限らず、人にはみんな個性があって、それぞれ尊重し合って共存していくのが正義。自分で欠点だと思い込んでいたコンプレックスが、本書を読むとプラスに見えて泣けてきます。

巻末の「キミがキミだから『すごい』理由」は、生きづらさを抱えるすべての人の勇気につながるでしょう。

<文/森美樹>

【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx

    前日のランキングへ

    ニュース設定